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77話 アルテナ、逝っきまーす

「エレン、何よこいつら? 手を組む時なんてあんの?」 

「私に聞かれても」


 ダンジョンの平原エリアを探索中、魔物達が目の前に立ちはだかった。

 ゴブリンソルジャー三体、ゴブリンアーチャー二体、そこにオーク一体が入った混成パーティである。

 オークがボスとして引き連れているのだろうか?

 まあいいか、とりあえず倒さなければ。

 

「よしミラ、あたしについて来なさい!」

「分かったアルテナ様!」


 ミラとアルテナが魔物達に突撃、そこをゴブリンソルジャー達が剣で迎え撃つ。

 それに対しアルテナは双剣を抜いて、ソルジャー二体をすり抜け様に切り刻み、ミラは本体に収まりながら残りの一体目掛けて体当たり。

 ソルジャーはミラに剣を振るが弾き返され、ミラの体当たりが直撃。

 まるで車に轢かれたかのように吹っ飛ばされた。

 あっさりソルジャーを突破されたアーチャーは、焦ってアルテナとミラを撃とうとするが、当然そんな事は許さない。

 アーチャー二体目掛けて弾丸を撃ち、アーチャーを倒す。

 これで残りはオークだけだ。

 

『ブモォォォ!』


 怒り狂ったオークがアルテナに向かって拳を振る。

 私はすかさず魔導銃に風の魔法を込め、オークの腕目掛けて弾丸を撃った。


風の弾丸(エアブレイド)

 

 弾丸は風を巻き起こしながらオークの腕に命中する。

 そして、風でオークの腕を切り刻み、貫通しながら腕を吹き飛ばした。


『ブモォォォ!?』


「ふ、叫んでる場合じゃ無いわよ」


 オークの攻撃を中断させたおかげでフリーになったアルテナは、すかさずオークの片足を切断。

 片腕と片足を失ったオークはバランスを崩し、後ろに倒れる。


「これでトドメだよ!」


 ミラは大きな石のハンマーを持って、オークの頭目掛けてトドメの一撃を放つ。

 横向きに振り向かれたハンマーは、オークの頭を吹き飛ばし、オークは沈黙する。

 こうして、流れるような連携が決まり、戦闘は終了した。


「エレン、ミラ、良くやったわ!」

「はいはい」


 アルテナがタッチして来たのでやれやれと言う感じでそれを受ける。


「ミラもやる!」

「ええ」

「え?」


 ミラも私とアルテナにタッチしてくる。

 その結果、タッチしたアルテナが吹き飛ばされた。

 まあいつもの光景だし、アルテナも慣れたのか空中で体勢を整え、上手く着地して戻って来る。

 ただ、敵とアルテナ以外にしたら困るので、そこはしっかり教育しておかなければ。


「結構連携も板についてきたわね」

「まあそうね、ミラも中々やるようになったじゃないの」

「えへへ♪ 嬉しい♪」


 平原エリアに入ってから既に数日が経ち、私達は転移陣のある十層まで探索を進めていた。

 ここに来るまでの間、そこそこの戦いを経験しており、おかげで三人での戦いも慣れてきた。

 ミラもオドオドせず前向きに戦えるようになったので、いい調子だ。

 さて、ゴブリンは素材にならないので、魔石だけ回収し、オークはそのままミラに収納してもらう。

 オークは一匹から数百キロの肉が取れるため、探索中の食糧にも困らないし、売ればいい金になる。

 本来そんなでかくて重い荷物を持つわけにはいかないが、ミラの能力で運べるため、かなり美味しい敵となっていた。


「でもちょっと疲れたわね……少し休んでもいい?」

「エレン様、疲れたならミラが運ぶよ!」

「あ、ありがとうミラ。でもそこまでしてもらう必要は無いわ」


 ミラの気持ちはありがたいが、流石に小さい女の子に運ばれるのは恥ずかしすぎる。

 アルテナにも大爆笑されそうだし勘弁だ。

 とりあえずその場で腰をつけ、休む事にした。


 「そういやエレン、休憩したらどこに向かって歩くの?」


 そうアルテナが聞いてくる。

 先に進む階段は平原のどこにあるかわからない。

 その為、迷宮と同じように面倒だが探す必要があるのだ。

 

「そうね……。ねぇアルテナ、一つ試してみたいんだけど良い?」

「何? 階段を簡単に探す方法でも思いついたの?」

「ええ、しかもあなたにしかできない方法よ。頼める?」

「あたしにしか出来ない……。ふ、それなら任せなさい! どんな方法かわからないけど、あたしが華麗にこなしてやるわ!」


 私の思いつきを実行する事に、アルテナからの許可が降りた。

 なら問題ない。

 早速取り掛かろう。


「分かったわ。じゃあミラ、アルテナの腕を掴んで」

「うんっ」

「へ?」


 私に言われ、ミラがアルテナの腕をしっかりと掴む。


「じゃあミラ、アルテナを上に投げ飛ばして」

「はい、エレン様!」

「いやいやいや!? 階段を探すってまさかあんた!?」

「空から探せば簡単に見つかる筈よ。じゃあアルテナ……逝ってらっしゃい」

「アルテナいっきまーす! っじゃない! ちょっとま……」

「えーい!!」


 アルテナが止める間もなく、ミラが勢いよくアルテナを上に投げる。

 上に向かって飛んだアルテナは、米粒のように小さくなり、そして落ちてくる。


「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「ミラ、アルテナを受け止めて」

「分かった! アルテナ様! ミラが受け止めるよ!」


 ミラが両手を上げ、落ちてきたアルテナを受け止めようとする。

 そして。


 ドォォォォン!!!!


 ミラの少し隣の位置でアルテナが地面に激突。

 人型の穴が空いた。


「ごめんなさいエレン様、受け止められなかった……。アルテナ様は大丈夫かな?」

「大丈夫よ、すぐに起き上がってくるから」

「エーレーンー!!!!」


 ボロボロになりつつも、アルテナが怒りながら穴から出てくる。

 

「ほら、大丈夫でしょう?」

「本当だ! やっぱりアルテナ様凄い!」

「ふ、まあね……って! それで誤魔化せるとでも!?」


 流石に誤魔化せなかったらしい。

 よし、おだてよう。

 

「でも本当にあなたにしか出来ない事だったし……自ら体を張ってパーティの役に立つって、主人公みたいでカッコよくない?」

「え? そ、そうかしら……?」


 揺らいで来た。

 後もうひと押し。


「因みに階段は見つかった?」

「ええ、それらしいのは見つけたけど……」

「流石アルテナね。本当に頼りになるわ。ミラもそう思うわよね?」

「うん! アルテナ様は凄い!」

「……ふ、当然ね! あたしは凄いんだから! よし! 階段に向かうわよ! あんた達ついてきなさい!」


 うん、上手くいった。

 階段が見つかってなかったら、何回も飛んでもらうことになってたし、手間が省けて助かった。

 そして、アルテナの道案内で私たちは歩き出し、暫くすると前方に林が見え始める。

 アルテナの話では、林の向かい側に階段と転移陣があるらしい。

 

「よし、このまま真っ直ぐ言って林を突き抜けるわよ!」

「いや、待ってアルテナ。林は避けていかない?」


 林は身を隠しやすい。

 それは魔物にも同様で、身を隠すため林を棲家にしていることも考えられる。

 リスクは避けるべきだ。


「ふ、相変わらず臆病ねぇ。ミラはどうしたい?」

「えっと……ミラもエレン様に賛成……かな」

「っち、それじゃあしょうがないわね、じゃあ周り道を……」


『グォォォォォ!!!!!』


「「「え!?」」」


 突如前方の林から、体を揺さぶるかのような大きな唸り声が響く。

 咄嗟に臨戦態勢を取る私達。

 すると、林の中から4人の冒険者が逃げるように現れる。

 さらにその後ろから、ファングウルフやゴブリン、アサルトボアなどが林の中から現れ、冒険者達を追う。

 やっぱり林の中に魔物が潜んでいたようだ。


「あちゃー、本当に魔物が潜んでいたわね。エレン、どうする?」

「どうすると言われても……距離も遠いし、見た限り私達とは別方向へ逃げてるわ。無理に助ける必要は無いと思うわね」


 非情な決断だと思うが、そもそも冒険者という職業自体自己責任だ。

 相手が助けを求めて来ない限り、介入はしないと言うのが基本である。


「それよりも、さっきの唸り声は一体……」


『グォォォォォ!!!!』


 私の疑問を打ち消すように、林からその存在は現れた。

 巨人とも呼べる体格、青い肌、オークとは違い筋肉質な体、そして頭に生える大きな角。

 

「間違いないわね……あれはオーガよ」

「え? でもオーガって赤いんじゃ?」

「ええ、だからあれはオーガの上位種、”ブルーオーガ“よ」


 鋼のような肉体と圧倒的パワーを持つオーガの上位種、ブルーオーガ。

 まさか普通のオーガよりも先にお目にかかるとは思わなかった。

 

「へぇ、面白そうじゃない! あいつと戦ってみたいわね!」

「あのね……面白半分で挑むような相手じゃないし、そもそも戦わないといけない状況でもないでしょう? 今のうちにさっさと転移陣まで行ったほうが……」

「あれ? エレン様、アルテナ様、変だよ? あの人達、ミラ達の方に向かって来てる」

「え?」


 ブルーオーガに気を取られているうちに、冒険者達が方向転換し、こちらに向かって走って来ていた。

 助けを求めてか、なすりつけ目的かは知らないが、とにかくこっちに気づいたらしい。

 

「ああもう……帰るまで後もう少しだって言うのに……」

「ま、こうなったらやるしかないわよね。行くわよエレン! ミラ!」

「分かったアルテナ様! ミラ頑張るよ!」


 こうなったら仕方ない。

 もうひと頑張りするとしましょうか。

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