75話 クリスウィス
自衛が出来るよう戦いを経験させたところ、予想外の強さを発揮し、魔物とアルテナを一掃することに成功したミラ。
だが状況が分かってないのか、オロオロしながら周りを見渡している。
「ミラ、大丈夫?」
ミラに声をかけながら駆け寄る私。
するとミラは安心したのか、笑顔になってこちらに抱きついてきた。
「エレン様ー♪」
「っ……! ミラ、ちょっとま……」
抱きつかれた私は、ファングウルフをビンタで星にした光景を思い出し一瞬慌てるものの、ミラの力で体が壊れるなんて事はなく、普通に受け止める事が出来た。
……よく考えたらこれまで何回も抱きつかれていたし、慌てる必要はなかったかもしれない。
「エレン様……? 一体何が起こったの……?」
「そうね……一から説明するわ」
私はミラに起きた事を詳細に伝え、その上でミラに質問する。
「ミラ、心当たりはある?」
「……うん、進化する前より力が上がって、ミラの箱(本体)も固くなったって思ってた。でも、そんなに凄かったの?」
「そうね……あそこにある岩を持ち上げてみてくれる?」
私は近くに埋まっていた岩を指差す。
「出来そう?」
「えっと……やってみるね。えい……!」
「な!?」
自信が無さそうなミラだったが、実際やってみると、大きな岩が軽々と持ち上がる。
まさかこんな力を秘めていたなんて……。
改めて探知魔法でミラを見ると、やはりミラにはアルテナに匹敵する魔力が宿っている。
なるほど、アイテム袋を形成している魔力だと思っていたけれど、実際はミラの実力を示していたというわけだ。
「も、持てた……!」
「ミラ、もういいわ。その石は捨てちゃって」
「う、うん。えいっ」
ミラはポイっと岩を投げ捨てる。
ドスンッ!!
「ギャァぁぁ……」
岩が落ちる音と同時に何か悲鳴が聞こえた気がしたが……まあいいか。
次は、ミラが最後に見せた金貨爆弾について聞いてみる。
ミラは、箱の中から出せるようになったけど効果は知らず、混乱して使った結果ああなったという。
「じゃあミラ、それを見せてくれない? でも危険だからそうね……さっき投げた岩に向かって出してみて」
「うん」
ミラは頷くと、本体を操り岩の方に向ける。
すると中から、キラキラとした金貨が岩に向かって降り注ぎ、時間差で再び爆発していく。
岩は爆発により粉々になり、ついでにヒュ〜〜と黒コゲになったアルテナがこっちに向かって吹き飛んできた。
金貨というのがミミックらしく、おまけにすごい威力の技だが……アルテナは一体何をしてるんだろう?
と言うか普通に忘れてた。
「ぐへぇ……」
「何遊んでるのよアルテナ?」
そう聞くと、アルテナは怒りながら勢いよく立ち上がる。
「遊んでないわ!! ていうかミラ!! さっきよくもあたしに剣を投げたわね! マジで痛かったんだから!」
「ご、ごめんなさいアルテナ様……う……うぅ……」
アルテナに攻められ、涙目になってしまうミラ。
それを見たアルテナは……。
「ま、まあわざとじゃなかったわけだし? 今回は許してあげるわ。次から気をつけなさい」
そう言って怒りを収めた。
うん、純粋な少女の涙には勝てない。
「ていうかさっきは何が起こったのよ?」
「それについてなんだけど……」
私はさっきの戦いと、ミラの力について説明する。
そして、ある提案をした。
「今後の戦いなんだけど……ミラに前線を任せようと思ってるわ」
「え? あんた本気?」
「本気よ。言っておくけど、ミラが強いって理由だけじゃないわよ」
ミラの力強さと、ファングウルフの牙にも耐えた防御力を考えれば、前線向きの能力だと言える。
だが、ミラはいきなりの進化で、自分の力をよく理解していない。
まるで刃物の危険性を知らない幼児のように。
だから戦いを経験させて、自分の力を知るのはミラにとってもいい事だし、自信にも繋がる。
臆病で人見知りな性格も治せるかもしれない。
「ミラ、お願いできる?」
「う……うん。ミラ、頑張ってみる!」
ミラは両手を握りしめ、ガッツポーズをしながらそう言ってくれる。
「ありがとうミラ。でもあまり力を入れすぎないようにね。後、混乱しないように。私達がいるって事を忘れないで。もしもの時は絶対助けるから」
「うん!」
よし、出来るだけサポートして自信をつけてもらおう。
それは結果的に、このパーティでの冒険がより楽になることにも繋がる。
そう思い、私達はミラを先頭にして探索を再開した。
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マルタside
「えっとー? ミミックが載ってる本は……あ、ありました!」
現在私はギルドの書庫で調べ物中。
面倒くさいですが自分で言い出した事ですからねー。
口が悪いけど、仕事は真面目にやるのが私なのです!
まあ私の事を知らない、新規さんをからかうしか普段やる事ないんですど、最近はエレンさんとポンコツさんが来るから、地味に忙しいんですよ!
まあそれはさておき、ミミックについて詳しく載ってる本を見つけたので、早速ミラちゃんについて調べてみましょう!
「どれどれー?」
ミミックは様々な物に擬態します。
代表的なのは宝箱ですが、ドアや壁など、種類によって擬態するものは様々です。
ただ、一つ気になるのはミラちゃんの性格です。
ミミックは総じて擬態や能力を駆使して、人を襲う狡猾な魔物なんですが、ミラちゃんは臆病で、そんなことできるとは思えないんですよねー。
そうしてしばらく調べていたわけですが……。
「……全然見つからないですねー。 もうページが尽きちゃいますよ……ん?」
図鑑の最後のページに目が止まります。
そこにはミラちゃんの特徴に合った事が書かれていて……。
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種族名 クリスウィス
幽霊のような分身を作り出す事が出来るミミック。
他のミミックと違い人を襲うことはなく、すぐ逃げてしまう。
しかし、その臆病な性格からは考えられない強さを持ち、追いかけた者は惑わされ見失うか、返り討ちにあう。
発見報告は極めて少なく、進化条件などもわかってないため、幻の希少種とされている。
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「……え?」
思わず目が点になってしまった私なのでありました。




