92話 アルテナ、お宝をぶん投げる。
「アルテナ、ミラ。この先よ、気をつけて」
「ええ」
「うん」
ダンジョンに入りおよそ三日。
十三層まで進んでいた私達は、魔物の反応を見つけ、警戒しながら通路を先に進んでいた。
すると、通路の先に開けた空間が広がっており、その中央には、体長五メートルはある巨大なクリスタルゴーレムが鎮座していた。
だが、その存在感に騙されてはいけない。
魔物の反応は、ゴーレム一体だけじゃない……!
「アルテナ! 上よ!」
上を見上げると、びっしりと天井からぶら下がっているコウモリの軍団がいた。
この魔物はクロウバット。
爪が非常に発達しているコウモリで、集団で奇襲して来る厄介な魔物だ。
『『『『『キキキキキ!!』』』』』
私たちの存在に気付いたクロウバットの軍団は、私達に向け一斉に羽ばたき、同時に巨大クリスタルゴーレムも動き出す。
側から見ればやばい状況だが……。
「ふ、飛んで火に入る夏の虫ね! 詠唱省略! 『炎の網』!」
事前に存在が分かっていたのなら対処は難しくない。
アルテナがすでに準備を終えていた魔法を発動。
空中に炎で出来た、巨大な網を展開する。
『『『『『キキ!?』』』』』
先頭付近にいたクロウバットは止まることができず突っ込み、炎で出来た網によってこんがり焼けたサイコロステーキのようにバラバラになる。
後続はなんとか旋回し、サイコロステーキ化から逃れるも……。
「逃すつもりはないのよね。『風爆』」
網の間を通し、風属性魔法を込めた弾丸を天井に向けて撃つ。
この魔法は、着弾と同時に強風を巻き起こす効果がある。
これ自体に殺傷能力はない。
だが、空を飛んでる相手に使えば……。
ゴオオオオオオ!!
『『『『『キー!?』』』』』
天井から強風が巻き起こり、クロウバット達は地面に向かって吹き飛ばされる。
体制を立て直そうとするものの、強風により飛ぶ制御を失ったクロウバット達はどうする事も出来ず、全員ブレイズネットに突っ込み、美味しく焼かれたサイコロステーキと化す。
よし、クロウバット達は処理完了。
後は……。
「えーい!!」
ドカーーン!!
ミラがオーガブレイカーによる一撃で、クリスタルゴーレムの腕を砕く。
私とアルテナがクロウバットを相手にしてる間、ミラはハンマーを手に単身クリスタルゴーレムと戦っていた。
前回は一撃で破壊していたミラだが、今回はサイズが違う。
リーチも破壊力も増した攻撃に翻弄され、腕を破壊してもすぐに再生されてしまう。
それを見た私は、ミラに向かって叫んだ。
「ミラ! もう一つの新しい武器を使って!」
「うん! 分かったエレン様!」
私の声を聞いたミラはハンマーを収納し、手に石の槍を出現させる。
これは、私が魔法で作った使い捨ての投げ槍だ。
「えーい!!」
ミラは大きく振りかぶり、クリスタルゴーレムに向けて槍を投合する。
槍は、ミラの怪力により凄まじい速度で飛んで行き、クリスタルゴーレムの本体に命中する。
ドーーーーン!!
石の槍は相手に傷一つ付けられず砕けるが、強烈な衝撃をクリスタルゴーレムに与え、後ろに倒すことに成功。
その隙を見逃さず、ミラはハンマーを出現させながら、クリスタルゴーレムの懐に入り込む。
そして。
「これで……止めだよ!!」
ミラはハンマーを縦に振りかぶり、全力を込めて叩きつける。
ドカーーーーン!!!
地面が陥没し、強力な衝撃が周囲に走る。
クリスタルゴーレムはオーガブレイカーの一撃により、粉々に砕け散った。
「や、やったー……!」
ミラは戦いの緊張が切れたのか、手を胸に当て、ホッとした様子を見せる。
「ミラ、大丈夫?」
「よくやったわミラ!」
「エレン様! アルテナ様!」
私とアルテナはミラに駆け寄って声をかけると、笑顔で抱きついてきた。
うん、どうやら怪我はないようだ。
安心した。
「ふ、楽勝だったわね!」
アルテナが腰に手を当ててドヤ顔する。
呑気なものである。
「アルテナ、油断しないでよね。もし奇襲されてたら危なかったわよ」
クロウバットに気付いてなかったら、正直危なかった。
探知魔法のありがたみを噛み締めると共に、これまで以上に警戒を怠らない様気を引き締める。
「よし! あとは素材回収ね!」
「そうね……でも、大半は使い物にならないかも……」
アルテナの魔法により、クロウバット達は焦げたサイコロステーキになってしまったため、全体的に使える部分がない。
うーん……効率良く倒せたものの、素材回収を考えると完全に失敗だった。
まあ、巨大クリスタルゴーレムの素材だけでも十分すぎる程金になるので、ミラに収納して貰えばいいか。
そう思っていると。
「あーーー!!」
突然アルテナが指を刺しながら大声を上げる。
一体何だと思ったら、その方向には赤い豪華な宝箱が転がっていた。
「一体いつ出現したのかしら?」
「あ、エレン様。クリスタルゴーレムを倒した時、中から赤い物が出るのをみたよ」
「じゃあ、ゴーレムの中に入ってたのね……」
素材だけでなく宝箱も出してくれるとは、かなり美味しい敵だったみたいだ。
そう話しているうちに、アルテナが宝箱を私達の前に持って来る。
「よし! 早速開けるわよ!」
「……罠は無いみたいね」
「何が入っているのかなー?」
皆で注目する中アルテナが蓋を開いていくと、中から目が眩むような光が漏れ始め、私たちの期待をさらに押し上げる。
「これは……間違いなくお宝よ!!」
アルテナがそう言いながら、蓋を完全に開くと、宝箱の中に手を入れる。
そして取り出したのは……。
「こ、これは……見なさい二人とも! 黄金の“ツルハシ”よ!! って何でやねーーーん!!!」
アルテナがノリの良いツッコミをしながらツルハシを地面に叩きつける。
宝箱の中身は、持ち手部分から全て黄金で作られた、豪華なツルハシだった。
何というか、このエリアらしいお宝である。
「ちょっと、価値がある物には違いないんだから、粗末にするんじゃないわよ」
「アルテナ様? 何で怒ってるの?」
「そりゃ怒るわ! こんなネタみたいな宝仕込むなんて、絶対このダンジョン性格悪いわ! クソうさぎにも負けないんじゃないのこれ!?」
酷い言われ様である。
だがその一方で、黄金のツルハシを拾い上げたミラがキラキラした目でツルハシを眺めている。
「わー♪ キラキラだー♪」
「ミラ、気に入ったの?」
「うん! ミラ、キラキラしてるの大好き!」
そう言って、ツルハシを大事そうに抱えるミラ。
ミミックはお宝を溜め込んでいるイメージがあるし、ミラもお宝が大好きなのかもしれない。
うーん……そうなるとこれは売れないかも……。
まあ、ミラが気に入ってるならしょうがない。
「ところでアルテナ、今日はそろそろ疲れたわ……。適当な所で休まない?」
今日もダンジョンを歩き続けて疲れたので、アルテナそう提案するものの、「えぇー?」と言った感じでこちらを見てくる。
「採掘に参加してない癖にもう疲れたの? 相変わらず貧弱ねぇ」
「しょうがないでしょう? スキルのせいで体力つかないんだから」
そう言うと、アルテナはやれやれとした感じで頷く。
「ふ、しょうがないわねぇ。じゃあ適当な場所で休みましょうか」
「ええ、そうして頂戴」
「エレン様? 疲れたならミラが抱っこするよ?」
ミラが私を心配してそう言ってくれる。
うん、やっぱり優しい子だ。
……だけど。
「……ミラ、ありがとう。でも大丈夫よ」
年上として、そしてミラの保護者としての威厳は保っておきたい。
よし、もうちょっと頑張って、今日はゆっくり休もう。
よくわからず念の為R-15指定に設定してましたが、やっぱいらないだろうとお思って外しました。
もし不味い描写などあったら教えていただけると助かります




