表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/123

87話 エミール、一生の恥をかく

「……いたた……」


 何かの衝撃を受け、壁まで吹き飛ばされた私。

 身体中に鈍い痛みが走りながらも、私はゆっくりと起き上がる。


「エレン様! 大丈夫!?」


 心配して、私に寄り添ってくるミラ。


「ええ、大丈夫よ……。それよりも何が……って」


 よく見ると、さっきまで立っていた中央にあるソファーの場所に、こちらに向けて手を突き出したアルテナが視界に映った。

「アルテナ、もしかして私を庇って……」

「いや……そのつもりだったんだけど……敵が現れなかったのよね」

「え? じゃあ何も起こってないのに突き飛ばしたの?」

「あんたに攻撃が来ると思ったから、つい」

「ついじゃないわよ……いたた……『ヒール』」


 とりあえず自分に回復魔法をかけたところで、アルテナがこちらに駆け寄ってくる。


「というかエレン? 敵とか罠の反応はないわけ?」

「そんな物あったらすぐ知らせてるわよ」


 私はずっと探知魔法で周囲を警戒していたが、部屋の中には誰もいないし、魔法がかかった何かもない。

 強いて言えば部屋のすぐ外でブレットさんが待機していることくらいだが、特に動きはないし、こちらへの敵意もなかった。


「はぁ? じゃあさっき、あいつが潜んでいた部下に命令した感じの言葉は何だったの?」

「私が聞きたいわ」


 私達は困惑しながらエミールに視線を向ける。

 すると。


「どういう事だ……早くそいつを始末しろ!!」


 同じく困惑したエミールが、立ち上がりながらこちらを指差し、誰かに命令をする。

 しかし、やはり誰も来ないし、探知魔法に反応も出ない。

 沈黙だけがその場に残った。


「な、何故だ……!? ダヴィド!! 早くそのエレンという女をころ……」

「許さない!」


 ミラが突如怒りだし、エミールに向かって突撃。

 腕を掴むと、なんとエミールを本体の中に押し込んだ。


「ぐわぁ!? 貴様! 何をする!? ここから出せ!」

「エレン様を傷つけた仕返し!!」

「待て!? それは私のせいではな……ぐわぁ!? 何をするー!?」


 一体ミラの中(箱の中)で何が起こっているのだろうか?

 必死に箱から出ようとするエミールだったが、がっちりと閉められた蓋はびくともしない。

 数秒後、蓋が開いたと思うと、中から“裸”のエミールが飛び出した。


「「げ!?」」


 思わず目を逸らす私とアルテナ。

 どうやら、ミラが衣服を全て剥ぎ取ってしまったらしい。


「き、貴様!! 貴族の私にこんな事をしていいと思っているのか!? 服を返せ!!」


 エミールが権力を盾に怒るが、両手で大事な部分を隠しているその姿は、威厳のかけらもなかった。


「嫌だ! お仕置きだもん!」

「はぁ……ミラ……服を返してあげ……」

「ぐ……絶対に許さんぞ! 我がヴェルモン家の名にかけて、必ず貴様らを殺してやるからな!」


 許そうと思ったが、エミール言葉を聞き、私の中の何かが切れた。


「……そう……じゃあ、あなたにはここで死んでもらいましょうか」

「な、なに!?」

「だって私たちを殺すんでしょう? だったらあなたをここで生かしておく必要がないじゃない。追われる理由が貴族殺しに変わるだけだわ。それか、あなたを誘拐して、私達と一緒に逃亡生活を送ってもらうでも良いわね。捕まる時は一緒に死にましょうか(ニコッ)」

「ひ、ひぃぃぃ!?」


 ちなみに、これはさっきの言葉を撤回させるための脅しだ。

 流石に貴族を敵に回すのはまずい。

 これで、私達から手を引いてくれれば……と思ったのだが、その前にエミールは部屋から逃げ出してしまった。


「エミール様!? そのご格好は一体!?」

「キャーーー!?」


 外にいたブレットさんが驚きの声をあげ、近くにいたメイドがエミールの格好を見て悲鳴を上げる。

 

「待ちなさい!」

「こら、逃げんじゃ無いわよ!」

「まだ許さないんだからー!!」


 逃すわけにはいかない。

 後を追い、私達も部屋を飛び出す。


「く、来るな!? 兵士共! あの女達を殺せ!!」

「は! エミール様!」


 エミールが兵士を呼ぶと、正面の通路から大量に現れる。


「まずいわね、このままだと逃げられるわ」

「ふ、ここはあたしに任せなさい! ミラ、体当たりよ!」

「うん、わかったアルテナ様! えーい!!」


 任せろと言っておきながら、ミラにポ◯モンみたいな命令をするアルテナ。

 

「ふ、魔物とは言え、ガキがただ突っ込んできたくらいでぐわぁぁ!?」

「ぎゃぁぁぁ!?」


 油断した兵士が、ミラの怪力により思いっきり吹っ飛ばされる。

 通路という狭い空間のせいで、更に後続の兵士全員を巻き込んだ。

 吹き飛ばされた兵士たちは、ドォォン! という音を出しながら、壁を貫通し、そのまま動けなくなった。


「な、な、な……」


 ここまでとは思ってなかったのだろうか?

 一人巻き込まれずに済んだエミールは、ミラの力に驚愕している。

 

「よくやったわミラ! さあ、今度こそ観念しなさい!」

「く、来るなー!?」


 再びエミールが逃げ出す。

 途中、再び兵士が現れたが、アルテナとミラによりすぐ蹴散らされ、逃げ場がなくなったエミールは、裸のまま屋敷の外に逃げ出した。


「くそーー!!! 誰か!? 私を助け……!!」

「そこまでよ、『空気弾エアーショット』」

「ぐわぁ!?」


 非殺傷性の空気弾をエミールの足に撃ち込み、エミールをうつ伏せ状態で転倒させる。

 エミールがなんとか起きあがろうとした時には、すでに私たちに囲まれていた。


「貴様等!! 私は貴族だぞ!? こんな事をして本当に良いと思っているのか!?」


 さっき言った言葉を繰り返すエミール。

 残ったのは権力だけとは言え、惨めなものである。


「貴族だからって私を殺そうとしたり(不発に終わったけど)、アルテナやミラを強制的に自分のものにして良いと思っているの?」

「貴族が平民に好き勝手して何が悪い!? この町の連中も、私のやり方に満足しているぞ!」

「はぁ? 嘘つくんじゃないわよ。旧居住区の連中を蔑ろにしてる癖に」

「ふん、町に貢献出来ない貧乏人共なぞ知らん! あの区画を潰さないだけありがたくおも……ぐわぁ!?」


 アルテナに思いっきり踏みつけられるエミール。

 折角昨日そのことについてフォローしたのに……台無しである。

 

「エミール様! 大丈夫ですか!?」

「おい、領主の屋敷で何か起きてるぞ!?」

「あの裸の男ってエミール様じゃないか!?」


 屋敷からはエミールの部下が、外からは騒ぎを聞きつけて、鉄柵の外に野次馬が集まって来ている。

 うん、さっさと決着をつけよう。

 私しゃがんでエミールに話しかける。

 

「さて、エミール様? あなたには選択肢が三つあるわ。そのうち二つはさっき言った通り、ここで死ぬか、私達と一蓮托生するかよ」


 改めてその言葉を聞き、エミールが慌て始める。


「ま、待て! お前達を殺すと言った事は取り消す! だから助けてくれ! 後、服を返してくれ!」


 よし、エミールの口から撤回の言葉を引き出せた。

 だが、それだけでは終わらせない。

 

「じゃあ三つ目の選択肢ね。それは、みんなに聞こえるように大声で、殺すとか言ってすみませんでした。もう私達には手を出しませんって謝る事よ」

「な、何だと!?」


 エミールが青ざめた顔でこちらを見る。

 敗北宣言を冒険者風情に、更に人の目に晒された状態でしろと言うのだ。(おまけに裸)

 プライドが高いこの男にとっては死ぬほど屈辱的だろう。

 いや、常人でもそうかもしれないが。

 

「でもやってもらわないと安心できないのよ。勝手に無かった事にされたら困るし、ちゃんと宣言してもらわないと」

「き、貴様……悪魔か!?」

「エレン、流石に可哀想がすぎるんじゃ……」


 ドン引きするエミールとアルテナ。


「しょうがないでしょう? エミール様が自分で裸のまま外に出ちゃったんだから。そもそも私たちを殺すとか言わなければこんな事になってないわよ。貴族ならちゃんと責任を取るべきだと思わない? ねぇアルテナ?」

「そ、それもそうね……」


 そう言われ、アルテナはエミールを擁護出来なくなる。


「せ、せめて服を……」

「やだ! おじさんが謝るまで返さないもん!」


 ミラにも盛大に拒絶され、言葉を失うエミール。


「う……うう……」


 もうどうにもならないということがわかったエミールは、とうとう観念し、謝罪の言葉を口にする。


「も……もう貴様等には……手を……」

「謝罪が抜けてるわよ」

「あんた、謝るのに貴様等ってどうなのよ?」

「おじさん、聞こえないよ?(本当に聞こえてない)」


 

「ぐ……! 殺すとか言って悪かった!! もうお前達には手を出さん!! だから許してくれ!! もう勘弁してくれーーー!!!」

「「「「「「ええええええ!?」」」」」


 ヴェインの領主、エミール全力の裸土下座からの謝罪と敗北宣言。

 それを聞いた周囲から驚愕の声が広がる。

 よし、これで決着はついた。


「ええ、許してあげるわ。ミラ、服を返してあげなさい」

「うん。おじさん、謝れて偉いね!」

「ま、これに懲りたら悪どい事は止めなさいよね」

「……く、くそーーー!!!!」


 ミラが、綺麗に畳まれた状態で服を出すと、エミールはそれを抱いて一目散に屋敷の中へ逃げていった。

 よし、敗北宣言を撤回すれば、恥の上乗りをする事になる。

 少なくとも、表立ってこっちに手を出す事はもうないだろう。

 ……問題は、さらにこの町で有名になってしまった事だが……うん、それは我慢しよう。


 そうして、エミールの屋敷を後にした私達だったが、幾つか疑問が残った。

 最初に私が見かけた赤い反応。

 そして、エミールが信頼を置いていたであろう、ダヴィドという部下が現れなかった事。

 アルテナは、「あたし達にビビって逃げたのよ」とか言って結論づけたが……。

 何故か、私はその事が頭から離れなかった……。

今回の謎については次回やります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ