84話 ミラ、トラウマに立ち向かう
なんか思っていた以上に長くなってしまったので、
3章の名前をヴェイン編に変えて、今回からを後編という事にします。
商店街は昼時だからというのもあるだろうか、かなり賑わっており、多くの出店も出ている。
色とりどりの果物を売っている店、美味しそうな料理を売っている店、綺麗な小物を売っている店など目移りしそうなくらいだ。
ここで食事がてらショッピングというのも良いかもしれない。
はぐれないようミラと手を繋いで歩いていると、アルテナが何かを見つける。
「エレン、あそこから美味しそうな匂いがするわよ」
アルテナが指す方向を見ると、美味しそうに串焼きを焼いている出店を発見する。
香ばしい匂いに釣られ、試しにオークの串焼きを二本買ってアルテナと食べてみると、ジューシーな旨みが口いっぱいに広がり、ついたタレがいいハーモニーを生み出していた。
うーん……オーク肉、悪くないわね。
「うーん結構美味いじゃない! もう何本か買わない?」
「美味しいのは認めるけど、それよりちゃんと落ち着ける店に行きましょうよ」
「あの……エレン様……私も食べて良い?」
アルテナと話していると、ミラが指を咥えてねだってくる。
そのあまりの可愛さに一瞬昇天しそうになるものの、何とか意識を取り戻し、私は答える。
「ごめんね。私たちだけで楽しんでちゃダメよね。もちろん良いわよ」
「わーい♪」
因みに、ミラがねだっているのは串焼きではなく、魔石である。
許可を出すと、ミラは魔石を手のひらに出現させ、笑顔で口に頬張る。
そして、キャンディーを舐めるように転がしながら消化(吸収)した。
可愛くて、なかなかに不思議な光景である。
「ミラ、そんなに魔石美味いの?」
「うん、美味しいよ」
アルテナがそう尋ねると、ミラは笑顔で答える。
そして何を思ったのか……。
「へぇ……ミラ、あたしにも魔石を一個出して頂戴」
「うんっ」
「え?」
アルテナはミラから雷の魔石を貰うと、いきなり口の中に頬張った。
そして……。
「あばばばばば!?」
口の中で雷が弾け、アルテナが感電する。
うん、こいつは何をやっているのだろう。
「アルテナ……あなた、どこまでバカなの?」
「うっさいわね! ちょっと試してみたくなるじゃない! おえぇ……」
「ちょっと、何してるのよ」
魔石を吐き出そうとしたアルテナの口を押さえる。
「もがが!?」
「勿体無いじゃない。ちゃんと残さず食べなさい」
そのままアルテナの口を抑え付け、ゴクリと飲み込ませた。
「おえぇ……何すんのよ!?」
「食べ物を粗末にしたらダメじゃない」
「いや、魔石は食べ物じゃ……」
「じゃあ何で口に入れたの? ねぇ? ねぇ?」
「……ご、ごめんなさい」
顔を近づけながら凄むと、アルテナは素直に謝った。
うんうん、食べ物を粗末にしたらいけない。
「アルテナ様、魔石はまだいっぱいあるよ!」
「よかったわねアルテナ」
「いや、頼むから勘弁して……」
「わーーー!? 止めてくれー!?」
アルテナの言葉を遮り、突如誰かの悲鳴が商店街に響き渡る。
「一体何?」
「あっちから聞こえたわ! ちょっと見に行ってみましょうよ!」
「いや、アルテナ? 厄介事に関わりたくは……」
そう言いかけるも、ミラと私はアルテナに手を掴まれ、声がする方向に引っ張られる。
そこで目に映ったのは、荒っぽい男が斧を持ち、出店を破壊している光景だった。
「や、止めてくれ! 店を壊さないでくれ!」
「うるせぇ! こんな辛気くせぇ店構えやがって! 気分が悪りぃじゃねぇか!」
辛気臭い?
一体何の事かと思ったが、男が破壊している出店は他よりも簡素な作りで、売っている物も地味な色の丸い果物一種類しか無い。
確かに活気がある商店街の中では辛気臭いかもしれないが……やってることが酷すぎる。
「エレン、見てらんないわ! 助けに行くわよ!」
「いや、騒ぎを起こしているなら町の兵士がきっと……」
「……だ……だ……」
「ミラ?」
ミラの様子が急におかしくなる。
そして。
「だ、ダメーーー!!!」
「「え!?」」
突如ミラが悲痛な叫びを発し、出店の店主と男の間に割って入る。
「ん? 何だテメェは? 邪魔すんじゃねぇ!」
「い……虐めは……ダメ!!」
「ミラ……」
決意に満ちた表情で男を止めるミラ。
そうか、おそらく出店の店主が過去の自分と被ったのだろう。
いや、それ以前に虐めを見過ごせなくなっているのかもしれない。
「……アルテナ、ここはミラに任せましょう」
「え? 何でよ?」
「ミラにとって譲れないことだからよ。私達が入るべきじゃないわ」
ここで助けに入るのは野暮というものだ。
見たところ相手はただのゴロツキだし、ミラを信じて見守ろう。
「貴様……よく見たら人間じゃねぇな? だったら子供だろうが加減する必要ねぇよなぁ!? おりゃぁ!!」
男は斧を思いっきり振りかぶり、ミラに向けて振り下ろす。
それを見たミラは蓋を閉め、本体で斧を受け止める。
すると、バキッという音と共に、斧が折れ、クルクルと宙を舞いながら地面に突き刺さった。
「は?」
あっさり斧が折れた事に呆然とする男。
ミラは、斧を防いだことを確認すると、即座に腕を掴み、男を持ち上げる。
「な!?」
「えーい!!」
そしてミラはそのまま男を地面に叩きつけた。
ドォォォン!!
「グハァ!?」
地面を軽く凹ませ、男が軽く血を吐きながら倒れる。
ミラが本気になればもっと酷い惨状になってただろう。
死なないよう上手く手加減できたようだ。
「はぁ……はぁ……あの、大丈夫ですか?」
緊張で息が切れたミラは、店主に安否を確認する。
「は、はい。あの……ありがとうございました」
「よ、よかった……」
安心して脱力したミラがぐったりした様子になったのを見て、私とアルテナはミラの元に駆けつける。
「ミラ、良くやったわね」
「ナイスよミラ! スカッとしたわ!」
「エレン様……アルテナ様……。 うん。ミラ、やったよ!」
笑顔で私たちに抱きついてくるミラ。
トラウマに打ち勝った事がとても嬉しいのだろう。
本当によく頑張った。
その後、駆けつけた兵士により男は捕まったものの、荒らされた店は営業を続けられる状態ではなく、店主は落ち込んでいた。
「はぁ……せっかく高い出店料を払って、商店街に店を出せたっていうのに……」
「それは残念だったわね……。この後どうするの?」
「とにかく片付けないとな……。だが、大変そうだ」
壊れた店もそうだが、果物が多く散乱しており、確かに片付けるのが大変そうだ。
「アルテナ、ミラ。乗りかかった船だし手伝いましょうか」
「ま、しょうがないわね」
「ミラ、頑張って運ぶよ!」
「いや、そこまでしてもらうわけには……」
「ふ、安心なさい。私達は凄腕の冒険者なんだから。 大船に乗ったつもりでドンと……」
「ぼ、冒険者!?」
アルテナの冒険者という言葉に、店主が大きく反応する。
「ん? どうしたのよ?」
「お、お前ら! まさか手伝うと言っておきながら、後で依頼料とか言って高額な料金を請求する気じゃ!?」
「は!? 何でそうなんのよ!!」
「うるさい! 俺は騙されないぞ!」
おかしい。
冒険者と分かっていきなりこっちを疑い始めた。
どうしようかと迷っていると。
「おい、そいつらは信用して良いぞ。アタシが保証してやるよ」
「なんだ!? 一体どこのだ……」
店主が振り向くと、そこには真っ赤なボサボサした長い髪をなびかせ、後ろに鬼神という刺繍が書かれた特攻服を着た女性が立っていた。
「ひぃぃぃ!? 申し訳ありません!」
「いや、そんなかしこまって謝る必要ねぇんだが……とりあえずここで会うなんて奇遇だな、お前達」
「アーシャさん?」
間違いない。
そこにいたのは、私達が居候させて貰っている家の住人。
カルロさんの妻であるアーシャさんだった。
最近笑いネタが少ないですかね?




