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83 閑話 夜中の会談

 月がよく見える真夜中、人通りの少ない道を女性が一人歩いていた。

 何も知らない者が見れば危なく思うだろう。

 だが、彼女に手を出すものはいない。

 真っ赤なボサボサした長い髪、ナックル部分に鋼鉄を仕込んだフィンガーレスグローブ、後ろに鬼神という刺繍が書かれた特攻服。

 そんな姿をしているものはこの町に一人しかいない。

 

「……さて、ここか」


 女性は寂れた酒場を見つけると、西部劇でよくあるようなスイングドアを通り、店の中を見渡す。

 女性の目が、顔が見えない程フードを被った男と、肌色のトレンチコートを着て、帽子を被った痩せ型の男性が座った席を目に映すと、女性は歩き出し、その二人の前に立った。


「よぉ、来てやったぜ。あんまり遅くなるのは勘弁してくれよ。一応人妻だからなアタシは」


 そう言って二人と同じ席に座るのは、ヴェインの町で自警団のリーダーを務める女性、アーシャだった。


「やあアーシャ君、こんな夜中にいつも来てもらって済まないね」


 トレンチコートの男はアーシャへ気さくに話しかける。


「気にすんな、大事な話し合いだろ? で、進捗しんちょくはどうだ?」


 アーシャがフードを被った男に聞く。

 彼は数秒沈黙を保った後、口を開いた。


「残念だが、“……”を追い詰めるための調査は、特に進展がない」

「僕もだよ、やれやれ、これじゃあ休みを取った意味が無いなぁ」


 フードの男とトレンチコートの男は残念そうに言う。

 それを聞いて、再びアーシャが質問する。


「因みに、町で起きてる“事件”についてはどうだ?」

「わからない……だが、やはり“……”が雇った者と思われる」

「ち、そいつを捕まえられれば一発で解決なんだがな……」


 アーシャが深い溜め息をつくと、フードの男が口を開く。


「ところで……最近、町の様子はどうだ?」

「うーん特に変化は……いや、最近面白い二人の女性冒険者がきたね」


 トレンチコートの男の言葉に、アーシャはそうそうっと言う感じで話題に乗る。


「ああ、そいつらアタシのところで居候中なんだが毎回面白れぇ事をしでかしてくれるんだよな! 最近ミラっつう可愛い女の子モンスターを仲間に入れて三人に増えたぜ」

「聞いた話によると十層を突破したみたいだね、期待の新人冒険者ってところだ」


 アーシャとトレンチコートの男が愉快そうに話してるのを見てフードの男は疑問を持つ。


「しかし、十層までは多少腕の立つ冒険者パーティなら基本辿り着けると聞いているが? 何故その冒険者に注目をしてるんだ?」

「本来ならその通りだ。だがモンスターが無限湧きするトラップ部屋やブルーオーガなど、通常ではあり得ないほど厄介な状況を突破した上での十層攻略だ。そう考えると凄いと思わないかい?」

「確かに……だが、ダンジョンを攻略できなければ意味は……」

「アタシはできると思ってるぜ」


 アーシャの言葉に、フードの男は信じられないという顔をする。


「何変な顔してるんだよ? お前的にはいい話じゃねぇのか? 攻略され、ダンジョンコアを失えばダンジョンは消える。それがお前の望んでる事じゃねぇのか?」

「そうだが……この七年、手練の冒険者も挑んだが、誰もクリアできていないダンジョンだぞ……? 新人がクリア出来るとでも……?」

「少なくとも可能性はあると信じてるぜ。何せアタシに勝ったからな」

「なんだと……!?」


 アーシャは、フードの男が知っている中で指折りの実力者だ。

 オーガすら素手で倒すほどの実力者。

 そのアーシャに勝ったという事実は、男が驚愕するに十分な材料だった。


「なに驚いてんだ? ブルーオーガに勝てたってことは、そのくらいの実力があるって分かりきってることだろ? まあアタシも聞いた時はビックリしたがな」

「確かに……ところでアーシャ、君の“身内”は……」

「何度も言うがあいつに攻略を期待すんなよ? あいつはお前と違ってダンジョン容認派だからな」

「……そうか……」


 フードの男は残念そうに顔を俯く。

 その後、三人はそれぞれ持っている情報を共有したところで、話を終えた。


「さて、今日話せることはこのくらいかな? なら今日は解散にしよう」

「じゃあ帰るか、あまり遅いと夫を変な意味で心配させちまう」

「そうだな……立場は違えど町を守る者同士……。また会おう」


 そうして三人は、酒場を出て解散する。


「やれやれ……町の平和を守るってのも楽じゃないぜ……」


 アーシャはそう呟きながら、夫と居候がいる我が家へと帰路を急いだ。

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