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76話 大変だけど嬉しい一日

まったりほのぼの回です。

「え、えーい!!」


 ミラが大きな掛け声を上げながら、敵に向かって大きな石のハンマーを振りかぶる。

 相手は以前戦った事があるアサルトボアだ。

 直進しか出来ないが、その突進力は侮れない。

 

『ブモォォォォ!!』


 アサルトボアも既にこちらに気付いており、ミラに向かって突進して来ている。

 ミラは、それを真っ向から迎え撃ち、ハンマーを上から振り下ろした。


 ドォォォォン!!!


『ブモォォォォォ!?』


 ミラのハンマーがアサルトボアの頭に直撃。

 断末魔を上げながら地面に叩きつけられ、そのまま沈黙した。


「……や、やったー!! やったよエレン様! アルテナ様!」


 ミラが喜びながら、近くで待機していた私の元に抱きついてくる。

 

「よしよし、よくやったわね」

「えへへ……♪」


 ミラを褒めながら頭を撫でる。

 ミラを前線に出して約半日。

 平原なだけあって、狼やイノシシ、ゴブリン(何処でもいる)系の魔物が多く出没するこの階層。

 最初はオドオドしていたミラも、何回か勝利を収めるうちに自信がついて来たみたいで、積極的に前へ出るようになった。

 ミラも、私達の役に立ててるのが嬉しいのか、笑顔が増えて来ている。

 うん、いい傾向だ。


「あ、でもエレン様が作ってくれたハンマーまた壊れちゃった……」


 ミラがポッキリと折れた石のハンマーを見ながら言う。

 ミラのために、小さいサイズから大きいサイズまで幾つかハンマーを作ったのだが、ミラの力に耐えられず、大体すぐに壊れてしまうのだ。


「大丈夫よ、何回でも作り直せるから。寧ろこんなものしか作れなくてごめんね」


 今回の探索が終わったら、ちゃんとしたミラのハンマーを買ってあげるべきだろう。


「ふっふっふ。ミラ、よくやったわ! 流石あたしの従者二号ね!」


「わーいアルテナ様ー♪」

「あ、いや、ハグはちょ……ぐええぇぇ!!」


 ミラの、力いっぱいのハグでアルテナが苦しむ。

 戦っているうちにわかった事なのだが、ミラは少々ドジっ子で、たまにすっぽ抜けたハンマーや、吹き飛ばしたり敵がこっちに飛んでくることがある。

 ただ、何故か私には飛んで来ず、毎回アルテナの方に向かって飛んで行くのだ。

 今のハグも同じなのか、私は大丈夫なのに、アルテナの場合ミラのパワーで苦しむ形になっている。

 何か違いでもあるのだろうか?


「ミラ、私とアルテナをどう思ってる?」

「え? 大好きだよ?」

「え、ええ。嬉しいけど、そうじゃなくてね……」


 ストレートに大好きと言われて顔が赤くなってしまう。

 うん、やっぱり良い子だこの子は。

 

「私とアルテナで、何か考え方に違いとかある?」

「えっと……よくわからない……。でもエレン様はミラが守る人! アルテナ様はミラが守らなくても大丈夫な人って思ってるよ! アルテナ様は凄いから!」


 ……そういえば六階層に入った時、アルテナは強いから心配しなくて良いとか、そんなやりとりをしたような……。

 なるほど、純粋なミラは、それをストレートに解釈してしまったらしい。

 それで、無意識に守る対象である私には、危害を加えないようにしているのかもしれない。

 だが、アルテナはそれから除外されてしまったわけだ。

 いい意味で言えば、アルテナには遠慮する必要がないと思っているのかもしれない。


「良かったわねアルテナ。ミラの全力のハグを受けられて」

「ちっともよく……えっと……ふ、羨ましいでしょう? これがあんたとあたしの差ね! あ、でもちょっとてかげ……ぐえぇ……」


 ミラに気を使って拒否できないアルテナ。

 うん、私だったら骨が砕けてただろう。

 アルテナでよかった。


 ……そして、倒したアサルトボアを回収したところで、日が暮れて来た事に気づく。


「エレン、ここってダンジョン内よね? なんで昼夜があるのよ?」

「そう言う仕組みなんでしょう。わたしに聞かれてもわからないわ」


 マルタのマニュアルにも、仕組みについては書かれていなかった。

 昼夜を作る事で、魔物を管理しやすくしているのだろうか?

 とにかく、暗い夜を歩くのは危険だ。

 そう思った私達は、適当な平地で、今日は休む事にした。


「じゃあミラ、荷物を出してくれる?」

「うん、わかった。えいっ」


 ミラに指定した荷物と、今日倒したファングウルフを出してもらう。

 もちろん携帯食料もあるが、出来るなら美味しい肉を食べたい。

 今から頑張って解体しよう。

 

「じゃあアルテナはいつも通り火起こしをお願いね」

「ふ、任せなさい」

「エレン様、ミラは何をすればいいの?」

「そうね……じゃあ私を守ってくれる?」

「うん、わかった!」


 役割分担も決まり、それぞれの仕事に移る。

 ミラは宙に浮きながら周りを警戒している。

 探知魔法で分かってはいるのだが、せっかく頑張ってるのに水を差すのはどうかと思い黙っておく事にした。

 血を抜いて、皮を剥いで、牙を抜いて、魔石を取り出して……。

 しばらくして解体が終わると、ミラが何かを見つめているのに気付いた。

 視線の先にあるのは、解体して取り出した魔石だ。


「ミラ、魔石がどうかしたの?」

「えっと……美味しそうだなって思って」

「美味しそう?」


 実を言うと、ミラは魔物とはいえ箱だからなのか、食事を必要としないらしい。

 だから、ミラが美味しそうだと言った事に少し驚いた。

 その対象が魔石だったこともあるが。


「じゃあ食べる?」

「え、いいの? やったー♪」


 そう言ってミラは魔石を受け取ると、口の中に放り込む。

 すると、魔石はミラに浸透するように消えていき、ミラは頬を抑えて幸せそうな笑顔を浮かべた。


「美味しいー♪」

「良かったわねミラ」


 ミラの笑顔を見て私も満足する。

 もしかしたらミラにとって、魔石は嗜好品みたいなものなのかもしれない。

 けれど、必要な魔石まで食べられると困るので、ミラには許可したものしか食べないようにとしっかり注意した。

 その後、アルテナの起こした火を囲み、私は今日の夕食を用意する。

 まずファングウルフの肉を、買い直した(前回アルテナが炭にしたので)肉焼き機にセットし、塩胡椒で味付けしながら豪快に焼いて行く。

 次に、焼いた肉を骨から取り出し、厚めにスライス。

 持って来たパンに挟み、豪快な焼肉サンドイッチの出来上がりである。

 早速アルテナと共にかぶりつくと、ジューシーな旨味とパンのふわっとした食感が広がる。


「エレン、めっちゃ美味いわこれ!」

「ええ、ジビエもなかなかいいものね」

「いいなー」


 私達が美味しそうに食べるのを見て、ミラは羨ましそうな表情を浮かべる。

 うん、夕食が魔石一個なんて寂しすぎる。

 私は試しに、焼肉サンドイッチに魔石を挟んでミラに渡してみる。

 だが、肉とパンはミラに吸収されず、味もしなかったようで、そのまま吐き出される形となった。

 やっぱり魔石以外は口に出来ないらしい。

 なので、食事の時は一緒に魔石を食べると言う形にしようと決まった。


「よし、どんどん焼いて行くわよ」


 私はそう言って、ファングウルフ丸々一匹分の肉を焼いていった。

 当然そんなに食べられないが、食べられなかった分はミラに預けて後日食べればいい。

 今のうちに焼いて、後々の手間を省いておくのだ。


「エレン、あんた過保護かと思いきや、ミラの能力を有効活用してるわね」


 若干呆れ気味な顔でそう言われる。

 そう言われても、折角ミラが便利な能力を持っているのだ。

 有効活用しないわけにはいかない。

 そうして何日分もの焼肉をミラに収納してもらったところで、ミラが瞼を擦り始める。

 どうやら眠くなったようだ。

 ミラは寝ないよう頑張ろうとしたが、私の膝の上ですぐに寝てしまった。


「スー……スー……」


 小さな寝息を立てながら眠るミラを抱いて、本体の中に寝かせる。


「頑張ったわね。お休みミラ」


 そう言って、私は静かに箱を閉じた。

 この方が安心して眠れるだろう。


「やれやれ、もう寝るとかやっぱお子様ねぇ」

「実際年は7歳行ってないんじゃないかしら? ほら、このダンジョンって七年前にできたって聞いたし」

「そういやそうね……」


 人間と違って動物や魔物の多くは普通数年以下で大人になる。

 だが、ミラは例外で人相応な育ち方をするとしたら……。

 分身の姿が実際の年齢か、精神年齢、どっちに反映されているかはわからないが、どっちにしろ、ミラはまだ小さな子供なのだろう。

 

「じゃあ私達もそろそろ寝ましょうか」

「まあ、やる事もないしあたしも賛成」


 就寝する事に決めた私達は、周囲に岩の壁を作り、安全を確保した上で布を被り、寝る態勢に入った。


「じゃあアルテナ、お休み」

「ええ、お休み」


 そう言って瞼を閉じる。

 今日もまた大変な一日だった。

 でも、ミラという新しい仲間が出来てとても嬉しい日でもあった。

 あの子の笑顔を守りたい……そんな思考がよぎった時、私はある事に気づく。


(あれ……? 私が異世界にいる理由、増えてない……? ……まあいいか)


 不思議と悪い気がしなかった私は、そのまま意識を夢の中へと落としていった……。

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