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86話 ヴェインの領主エミール

更新結構遅れちゃいました。

すいません

 ヴェインの東にある居住区。

 そこは、ダンジョンができてから作られた新しい区画であり、比較的新しく、金持ちが住むような立派な家もあった。

 そして、その中央には、大きな庭と噴水が存在する豪華な屋敷が存在した。

 ヴェインの領主、エミール様が住む貴族の屋敷である。

 領主から招待を受けた翌日、私達は今その場所に来ていた。


「エレン様、すっごく大きい屋敷だね!」

「ええ、そうね。この町で一番大きいかしら」

「ふーん、流石領主なだけあるわね」


 鉄柵の外から中を見て、それぞれ感想を言い合う私達。


「クックック。とうとうあたし達も貴族に目を付けられるほど有名になったってわけね。ワクワクするわ!」

「相手が悪徳貴族だったらどうするのよ?」


 異世界の貴族といえば、金や権力に物を言わせて好き放題する者が多いイメージだ。

 勿論そうでない者もいる事はわかっているが、不安は拭えない。

 だが、貴族の招待を断ったら厄介な事になるのは目に見えている。

 行かないと言う選択肢は私達になかった。


「ふ、そんな心配しなくても大丈夫よ。何かあったらあたしが何とかしてやるわ。さあ! 本格的な貴族との対面行くわよ!」


 そう言ってアルテナは門へと向かう。

 うん、もう覚悟を決めよう。

 門番に招待状を見せると、門が開き、中に案内される。

 屋敷の扉が開かれると、大きなエントランスに、二階へ続く大きな階段、豪華なシャンデリア、鎧の像、美しい絵画など、まさに貴族の屋敷と言う光景が目に入った。

 

「へぇ、中も結構良いじゃないの」

「わー! 広くて綺麗ー!」

「あんまりはしゃがないようにねミラ。これから偉い人に会うんだから」

「うん、わかった」

「皆様、お待ちしておりました」


 エントランスに入った私たちの前に、青く短い髪をキリッと揃え、モノクルをかけた執事服の青年が現れる。


「私は皆様のご案内させていただく、この館の執事、ブレットと申します。どうかお見知りおきを」


 そう言って、礼儀正しく頭を下げるブレットさん。


「こちらこそ」

「よ、よろしくお願いします」

「ま、頼んだわよ」


 それを見て頭を下げる私とミラ。

 アルテナは何様なのか……もっと礼儀正しくして欲しいものだが。

 


「ではお客様、応接室にご案内しますので、どうぞこちらへ」


 ブレットさんが背を向け歩き始めたので、私たちもその後に続く。


(さて……今の所は大丈夫そうね)


 屋敷に入ったところから探知魔法を起動し、敵意や怪しい人物が隠れてないかなどの確認をしているが、屋敷にいる兵士やメイド、ブレットさんなどは、皆敵意なしの青い魔力だ。

 少なくともこの場で敵意を持ってる人はいない。

 安心しかけたその時だった。


(え?)


 私から見て横、ドアが開いた向こう側に赤、つまり敵意を持っている何者かがいた。

 咄嗟に魔導銃を抜き、銃口を向けると、その何者かは消えていった。


「ちょっとエレン、どうしたのよ?」

「エレン様?」

「どうかなさったのですか?」


 私の反応を見て不思議な反応をする三人。

 

「……いえ、何でもないわ」


 一瞬しか見えなかったので、どんな人物かは判断出来なかった。

 本当は正体を確かめたかったが、ここで不審な行動をとるわけにも行かない。

 私は一旦諦める事にした。

 

 その後、エントランスの階段を上がり、屋敷奥の応接室に案内される。

 中央に大きなテーブルとソファーがあり、落ち着いて話ができそうな場所だ。

 

「こちらにて、エミール様が来られるまで少々お待ちください」

「ええ、ありがとうございます」


 そう言って、ブレットさんは礼をしながら部屋を出ていった。


「……で、さっきは何があったのよエレン?」


 アルテナがそう聞いてくる。

 やっぱり気になっていたのだろう。

 二人にさっきの事を話す。


「へぇ……全然気づかなかったわ。そんなやつ本当にいたの?」

「ミラも分からなかった……」

「……そう。でもいたのは確かよ。二人とも気を付けて」


 コン、コン、コン


 そう話していると、扉からノックの音が聞こえ、ブレットさんが扉を開ける。


「皆様、お待たせいたしました。エミール様、こちらになります」

「うむ、ご苦労」


 そう言って、この屋敷の主人であるエミール様が入室し、ブレットさんは再び部屋の外に出る。

 エミール様の見た目は、貴族服を着た四十歳前後と思われる、短い白髪と、白い髭を生やした男性だった。

 エミール様は向かいのソファーに座ると、口を開く。


「ふ、ようやく来おったか。私はヴェインの領主、エミール=ヴェルモンだ。お前達が最近噂の冒険者、エレン、アルテナと、その従魔クリスウィスのミラだな?」


 そう言って、こちらを品定めするような目で見てくるエミール様。

 どうやらこっちのことは調査済みらしい。

 そして、何だか感じが悪い。

 

(エレン様……あのエミールって人……怖い目をしてる……)


 ミラは不安そうな顔になり、私の裾を掴みながら小声で囁いてくる。

 エミール様は何か企んでいるのだろうか?

 とりあえずこちらも挨拶を返そう。


「その通りですエミール様。私がエレンです」

「み、ミラ……です」

「あたしがアルテナよ。で、今日は何の用であたし達を呼んだわけ?」


 アルテナが単刀直入に聞く。

 そして。


「ふ、理由は一つだ。光栄に思うがいい。アルテナ、お前を私の息子エリックの嫁として我がヴェルモン家の一員としてやろう」

「……え?」

「……はぁ?」


 エミール様の言葉に一瞬思考が停止する。

 アルテナを息子の嫁に……?

 いや、何を言ってるんだこの人は?


「どうだ、嬉しいだろう? 一般人から貴族の仲間入りをするんだからな」

「はぁ? 何言ってんのよ。あんたの息子がどんなやつか知らないけど、あたしは嫁ぐ気なんてないわよ」

「何……?」


 首を縦に振って当然と思っていたのだろうか、エミール様は顔をしかめる。

 確かに、貴族に嫁げるなんて、相手や状況にもよるが基本玉の輿だ。

 普通なら断るなんてしないだろう。

 まあ最も、アルテナにそれを期待するのは間違っているが。


「貴様、意味がわかっているのだろうな? 冒険者なんていつ死ぬかも分からない危険な職業から解放され、貴族になれるのだぞ? そのチャンスを棒に振る気か?」

「ふん、余計なお世話よ。あたしは好きで冒険者やってんのよ? 貴族になんかなってたまるもんですか」


 アルテナがそう言って、ジェスチャーで手をシッシと振る。

 うん、ここはアルテナの答えに賛成だ。


「エミール様、申し訳ないですけど、アルテナを息子の嫁にと言うのは私も賛成できません」

「ほう? 何故だ?」

「エレン、ビシッと言ってやりなさい! あたし達は仲間だから離れる気はないって……」

「アルテナが貴族なんて絶対向いてないからです」

「そうそう……え?」


 キョトンとするアルテナを無視し、私は続ける。


「正直トチ狂った提案と言わざるを得ません。ポンコツのアルテナを貴族なんかにしたら社交界で恥をかいたり、王様とかに失礼な態度を取ったりして反感を買い、この家が取り潰しになる未来しか想像できないです。今すぐ考え直して下さい」


「ちょっとエレン! 幾ら何でも……」


「確かに、このアルテナが見た目と腕前だけがいいだけで、どうしようもないポンコツだと言うのはわかっている。当然社交界で恥をかかない様徹底的に教育する気だ」

「教育でどうにかなる問題でしょうか? アルテナは悪い意味で型破りすぎます。教育しても絶対身につかないと思います」


「あの……あんた達?」


「最終手段として奴隷の首輪をかけてもらうつもりだ。首輪をかけた主人の命令に逆らえなくなる効果がある。それをかければ……」

「いえ、アルテナはとんでもない魔力を持っています。自力で首輪を壊せるかもしれません。今ここで試した方がいいと思われます」

「そうか、では早速部下に持って来させ……」


「ちょっと、あんた達!!」 


「うるさい、何よアルテナ?」

「貴様は黙っていろ。我々は今大事な話を……」

「いい加減にしなさーい!! ていうか! 何本人の前でボロクソ言いながら意気投合して相談してるのよ!? そもそもあたしは貴族にならないって言ってんでしょうがーー!!」


 アルテナの怒声が部屋に響く。

 しまった、私もつい会話に熱が入りすぎた。


「あの……アルテナ様?」

「はぁ……はぁ……何よミラ?」

「やっぱりミラもアルテナ様のこと、ポンコツ様って呼んだ方がいいのかな?」

「絶対やめなさーーーい!! はぁ……はぁ……」


 アルテナが息切れでダウンしてしまった。

 そこで、まだ本質的な部分を聞いてないことに気づき、エミール様に尋ねる。


「ところで、エミール様。そもそも何故アルテナを息子の嫁にと考えたのですか?」

「それは、こいつが優秀なスキル持ちだからだ」

「優秀なスキル?」

「ああ、『死神』、『獄炎』、『邪眼』。どれも強力な上に、その全てを持ったトリプルスキル保持者だそうじゃないか。私の目的は、その才能を我が一族に受け継がせる事だ」


 なるほど、アルテナ本人ではなく、アルテナのポテンシャルを子孫に受け継がせたいと言うわけだ。

 それならアルテナを息子の嫁にと言うのもおかしくはない。

 ただ、一つ疑問は残る。


「それなら何故アルテナだけを呼ばず、私たちも屋敷に呼んだのですか?」

「ふ、簡単な話だ。そこのクリスウィスも欲しかったのでな」


 エミール様がミラを見ながらそう言う。

  

「み、ミラは……あなたの物になんかならないもん!」


 ミラは怯えながらもそう言い放つ。


「ふん、魔物風情が。お前に決定権などあると思うか? それに、お前の主人がこの家に嫁げば、それはもう我がヴェルモン家の物ということになるだろう。一石二鳥というわけだ」


 ……なるほど、やっぱりミラも狙っていたというわけか。


「……一応聞いておきますけど、私への用は?」

「貴様はついでだ、メイドにでもしてやろう。そこのポンコツの世話係でもしてもらおうか。実質三人でいられるのだし、何も悪いことはないだろう? 給与も弾むぞ?」

「そう、私の評価はそれくらいってことね。高給取りになれるって言うのは良いかもしれないけれど……」


 そう言いながら、私はソファーから立ち上がる。


「ミラを“物”扱いするような主人はごめんよ。アルテナの世話係っていうのも納得いかないしね。帰りましょう、二人とも」

「ちょっと!? それどういう意味よ!? でも、あたしもこんな家に嫁ぎたく無いから賛成。帰りましょ」

「うん、ミラも帰る」


 アルテナとミラもソファーから立ち上がる。

 もうこの貴族と話す事なんて無い。

 それに対し、エミールが不適な笑みを浮かべた。

 

「ふ、返すと思うか?」

「何あんた? ここの兵士だけであたし達を止められるとでも思ってないでしょうね?」

「確かに、貴様とクリスウィスの実力は聞いている。まともに戦っては到底勝てないだろうな」

「ふん、よくわかってんじゃない」


 アルテナが勝ち誇った顔をする。

 だがおかしい、エミールの笑みが消えていない。


「だが、それならばまともにやらなければ済む話だ。そうだな、見せしめにエレン、貴様を殺すとしよう。やれ」

「エレン! 危ない!」

「え……!?」


 私は咄嗟に魔導銃を構えようとしたが、その前に何かの衝撃を受け、私は壁まで吹き飛ばされる。


(なに……が……)


 何が起こったのか分からないまま、私は床に倒れた……。

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