89話 エレン達、冒険者ランクが上がる
領主の裸土下座事件から一週間。
当然の事ながらその事件は町中に知れ渡り、エミールは笑い者となった。
まあ、自業自得なのでしょうがない。
帰ったその日、アーシャさんには「大丈夫だったか!?」と心配されたものの、結果を伝えたら顎が外れるんじゃないかと思うほど、大爆笑される事になった。
それからは一応報復を警戒しながらも、何事も起きず平和に過ごすことができ、遂にミラの武器が完成。
さらにプラスαでいろいろ用意をした私達は、ダンジョンに挑むため、ギルドの前まで来ていた。
「ふっふっふ、今日から遂に攻略再開ね! エレン! ミラ! 張り切って行くわよ! おー!」
「おー!」
「おー」
アルテナの掛け声にミラは元気よく応え、私は適当な感じで応える。
遂に攻略再開の日が来てしまった。
できるだけ厄介な事が起きませんように……
そう思いながら、アルテナを先頭にギルドへ入る。
いつもの事ながら、朝のギルドは冒険者が多く、その対応でギルド職員も忙しい。
そんな中、いつも通り受付で暇そうにしているマルタを見つけ、私達は歩き出す。
その時、金髪の冒険者がニヤニヤしながら私たちの前に立つ。
「おいおい、ずいぶん可愛い女達じゃねぇか? 依頼に来たのか? 俺が受けてもいいぜ? サービスしてくれるならな、へっへっへ」
いやらしい顔をしながらこちらを品定めする様な目で見つめる金髪の男。
絵に描いたようなキモ男である。
そんな男の前に、アルテナがうっすら笑みを浮かべながら立つ。
「ふ、あんたなんか相手にしてる暇は無いのよ。さっさと退きな……」
「「「「「すいませんでしたーーーーー!!!!」」」」」
「へ?」
アルテナが喋っている途中、突如周りの冒険者がキモ男を引っ張り、連れ去ってしまう。
呆気に取られる私とアルテナ。
そして連れ去られた方向では……。
「お、お前らいきなり何を……!?」
「馬鹿野郎!! お前死にてぇのか!?」
「奴等は貴族の屋敷に押し入って裸土下座させる程やべー奴らなんだぞ!」
「”カタストロフ“の噂、知らねぇとか言わせないからな!」
「や、奴等があの……ひぃぃぃぃ!?」
そんな感じの声が聞こえてくる。
覚悟はしていたが、あの事件は私達に相当悪い印象を植え付けてしまったらしい。
おまけに私達が押し入った事になってるし。
けれど、カタストロフってなんだろう?
「アルテナ様、あの人達どうしたの?」
「ふ、あたし達の名声にビビって逃げたのよ」
「はぁ……。悪名の間違いでしょう」
私はあまり目立ちたく無いのに……。
そう思いながら、約一週間ぶりのマルタと対面する。
「来てやったわよクソうさぎ!」
「おや、やらかし大会優勝最有力候補、ポンコツ代表のポンコツさんじゃないですか! 今日はどうしました!? 今度は何をやらかしに来たんですか!?」
「どうツッコめばいいか分からんわ! 後何でやらかすって決めつけてんのよ!?」
「毎回何かやらかしてるじゃないですか! しかも先日は貴族の屋敷に押し入って裸土下座させるとか! 次の標的は王様ですか!? 国家転覆でも狙っちゃう感じですか!?」
「するわけ無いでしょうが!」
いつもながらハイテンションで無茶苦茶なやり取りだ。
それを見ていると、私の後ろに隠れたミラが、ちょんちょんと私の背中を突いてくる。
何故隠れているかというと、ミラは、マルタに殺すとか捨てた方がいいとか言われたせいで、まだマルタを怖がっているためである。
「エレン様? アルテナ様と……うさぎのお姉さんが喧嘩してるけどいいの?」
「大丈夫よ、喧嘩するほど仲がいいって奴だから」
「そうなの? じゃあアルテナ様とうさぎのお姉さんって、仲良しさんなの?」
「仲良しじゃないわよ!」
ミラがそう言うと、アルテナが即座に否定してくる。
一方、マルタは満面の笑顔になってミラの方を向く。
「いやー実はそうなんですよー♪ だからミラちゃんも、私の事怖がらなくて大丈夫ですからねー♪」
愛嬌を振り撒きながら、ミラに怖くないアピールをするマルタ。
どうやら、アルテナをダシにしてミラとの関係修復を狙っているらしい。
その結果。
「ひ……!? え、エレン様! やっぱりうさぎのお姉さん怖い! すっごく気持ち悪い!!」
「き、気持ち悪い……」
怖がって涙目になり、私に抱きついてくるミラ。
うん、今のは私も気持ち悪かった。
「大丈夫。怖くない、怖くないわよ」
「プ、クソうさぎは一生ミラに懐かれそうにないわね」
「ぐぬぬ……ポンコツさんには懐いているのに納得いきませーん!!」
マルタが悲痛な叫びを上げる。
まあ、しょうがないだろう。
第一印象が最悪だったのだから。
とりあえず話を本題に戻そうとすると、マルタが突然、頭に電球が出たかのように何かを思いつく。
「あ! そうだ! 忘れてました! あなた達にいいお知らせがあるんです!」
「いいお知らせ?」
「ふん、あんたが言う良い知らせなんてロクな……」
「実は先日のブルーオーガ討伐と、ダンジョン十階層突破の功績が認められ、何とあなた達の冒険者ランクが上がる事が決定しました!」
「何ですって!?」
クルッと手のひらを返し、話に飛びつくアルテナ。
「エレン様、冒険者ランクって何?」
「それはね……」
ミラが聞いてきたので、私も確認がてら以下の事を説明する。
簡単に説明すると、冒険者ランクとはその名の通り、冒険者の格を示す値だ。
F〜Sのランクがあり、Fが新人、Cに到達で一人前、A以上は国が認めるレベルとされている。
主に依頼をこなして実績を積む事で、ランクが上がる仕組みである。
ランクが上がれば、それに伴いより難しく、報酬が高い依頼も受けられるようになるので、冒険者は皆上のランクを目指して活動していると言うわけだ。
「……と言うわけよ。わかったミラ?」
「うん、じゃあとってもいい事なんだね!」
「そういう事よ! ふ、遂にギルドもあたし達の力を認めたって事ね! ところで、どのランクに上がったわけ? 最低でもCとか行って……」
「そんなわけで、今日からあなた達は“E”ランク冒険者です! おめでとうございます!」
「……は?」
……折角ランクが上がったと言うのに、何故かアルテナがキョトンとしている。
一体どうしたのだろう?
「わーい♪ Eランクだー♪」
「……アルテナ、どうしたの? もっと喜びなさいよ」
「いや、おかしいじゃないの!? 何でEランクなのよ!? もっと評価されるべきでしょう!?」
「そんな事言われてもですね〜。ランクは一つずつ上がるルールなんですよ? ポンコツさんが何をやっても、FランクがいきなりDランクやCランクに上がるなんてないんですよ。もしかして、自分は特別とか自意識過剰なこと言っちゃうわけですか〜? そんな恥ずかしい人だったんですか〜?」
「そんなつもりじゃ……って、え? あたしって今までFランクだったの……?」
「いや、何で把握してないのよ。ギルドカードにも記載されてるでしょうが」
アルテナが自分のランクを知らなかったことに呆れる私。
「そもそも、何でFランクより上だと思ってたのよ」
「いや、あたし達前にゴブリンキングを倒したじゃない!? あれって一発でランクが上がるくらいすごい功績じゃないの!?」
確かに。
それ自体はアルテナの言う事も一理ある。
だが……。
「それはライラに誘導されて冒険者になる前にやった事でしょう? 討伐したって事は周知されてるけど、冒険者としての実績には記録されてないのよ」
「…………ラーイーラー!!!! どこまであたしを苦しめれば気が済むのよーー!!!」
地面に突っ伏しながらアルテナが叫ぶ。
きっと今頃、ライラが空の上から笑っているような光景でも、頭に浮かんでいるのだろう。
とりあえず落ち込んでるアルテナを起こし、Eランクへの手続きをするため、マルタにギルドカードを提出すると、横にある機械のような物にカードを置き、情報を更新していく。
「あ、そう言えば。折角Eランクに上がった事ですし、正式なパーティ登録も今この場でしちゃいますか?」
「正式なパーティ登録?」
「前にも言いましたけど、三人集まればギルドにパーティ登録をする事ができるんですよね! 従魔とはいえミラちゃんが入った事により条件を満たした事になります! 依頼もパーティ単位で募集する物が多いですし、だったらこの場でしちゃった方が手間が省けますよ?」
なるほど、それなら今ここで登録してしまった方がいいかもしれない。
「ふーん……だとするとパーティ名が必要になるのかしら?」
「ふ、パーティ名ならあたしがいいのを考えて……」
「わかりました! ではポンコツ隊と言うパーティ名で登録を……」
「「「ちょっと待て!!」」
アルテナと同時にツッコむ。
そんな恥晒しなパーティ名にされてはたまったものではない。
「冗談ですって〜! 似合ってるとは思いますけど! でも、実を言うともう決まっちゃってるんですよね〜」
「「え??」」
もう決まっている?
どういう事かと思っていると、マルタからギルドカードを返却される。
そこには、パーティ名「カタストロフ」という名が刻まれていた。
冒険者ランクとか今更な設定……




