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82話 ぽっと出のモブがいなくなったので話し合い。

 ギルドの一画に設置された広い解体場。

 そこは、外やダンジョンから持ち帰った魔物をギルド内で解体する場所である。

 今そこに私達三人とマルタ、そしてブルーオーガに敗北し、逃亡した冒険者四人が集まっている。

 あの後、マルタにブルーオーガの件とミラの能力について軽く説明したところ、話の裏付けが欲しいということで、ブルーオーガを出せるこの解体場に来る必要があったのだ。


 因みにミラを狙ってきたぽっと出のモブ達は(ポットデーノやモーブ)、あの後金で見逃してもらおうとしたが、ギルドに手を出した罪は許されずあっさり捕まった。

 本当に何でも金で解決できるとか思っていたバカだったらしい。

 全く呆れたものである。


「じゃあミラちゃん、ここにブルーオーガを出してもらえますか?」


 そう言って、マルタは解体場にある土台の一つを指差す。

 そこは、解体作業を行うための場所みたいだ。

 

「うん、えいっ」


 ミラが土台にブルーオーガを出す。

 斜めに真っ二つにされ、片腕を潰された無惨な姿のブルーオーガを見て、冒険者達は困惑する。


「本当に倒してたなんて……!?」

「私の魔法でも倒せなかったのに……」

「俺の剣でも傷一つつけられなかったこの化け物をこんな姿に……一体どうやったんだ!?」

「俺に聞かれてもな……気絶してたから詳しいことまでは……」


 仲間に迫られ困惑するタンクの男。

 そこにアルテナがドヤ顔で入って行く。


「ふ、真っ二つにしたのはあたしの必殺魔法よ。どう? あたしの実力、思い知ったかしら?」

「え? でもお前、ブルーオーガに殴り倒されてなかったか?」

「その後復活して倒したのよ! ていうか殴られたのはあんたのせいでしょうが!」

「う……そ、それは……」


 両手剣の男にツッコまれ、アルテナがブチギレる。

 確かに、あの時両手剣の男がアルテナに助けを求めて掴み掛からなければ、返り討ちにしていた可能性は高い。


「ふむふむ、魔物を押し付けた上にお荷物になり、挙げ句の果てに自分たちだけ逃げたんですね! ……本当にとんだクズ野郎共ですね! この件に関して皆さんからの反論はありますか?」

「「「「……ありません」」」」


 マルタの煽りを入れた指摘に反論できない冒険者達。

 まあ仕方ない。

 結果的に倒せたから良かったが、そうでなければ、私達は死んでたかもしれないのだ。


「マルタ、この人達はどうなるの?」

「そうですね、今回の事はギルドカードに記録されますので冒険者としての評価が確実に下がりますね。後は被害者が受けた損害などを加味した賠償金を支払う事になります。まあぶっちゃけ被害者の匙加減なので、煮るなり焼くなり好きにしちゃって下さい!」


 物騒なことを言う。

 だけど迷惑を被ったのは事実だ。

 どうすればいいか……と悩んでいると。


「おいおい、本当にブルーオーガがあるじゃねぇか!」


 そう言いながら、口の下から髪の色と同じ茶色い髭を生やした逞しいおじさんが現れた。


「マルタ、このおっさんは誰よ?」

「この人は解体場の責任者であるガラルさんですね! 何かご用ですか? 確か休憩時間だったはずですけど?」

「ブルーオーガが解体場にあると聞いてな、なかなかお目にかかれる物じゃねぇからすっ飛んで来た。しかし……いい状態だな。さっき倒したばかりのように新鮮じゃねぇか。片腕が潰されてるのが残念だが……」


 ガラルの言葉を聞いて、ミラが申し訳なさそうに前に出てくる。


「あ、あの……いけなかったですか……? 潰してしまってごめんなさい」

「いや、謝る必要は……おい、まさかこれをやったのは嬢ちゃんなのか?」


 信じられないと言う顔をするガラルさんに、私は事情とミラの能力について説明する。

 それでも疑っていたが、ミラがブルーオーガの棍棒を出し、それを振り回して見せることでガラルさんに信じてもらうことができた。


「いや驚いたな……。まさかこんな力を持っているとは……。だが本当に謝らなくていいぞ。大きな魔物を一匹丸々持って帰っただけでも十分すぎるからな。それに、大事な部分がちゃんと残っている」


 そう言ってガラルさんが指したのは、ブルーオーガの額に生えている巨大な角だった。

 角は一番大事な部分らしく、かなり上質な武器の素材になるとの事だ。

 それを聞いて、私はある事を思いついた。

 

「アルテナ、この角を使ってミラの武器を作るのはどう?」

「あ、それいいじゃない! あたしも賛成よ!」


 ミラが手に入れたブルーオーガの棍棒は大きすぎる。

 これでミラ専用の武器を作るのがベストだろう。

 ついでに……。


「賠償金は武器の制作費を持ってもらうって事でいいんじゃない?」

「「「「え?」」」」


 私の提案に冒険者達が驚く。


「高かったかしら? もしかして払えない?」

「いや、多分払えると思うが……それだけでいいのか?」


 ふむ、その程度でいいのかという驚きだったようだ。


「いいんじゃない? アルテナとミラはどう?」

「うーん……まあいいんじゃない? それでチャラにしてやるわ」

「ミラは、エレン様が決めた事ならいいよ」

「じゃあ決まりね」


 武器製造にかかる費用が確定したところで、請求書を彼ら宛にするという事で話がまとまると、冒険者達は何度も頭を下げてお礼を言い、ギルドを去って行った。

 さて、ブルーオーガの件はこれで終わりだが、まだ私たちには用がある。 


「クソうさぎ、他に魔物を置いていい場所教えなさい」

「何ですかポンコツさん? それなら隣にでも……ってちょっと待って下さい。まさかとは思うんですけど……!?」

「ふ、多分あんたが考えてる通りよ。ミラ! 倒した魔物全部出しなさい!」

「うん、わかったアルテナ様。えいっ」


 ミラが隣の土台に向かって手をかざすと、平原で倒したファングウルフやアサルトボア、オークなど、合わせて数十匹が山になって現れた。


「えーー!?」

「なにーー!?」


 マルタとガラルさんがその光景を見て驚愕し、アルテナはドッキリが成功した事に満足気に微笑む。


「ふっふっふ、どう? 驚いたでしょう?」

「いや、驚きましたけど! ミラちゃん一体どれだけ収納できるんですか!?」

「それだけじゃねぇぞ、どいつもこいつもさっき倒したばっかのような新鮮さだ。まさか時間停止まであるって言うのか!?」

「ふ、時間停止はもちろん、このギルド丸々収納するくらいは楽勝らしいわ。あたしの従者の凄さ、思い知ったかしら? あーっはっはっはあだっ!?」

「あなたの力じゃないでしょうが」


 なんかムカついたので、アルテナを魔導銃で殴っておく。

 

「うーん……凄いですね……。これがクリスウィスの力なんでしょうか?」

「マルタ、それって確かミラの種族名だったわよね。詳しい事はわかったの?」

「それが見かけによらず強いって事と、臆病だって事以外分からなかったんですよね。何せ大変珍しい上にすぐ逃げてしまうので、研究も進んでなかったみたいです。でも、今回の事で能力と進化条件がわかったかもしれないですね」

「確かに……」


 クリスウィスに進化する方法。

 恐らくそれは、レッサーミミックの状態で進化条件を満たす事だろう。

 そして、条件はおそらく大量の魔力。

 ミラ一人しか事例がないのでまだ断定はできないのだが。

 

「まあとにかく! ぽっと出のモブ以外にもミラちゃんを狙う人が出るかもしれないので気をつけて下さい! まあミラちゃんの強さはギルドで思いっきり見せたので、そう簡単に狙おうとするバカは出ないと思いますけど!」

「そうね、気をつけるわ。ありがとうマルタ。さっき心配してくれたことも含めて」

「か、勘違いしないでください! 専属受付嬢として贔屓にしている冒険者がいなくなったら困るってだけですから!」

「ふ、絵に描いたようなツンデレね」

「ああもう、勝手に勘違いしてて下さい!」


 そう言ってマルタは顔を赤ながらそっぽを向いてしまう。

 うん、からかうのはこの辺りにしておこう。


 その後、解体作業をガラルさんをはじめとした解体場場で働く人たちに任せ、私達は帰路についた。

 その途中、ミラが不安そうな顔をしながらこちらを見てくる。


「ミラ、また狙われるの?」

「ミラ……」


 私は静かにミラを抱きしめる。


「大丈夫よ、ミラがすごく強いって事はみんなわかってるから。そう簡単に狙われたりしないわ」

「ふ、そんなバカが来たら、さっきみたいにぶっ飛ばせばいいのよ。もしもの時はあたしも守ってやるから安心しなさい」

「エレン様、アルテナ様……うん、ありがとう」


 そう言って微笑むミラ。

 うん、やっぱりこの笑顔は絶対守りたい。


「ほら、しけた顔してないでさっさと帰るわよ!」

「ちょっと、待ちなさいよアルテナ」

「ま、待ってー! アルテナ様ー!」


 いきなりアルテナが走り出す。

 やれやれ、ダンジョン帰りだっていうのに元気なものだ。

 呆れながらも、私はミラと一緒にアルテナを追いかけた。


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