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74話 予測不能なミラの戦い

 ヴェインの六階層平原エリア。

 何故こんな場所があるかはわからない。

 ダンジョンコアが生成する異次元なので、もはや何でもありなのかもしれない。

 とにかく私達がやる事は、十階層まで続くこの平原エリアを攻略する事である。


「ふ、ここもダンジョンってわけね。面白くなってきたじゃない! 行くわよエレン! 

ミラ!」


 そう言ってアルテナが私達を置いて走り出す。


「アルテナ、足元」

「え? あしも……わぁぁぁ!?」


 アルテナの足元に魔法陣が出現、地面に穴が開き、アルテナは落ちて行った。


「ここはダンジョンなのよ? 罠もあるに決まってるでしょう。いい、ミラ? アルテナみたいな事をしちゃダメよ」

「う、うん……分かったけど……アルテナ様は大丈夫なの?」

「ミラ、アルテナはすごく強いから、心配するだけ無駄よ」

「少しは心配しなさいよ!」


 アルテナが落とし穴から普通に出てくる。


「ほら、心配いらないでしょう?」

「本当だ! アルテナ様は凄いんだね!」

「……そ、そうよ! あたしは凄いんだから! 心配なんていらないわ! ふっふっふ」


 ミラのおかげでアルテナのチョロさが増した気がする。

 うん、これは今後も使えそうだ。


 そして、アルテナを先頭、私が真ん中、ミラが後ろという隊列で平原を進み始める私達。

 平原とあって視界が晴れていて、敵の存在に気づきやすいが、それは相手も同じ事。

 早速こちらを見つけた魔物が私たちの前に現れる。


『グルルルル……』


 現れたのは三匹のファングウルフという、キバが発達した狼の魔物だった。

 あの鋭いキバに噛まれれば、私が着けている皮の鎧くらい、あっさり貫通して噛みちぎられてしまうだろう。


「ミラ、下がってて。アルテナ、任せたわよ」

「ふ、準備運動にもならないけど何も出ないよりマシね」


 

 そう言ってアルテナはデスサイズを出現させ、ファングウルフに向かって突撃する。

 対するファングウルフもアルテナに狙いを定め、三方向から同時に飛びかかる。

 

「ふ、甘いわ!『月輪斬げつりんざん』!」


 アルテナが速度を落とし、ファングウルフを上を取るように跳躍。

 空中でデスサイズと共に回転し、ファングウルフ三匹の首から下を一瞬で刈り取る。

 取りこぼしを撃つつもりだったが、一人で片付けてしまった。

 やっぱり戦闘に関しては流石だ。

 

「アルテナ様凄い!」

「ふ、ミラは本当良い子ね。どっかの生意気な従者とはえらい違いだわ」

「生意気で悪かったわね」


 ミラに褒められ得意げになるアルテナ。

 まあそれより解体を……いや、その前に確認しておく事がある。


「ミラ、家を出る前に預けたものって出せる?」

「えっと……あ、これだよね。えい!」


 ミラの手に小指サイズの氷が出現する。

 私はそれを手に取ると、小さくため息を漏らした。


「はぁ……実験が成功しちゃったわね」

「エレン、どういう事よ?」

「この氷はカルロさんの家を出る前に魔法で作って、ミラに渡した物なのよ」

「へー? で、それがどうかしたの?」

「分からないの? 氷が溶けてないって事がどういう事か」

「え……あ!」


 アルテナも分かったらしい。

 氷が溶けてない。

 つまりミラのアイテム袋の能力は、時間停止能力もあるという訳だ。

 ……欲張り三点セットのアイテム袋が誕生してしまった。

 

「ミラ! あんたやっぱ最高よ!」

「アルテナ様〜!? 目が回るよ〜!?」


 また上機嫌でミラを抱き上げ、回し始めるアルテナ。

 しかし、時間停止能力まであるとは……。

 嬉しいが、こんな便利な能力、世間に知られたら魔石以上に狙われるかもしれない。

 なので、私はミラに一つ提案をする事にした。

 

「ミラ、次はあなたが戦ってみない?」

「ミラが?」

「エレン、過保護なあんたがいきなりどうしたのよ?」

「やっぱりミラにも、自衛する力があった方がいいと思って」


 魔石と違ってミラは生きている。

 自衛できるならそれに越した事はない。


「ミラ、できる限りサポートするからやってみない?」

「う……うん! ミラ、やってみる!!」


 ミラが首を縦に振ったところで、倒したファングウルフは解体せずそのまま収納してもらう。

 時間停止があるなら今やらなくてもいいし、ギルドに任せるという手もあるので便利だ。

 その後、手頃そうな獲物を探したところ、ファングウルフが一匹でうろうろしているのを見つけた。

 少し遠くに仲間と思われる反応が数体あるが、問題はないだろう。

 岩の壁を静かに作り出し、その後ろに隠れて作戦会議を始めたところ、まず武器が必要だという結論に達し、石で出来た小さな剣を作ってみる。


「どう? 持てる?」

「うん、大丈夫! えい、えい、えーい!」


 ミラは石の剣を振り回してみせる。

 うん、これなら問題なさそうだ。

 そして、ファングウルフが後ろを向いた瞬間、ミラが石の剣を持って奇襲攻撃を仕掛け、私は岩の影から射撃で、アルテナはミラの斜め後ろをついて行き、近場からサポートするという事になった。

 

「ミラ、頑張んなさいよ!」

「うん、頑張る!」

「……二人とも、チャンスよ」


 ファングウルフが後ろを向いた。

 攻撃のチャンスだ。

 ミラは箱に収まった状態で宙を浮きながら、岩の影から飛び出し突撃する。

 しかしその時、


「え、えーーーーい!!!!!」


 ミラがが大きな掛け声をあげてしまう。

 いや、それはまずい!?

 当然ファングウルフに気付かれ、あっさり奇襲は失敗する。

 おまけに。


『ワォォォン!!!』


 ファングウルフは大きく鳴き、同時に離れたところにいたファングウルフ達がこっちに近づいてくる。

 仲間まで呼ばれてしまった。

 作戦は完全に失敗。

 こうなったら仲間のファングウルフを私が処理し、目の前にいる奴はアルテナに任せるしかない。

 そう判断した所で、更に予想外の事が起こる。

 ミラがファングウルフを捉え、石の剣を思いっきり縦に振ったと思うと、石の剣がすっぽ抜け、何故か斜め後ろにいるアルテナに向かって飛んだのである。

 

「え? ギャァァ!?」


 まさかのフレンドリーファイヤーにアルテナは反応する事ができず、石の剣が顔面に直撃。

 剣は割れ、アルテナは思いっきり後ろに吹っ飛んだ。


 (いや、なんでこうなる!?)


 心の中でツッコむも、現状は変わらない。


「あ、あれ……? 剣はどこ……?」


 剣がすっぽ抜けてしまったミラは、どうすればいいか分からずオロオロし、ファングウルフはそこを容赦なく襲い掛かる。

 もうダメだと思ったその時。


「い、いやーー!! 来ないでーーー!?」


 ミラが混乱して、口を大きく開けて噛みつこうとしたファングウルフを横からビンタする。

 すると。


『ギャウッ!!』

「え?」


 ミラのビンタが命中したファングウルフは衝撃で牙が折れながら大きく吹っ飛んでいき、そのまま見えなくなった。

 いや、え? どういう事?

 さっきから予想外の事ばかり起きて、私の思考が追いつかなくなる。

 その時、近づいてきた仲間のファングウルフ達が到着し、ミラ目掛けて襲い掛かかった。

 

「キャァ!!」


 ミラは叫び声を上げながら咄嗟に本体の蓋を閉め、ファングウルフから逃げようとする。

 しかし、あの逃げ方はまずい。

 いくら分身が逃げても、本体が噛みちぎられたらどうしようもない。

 咄嗟に銃を撃つが、全部は仕留めきれない。

 そして、ミラ本体にファングウルフの丈夫な牙が突き刺さった……と思った直後。


『『『グァウッ!?』』』


 何故か、ファングウルフ達が苦しみ始めた。

 よくみると、ミラに向けた丈夫な牙がパキッと折れ、空中を舞い、下に落ちていく。

 まさか……牙の威力よりミラの防御力が勝った……?

 いや、考えるのは後にして今のうちに仕留めないと……っと思った瞬間、ミラの蓋が空き、中かキラキラした何かが噴き出す。


「今度は一体……? あれは……金貨?」


 紛れもない金貨だ。

 それが降り注いだと思った瞬間。


ドォン、ドォン、ドォン!!!


 金貨が連鎖的に爆発を起こし、ファングウルフたちを吹き飛ばした。

 爆風が収まると、そこには幾つもの小さなクレーター。

 そして、傷一つないミラの本体があった。

 

「あ、あれ……? どうなったの……?」


 そう言いながらゆっくりと蓋を開け姿を現すミラ。

 正直何が起こったのかよく整理できない。

 ただ一つはっきりしている事は……ミラはアイテム袋だけじゃなく、優れた戦闘能力も持っていたという事だった。

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