85話 アーシャとヴェインの事情
「こいつらは旦那の命の恩人でな。他の連中と違って良い奴らなんだ。安心してくれ」
「そ、そうだったんですか……どうも申し訳ありません、助けて頂いたのに疑ってしまって……」
アーシャさんの説明を聞いて、店主が頭を下げ、疑った事を謝る。
「アーシャさんありがとう。……ところで一つ聞いて良い? その服装って……」
「この格好か? これはアタシの戦闘服だな! 自警団の仕事をやる時はいつも着てんだ! どうだ? カッコいいだろう?」
アーシャさんが腰に手を当て、明るい笑顔でそう言う。
特攻服を着こなしたアーシャさんは、確かにカッコいい。
どう見ても姉御とか呼ばれていそうな、昭和の不良みたいだった。
まさか異世界でそんな格好の人物を見る事になるとは……。
「確かにカッコイイじゃない! よく姉御とか呼ばれてんじゃないの?」
「あ? なんで知ってんだ?」
アルテナも私と同じことを思っていたらしい。
そして、実際言われているようだ……。
……異世界と地球って案外近い存在なのかもしれない。
「で、何があったのか詳しく聞かせてくれないか?」
「そうね……実は……」
ここであった事をアーシャさんに説明すると、少しずつ表情が険しくなる。
「そっか……もっと早く来るべきだったぜ……ミラ、こいつを助けてくれてありがとな」
アーシャさん、はミラにお礼を言いながら頭を撫でる。
「……えへへ♪」
ミラは、少し戸惑いの表情を見せながらも、初めて私とアルテナ以外のスキンシップを受け入れた。
うん、やっぱり少しずつ周りへの恐怖が無くなってきているようだ。
成長しているのが見れて嬉しい。
「お、もうアタシの事怖くなくなったのか?」
「うん、最初はごめんなさい。でもアーシャさんすっごく綺麗な目をしてるって分かったから、もう怖くないよ」
「き、綺麗な目だぁ!? そ、そんなこと言われたのは初めてだぜ……」
アーシャさんが照れてそっぽを向いてしまう。
ミラは、目で人を判断するタイプなのかもしれない。
「まあ、とりあえずこの場をどうにかしちまおうぜ。ミラ、お前収納能力があるって話だよな?この店収納できるか?」
「うん、すぐ収納するね」
ミラはアーシャに言われ、店と商品をあっさり収納する。
それを見て、店主は驚き、アーシャは感心した。
「す、すごい……!」
「ほぉ、こんな簡単に収納できちまうんだな!」
「ふ、どう? アタシの従者の力は?」
「あなたが誇る事じゃないでしょう?」
そして、私達は旧居住区にある店主の家に移動し、品物の果物は用意された木箱に入れ、壊れた店はどうにもならないので、こっちで適当に処分する事になった。
その後、店主にお礼として果物を少し分けてもらい、私達はその場を後にした。
「エレン、これからどうすんの?」
「そうね……『ぐぅ〜〜』……あっ」
自分のお腹が鳴ってしまう。
そういえば、まだ串焼きを一本食べただけで、まともな食事をしてないんだった。
「何だ? まだ昼食ってねぇのか? それならアタシが良い店紹介してやろっか? 丁度アタシも食べに行こうと思ってたからな」
「助かるわ、アーシャさん」
「エレン、気を付けなさい。きっとリーゼントやモヒカンの男がたむろしてるような店よ」
「アタシをなんだと思ってやがる!? そんな店あったとしても紹介しねぇよ!」
「全く、失礼よアルテナ」
そう言いつつ、私も少し想像してしまったのは内緒だ。
その後アーシャさんに案内してもらい、旧居住区を歩いていく。
他の区域と違って、とても落ち着いた雰囲気であり、畑などもある事から、町というよりかは農村っぽい。
でも、すれ違う人がアーシャさんを見ると。
「アーシャ、今日も見回りお疲れ様!」
「おう! おばさんも元気そうで何よりだぜ!
「よう鬼神のアーシャ! たまには一杯ウチでどうだい?」
「今日は遠慮しとくわ!」
「姉御ー! 結婚してくれー!」
「アタシは人妻だよ!!」
などという、愉快な声がアーシャさんに次々かけられる。
どうやらかなり人気者のようだ。
流石姉御と呼ばれるだけはある。
「アーシャさんって人気者なのね」
「まぁな。おかげで昔から男に熱い視線を送られたもんだぜ。面倒くせぇからアタシを倒したやつと結婚してやる! なんて言って、村中の男とケンカした事もあるな」
「ふーん……え、じゃあなんでカルロと結婚したの? まさかあいつが勝ったっていうの?」
アルテナが尋ねる。
確かにそれは気になる部分だ。
そう思っていると、アーシャさんの顔が赤くなる。
「いや、カルロは戦いに参加してなかったぜ。実はなぁ……向かってきた奴ら全員倒したんだが……。流石のアタシも怪我を負っちまってな。その時カルロが回復ポーションを持ってアタシに使ってくれたんだよ。戦いに参加しなかったのかって聞いたらあいつ……「憧れの人を傷つけるような戦いなんて参加出来ませんよ。アーシャさんの助けになれるだけで俺は満足です」なんて言いやがってな。全くアタシは自分で回復できるっつうのに……。だが、その想いに惚れちまって、アタシからプロポーズしちまったってわけだ。戦いに参加しなかったやつを選んじまうなんて、変な話だろ?」
「そんな事ないわ」
自分に寄り添ってくれる相手がいるというのは嬉しいものだ。
その時のカルロさんは、きっとアーシャさんから見てとても頼りになる存在に見えたのだろう。
いい惚気話だ。
「ふーん。そんで、どんなふうにプロポーズしたわけ?」
「も、もうこの話はいいだろ!? それより、着いたぞ」
気づけば、白い壁と赤い屋根で出来た小洒落た店についていた。
中から美味しそうな匂いが漂ってきて、食欲をそそる。
「ここを経営してるおばさんが本当いいメシ作ってくれんだ。昔から馴染みの店だぜ」
「へぇ、でも中に入ったらモヒカンとかリーゼントの男がいたりして……」
「だからいねぇってそんなやつ……」
そう言いながらアーシャさんが扉を開けると。
「おい! 俺達冒険者様にこんな不味いメシ出しやがって! 金は払わねぇぞこの野郎!」
「兄貴の言う通りだぜへっへっへ!」
などと店に苦情を言っている、“モヒカン”と”リーゼント“の男が目に入ってきた。
「……アーシャさん?」
「……アーシャ?」
「……………」
呆然として硬直してしまったアーシャさん。
うん、なんと言う綺麗なフラグ回収だろう。
「あんたら、何を勝手な……あ、アーシャじゃないか! 丁度いいところに来てくれたよ! こいつらなんとかしてくれないかねぇ!?」
「あ、兄貴! 『鬼神のアーシャ』ですぜ!? オーガを素手で倒すってぇ噂の!?」
「なに!? そいつはやべぇ! ち、仕方ねぇ。ここは大人しく金を払……」
「テメェら!! アタシに恥かかせやがって!! ぜってぇ許さねぇーー!!」
「「いや、なんでだ!? ギャァァァァ!!??」」
アーシャさんの私怨が入った、オラオラ拳が男達に炸裂する。
せっかく相手が穏便に済まそうとしていたのに……まあいいか。
一分後、ボロボロになった二人を店から放り出した後で、私達は店長のおばさんに案内してもらい、四人用のテーブルに座る。
「いやぁスカッとしたよ! ところでアーシャ、今日は何を頼むんだい?」
「そうだな、おばさんおすすめセットを三つ頼む」
「ちょっと、勝手に決めんじゃないわよ」
「安心しろ! ぜってぇ美味いからな!」
アーシャさんが自信満々に言う。
うん、ここはアーシャさんを信じよう。
「あいよ、三つでいいのかい?」
おばさんがミラを見ながら言う。
「ああ、ミラは確か、魔石しか食わねぇんだよな?」
「そうね、だから大丈夫よ」
「あいよ、しかしアーシャ、この可愛い子たちは誰だい?」
「ああ、こいつらはアタシんところで居候してる冒険者だ」
「え? 冒険者だって?」
おばさんの目が急に懐疑的になる。
「安心してくれ、こいつらは良いやつらだ。それに、旦那の命の恩人でもあるしな」
「まあそうだったのかい!? ごめんね、疑っちゃって! お詫びにサービスするから待ってて頂戴!」
そう言って、店長さんは裏の調理室に入っていく。
さて、落ち着ける場所に着いた事だし、そろそろ聞いて良いだろう。
私は真剣な顔をして、アーシャさんに尋ねる。
「アーシャさん、この町で……いえ、正確には旧居住区の人達に冒険者が嫌われてる理由、教えてくれる?」
私の質問を聞いて、アーシャさんも真剣な顔になる。
何せ自分も初対面で、それを理由に殴りかかったのだ。
間違いなく他人事ではない。
少し考える素振りを見せた後、アーシャさんは口を開いた。
「この町は七年前、ダンジョンができて発達したっていうのは聞いてるよな?」
「ま、その話は知ってるけど、なんか関係あんの?」
アルテナがそう聞く。
「実はな、ダンジョンができる前は、旧居住区と言われるこの場所がヴェインだったんだよ。他は全部、この七年で作られた場所でな。つまり、この区画は昔からヴェインにいる奴らが住んでるってわけだ」
ふむ、なるほど。
発展したとは聞いていたが、まさか四倍まで大きくなっているとは。
でも、それだけだと疑問は解けない。
「それが冒険者を嫌う理由と、どう関係があるの?」
「新しい奴らが大量に入ってくれば、それだけ問題も起きるだろ? 特に冒険者は誰でもなれるし荒っぽい奴らが多い。その分問題を起こしやすいのさ。町の兵士の手が足りないほどにな」
「ふ、そんなの兵士を増員すれば済む話じゃない。領主の貴族とかいるんでしょ? そいつに話を通せば……」
「話をしなかったと思うか?」
アルテナの言葉を聞き、アーシャさんの顔が険しくなる。
「じゃあ聞いてくれなかったの?」
「ああ、正確には旧居住区に回している暇はないとの事だ」
「それって……元からいた住民を蔑ろにしてるって事?」
「そうなるな。お陰で冒険者がこの区画で問題を起こす事件が絶えない。さっきの奴らのようにな。だからこそアタシが自警団を組織してるってわけだ。最も、自分たちが勝手にやってる事だから、金は出ねぇけどな」
「完全にボランティアって事?」
「まあ、そうなるな。他にも新しく入ってくる連中には税金を安くしたり、何かと優遇したりとかな。お陰で余計に鬱憤が溜まってるんだ」
「何よそいつ!? 完全に悪徳貴族じゃないの!」
アルテナが話を聞いて憤る。
確かに聞いてて気分のいい話じゃないは確かだ。
だが……。
「……あながち悪いとも言い切れないわよアルテナ」
「え?」
「町の発展の為に新しい住人を住みやすくするのは別に悪い事じゃないし、実際ヴェインはかなりの発展を遂げてるわ。領主として、それは褒められるべき事じゃない? 将来的に町がもっと潤えば、旧居住区の人達の事も手が回るかもしれないし……」
「う……た、確かに……」
私の指摘に、アルテナは何も言えなくなり、アーシャさんは同意するように頷く。
うん、どうやらアーシャさんもその事は分かっていたようだ。
「エレンの言う通りなんだよな。だからこそ、今の状態を容認している奴らもいるんだ。そもそもダンジョンなんて金の成る木を放っておく事なんて出来ねぇからな。今の状況は仕方ないとも言えちまうんだよ」
なかなか難しい問題だ。
確かにダンジョンを放っておく事なんてできないだろうし、アーシャさんの言う通り仕方ないと言える側面もある。
「因みに、アーシャさんはどう思っているの?」
「アタシか? アタシは町を守れさえすればどっちでもいいって感じだな。考える事はアタシには合わねぇし。それに、妹も容認してるしな」
「え? アーシャさんって妹がいるの?」
「ああ、言ってなかったか? まあでもそのうち会えると思うぜ。 なんせ……」
「あんた達お待たせ! おすすめセット三人前出来上がったよ!」
そう言って、店長さんが美味しそうな料理を運んでくる。
話に夢中で、知らない間に結構時間が経っていたようだ。
「サンキュー! よし、難しい話は終わりにしてメシにしようぜ!」
「あたしも賛成!」
「それもそうね」
メニューはマンドラゴラのシチュー、スターマッシュルームのパスタ、オークのロースステーキなど、異世界らしい食材が多く入っていたが、普通に美味しい。
今度食材を買って試してみるのもいいかもしれないと思っていると、ちょんちょんとミラが私の腕をつついてくる。
「エレン様、ミラも魔石食べていい?」
「ええ、もちろんいいわよ。……そう言えば、さっきまでずっと黙ってたけど、どうかしたの?」
「えっと……難しい話をしてたから、静かにしていたほうがいいかなって……」
……しまった。
ミラが幼いし、ずっとダンジョンにいたのなら、色んなことがわからないだろう。
おまけに内気な性格だから話に入れず、蚊帳の外状態にしてしまった。
「ミラ、気付かなくてごめんね。今度から分からないことがあったらいつでも聞いて頂戴」
「うん、ありがとうエレン様」
……そして、食事が終わった後。
「そういや今後、お前達はどうする予定なんだ?」
アーシャさんがそう訪ねてくる。
「そうね……ミラの武器が出来るまで攻略の準備がてら、ヴェインを観光しようと思ってるんだけど、アルテナはどう?」
「あたしもそれでいいわよ。準備不足のままダンジョンに行くなんてありえないしね」
「どの口が言うんだか」
「あれはクソうさぎが煽るから……!」
「ははは、まあもしなんかあったら遠慮なく言ってくれよ。お前達ならできる範囲で手伝ってやるからさ」
「ありがとう、アーシャさん」
とりあえず、ミラの武器が出来上がるまでは静かに暮らせそうだ。
……そんなことを思っていたせいだろうか……?
家に戻ると、カルロさんが慌てた様子で私達に何かを差し出してきた。
それは、ヴェインの領主である、エミールからの招待状であった。
今までで最長の回になってしまったかもしれない




