表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/121

80話 氷嘲の兎刃

 強敵との戦いを乗り越え、平原エリアを突破した私達。

 置いて行かれてしまったタンクの男も連れて、無事転移の間に戻って来たのであった。


「無事に戻って来れたわね。あなたはこれからどうするの?」


 タンクの男に質問する。


「ギルドで他のメンバーが帰るのを待つさ。奴等に事の次第を説明しなきゃならんしな。今回の事はギルド側にも話して、後でお前達に正式な謝罪と賠償をさせてもらう」


 戦いの時と違い、かなり紳士的な態度に少し驚く。

 なるほど、普段はしっかりとした人のようだ。

 とりあえず転移の間から出ようと思い、扉に手をかける。

 すると。


「あんた達何してくれてんですかーー!!!」


 誰かの怒声がドアの隙間から響いてくる。

 

「え、何?」

「この声って……あのクソうさぎじゃないの?」

「一体どうしたのかしら?」


 ドアを開けると、マルタをはじめ、集まったギルド職員と、土下座させられた三人の冒険者の姿が目に映った。


「あれは……俺の仲間だ。先に戻って来ていたのか」

「クソウサギは一体何してんのよ?」


 アルテナは疑問に思うが、その答えはマルタ本人の口からすぐ出て来た。

 

「あんた達本当に何してくれてんですか!? 他の冒険者を巻き込んだうえ、仲間を見捨てて逃げてくるなんて! 熟練の冒険者が聞いて呆れます! あんたらなんてクズがお似合いですよ! このクズ冒険者共!」

「「「う……」」」


 マルタの怒りを込めた説教がギルド内に響く。

 なるほど、どうやら先に帰っていた冒険者達は、私達がブルーオーガにやられたと思って、ギルドに報告したのだろう。

 それで何故か、マルタの怒りに触れてしまったらしい。


「直ぐに救出隊と討伐隊を結成しましょう! 今ならまだ間に合うかもしれません!!」

「マルタ落ち着け! ブルーオーガの対処は必要だが、直ぐには無理だ!」

「マルタ、気持ちはわかるわ。でも、きっと彼女達はもう……」


 ギルド職員達が、急ぐマルタを止めようとする。

 というか……マルタが怒ってる原因って……まさか。


「いえ、ポンコツさん達がタダでやられるとは思えません! きっとまだ生きてるはずです! 今直ぐ助けに向かえば……え?」


 マルタが、転移の間から出て来た私達に気づく。

 目をゴシゴシし、二度見した後、マルタはピシッっと凍りついたように固まった。

 

「えっと……」

「?」

「プッ……」


 マルタが怒っていた理由がわかり、ものすごく気まずくなる。

 ミラにはよくわかっていない様子だが、アルテナは気付いており、笑いを堪えていた。

 うん、とにかく何が起きたか説明をするべきだろうと思い、またギルド内の注目を浴びながら、マルタの元へ向かった。


「えっと……ただいま」

「……コホンッ。お帰りなさい。えっと……どこから聞いてました?」

「その……「あなた達何してくれてんですか」の部分から……」

「最初からじゃないですかーー!?」


 マルタが恥ずかしさのあまり、顔を両手で隠しながら崩れ落ちる。

 そして、アルテナがニヤニヤしながら、マルタに追撃をかます。


「クソうさぎ〜〜? 誰かさんをかーなり心配してたようね〜〜? で、誰を助けに行くのかしら? もう一度言って欲しいんだけど?」

「うわーーー!! 忘れて下さーーい!!! マルタ一生の大恥ですーー!!」

「エレン様、アルテナ様。ウサギのお姉さんは一体どうしたの?」

「えっと……それはね……」

「そこ! 言葉にして言わないで下さーーーい!!!!」


 マルタが恥ずかしさで床をゴロゴロ転がり回る。

 普段マルタを嫌っている冒険者達もその光景に……ざまぁ! という感じで見ている。

 うん、早いところ助け舟を出そう。

 

「えっとマルタ、そろそろ事情を説明させてもらっていいかしら? とりあえず……」


 出るタイミングを失っていたタンクの男を前に出す。


「お前、生きていたのか!?」

「ゆ、幽霊じゃないよね……!?」

「本当に……良かった……!」

「ああ、こいつらのおかげでな。心配かけてすまなかった」


 冒険者達は、死んだと思っていた仲間との再会に心から喜んだ。

 その光景を見て少し涙腺が緩む。

 本当に助けられて良かった。


「……あれ? エレンさん、結局ブルーオーガはどうなったんですか? もしかしてですけど……」

 

 少しだけ持ち直したマルタが聞いて来る。


「実は……」

「おお!! これはまさか……! 伝説のクリスウィスか!?」

「え?」


 マルタに事情を説明しようとしたところで、急に歓喜の声を上げながら、一人の男性が割り込んできた。

 横に太った小柄の男性で、無駄に金がかかってそうなスーツと、シルクハットのような帽子をかぶっている。


「まさかこのような可憐な姿をしているとは……実に素晴らしい!」

「うぅ……」


 ミラを見つめながらそう言葉を続ける男性。

 ミラは気持ち悪さを感じたのか、私とアルテナの後ろに隠れる。


「マルタ、この空気を読まない上に金持ちっぽい人は誰?」

「ああ、この人は大富豪でコレクターのポットデーノという人です! 元々あなた達が持っていた高純度の魔石に興味を持ってこの町に来たらしいんですけど、ミラちゃんがそれを使って進化したという話を聞いて、ミラちゃんに興味が移ったらしいです! まあ言ったのは私なんですけね!」


 なるほど、そう言えば魔石を欲しがる相手への対処をすっかり忘れていた。

 おかげでまたマルタの所に問い合わせが来て、正直に答えるしかなかったのだろう。

 まあ口止めもしてなかったし、そもそも隠す気もなかったからいいのだが。


「ところでクリスウィスって?」

「ミラちゃんの事ですよ! ミミックの中でも幻と言われる伝説の希少種クリスウィス! それがミラちゃんの種族名です! 全くなんて存在生み出しちゃってるんですかあなた達!」

「伝説の……希少種……?」


 いや、ミラは絶対珍しい方だと思っていたが、まさかそこまでとは。

 これは少しまずいかもしれない。


「ちょっと聞いたミラ!? 伝説の希少種ですって! 凄いじゃない! 流石あたしの従者二号ね!」

「凄いの? ミラ、よくわからないけど……」


 アルテナは、ミラが特別な存在だと知ってはしゃぎ出す。

 

「アルテナ、はしゃいでる場合じゃないわよ。で、ポットデーノさんだっけ? あなたの目的は何?」

「ふん、決まっておるだろう。そこのクリスウィスを我がコレクションに加えるのだ。だからほれ、さっさとこっちによこせ」


 その言葉を聞き、私は魔導銃を抜く体勢に入る。

 はしゃいでいたアルテナも警戒モードに入り、いつでも抜けるよう双剣に手をかける。

 

「何をしておる? さっさとよこせ」

「はぁ? あんた、そう言われて渡すとでも思ってんの?」

「ふん、ならいくらだ? さっさと言え」

「大切な仲間を金で売るとでも? ミラは絶対渡さないわ」

「エレン様……アルテナ様……」

「ふんっ。馬鹿な奴らめ」


 私とアルテナがミラを渡さないと見ると、ポットデーノは指をパチンと鳴らす。

 すると、外からゾロゾロと傭兵のような者たちがギルドに入って来た。


「なら力尽くで奪うとするか」

「あなた、こんなことが許されると思っているの?」

「ふ、ワシは気に入った物は手に入れねば気が済まんタチなのでな。なぁに心配いらん。全ては金で揉み消せるからな。そのクリスウィスは、我が館で存分に可愛がってやるとしよう」

「い……嫌! ミラ、あなたとなんか行きたくない!」

「ふ、拒否権なんぞあると思ったか? 魔物風情が」


 ミラが拒否するも、そんなの知った事かという感じで返答し、ニヤつくポットデーノ。

 ああ、だめだ。

 たまにいる、権力や金でなんでも解決できると思ってる人だこれは。

 正直こんなのと関わりたくはない……だが。


「こんなのにミラを渡すわけにはいかないわね。アルテナ、行くわよ」

「ふ、あんたがそんなやる気になるなんて珍しいじゃない。ま、あたしもイラついてたけどね!」

「ミラも戦う! ご主人様達と離れたくないから!」


 そう言って武器を構える私達。

 対するポットデーノはニヤつきながら、傭兵に攻撃命令を出す。


「ふ、無駄なことを。クリスウィスを捕えろ! 他は殺して構わん!」


 そして、私達と傭兵たちがぶつかろうとしたその時だった。


 パン! パン! パン!


「はいはーい! 双方熱くなるのは結構ですが、そこまでにして下さいねー!」


 そう言って手を叩きながら、私達と傭兵の間に立ったのはマルタだった。


「クソうさぎ、急に入って来てなんなのよ?」

「なんなのよ、はこっちのセリフです! ギルド内での私闘は禁止ですよ! ほらほら、子供じゃないんですから言うこと聞きましょうね! 武器を下ろして下さい!」


 そう言われ、私たちも傭兵も仕方ないと言った感じで武器を下ろすが、それにポットデーノが反発する。


「何をしている!? ギルドの決まりなど知った事か! さっさとクリスウィスを奪い取れ!」

「おやー? そこの変態コレクターさんは、冒険者ギルドを敵に回すという事が、どういう事か理解してないようですね? 馬鹿ですか? 子供の頃からやり直した方がいいんじゃないですか? あははは!」

「なんだと貴様!? 奴を殺せ! 殺したものにはボーナスをくれてやる!」


 ポットデーノの命令に従い、傭兵がマルタに斬りかかる。

 咄嗟に傭兵を撃とうとしたが、マルタがこちらに手を向け、待ったをかけた。


「心配いらないですよエレンさん! なんで冒険者をからかいまくってる私が、受付嬢をクビにならないと思います? ちゃんとした役目があるからなんですよ!」


 そう言うと、マルタはどこからともなく剣……いや、“刀”を取り出した。

 そして、腰を低くした体勢をとり、刀を握り締めた次の瞬間。


「抜刀術『氷刃一閃』!!」


 その言葉と同時に、刀から冷気が溢れ出し、マルタが一瞬のうちに傭兵を斬り裂く。


「……は?」


 マルタに斬りかかった傭兵は、何が起きたかわからないと言った顔をしながら、静かに倒れた。

 「な、なんだと……!?」

 

 今起きた出来事に驚くポットデーノ。

 いや、ポットデーノだけではない。

 私やアルテナも困惑している。

 そして、マルタはこう告げた。


「さて、おいたをする子には帰ってもらいましょうか! ギルド職員実力NO.2、『氷嘲の兎刃(ひょうちょうのとじん)マルタ』、その実力を存分に見やがれです!」

なんか後半の流れが急すぎた気が自分でしますw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ