71話 新しい仲間
「あ……ありのままに今起きた事を話すわ。あたしがレッサーミミックの中を見たら、昨日入れたアイテム袋が女の子に変わっていた。な……何を言っているかわからないと思うけど、あたしも訳がわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。空から降って来たとか異世界転移だとか、そんなチャチなモンじゃ断じて無い。もっと恐ろしいものの片鱗を味わ……あだぁ!?」
「落ち着きなさい」
混乱して変な口調になったアルテナを魔導銃でぶん殴る。
とはいえ、今の状況はアルテナが言った通りだ。
私も訳がわからない。
とりあえず、もう一度中を確認する。
レッサーミミックの中で、横向きに縮こまる形で寝ている少女。
見た感じ7歳くらいだろうか?
紫色の緩やかなウェーブがかかった、肩より長い髪。
頭の後ろには、大きく可愛らしい赤のリボン。
華奢な体を包む綺麗で優雅な水色のドレス、小さな足にぴったりフィットした赤い靴。
まるで人形のようなその姿に、私は一瞬見とれてしまう。
「どう見てもその辺にいる子供って感じじゃないわね……アルテナ、この子に見覚えはある?」
「無いけど……一つ分かる事があるわ」
「分かる事って?」
「これが本当の“箱入り娘”だって事にぐえぇ!?」
「上手い事言ってる場合か!!」
喉を手刀で突き、アルテナはえづきながら倒れる。
全く……本当は余裕があるんじゃ無いだろうかこいつは。
そんな騒がしいやり取りをしてると当然……。
「う……うーん……?」
眠っていた少女が目を覚ます。
目を擦りながらゆっくり起き上がった彼女は、私とアルテナを見ると急に覚醒し、頭を下げて来た。
「ご、ご主人様!! おはようございます!!」
「「え?」」
私とアルテナをご主人様と呼んだその少女は、頭を上げると、私たちの動揺に気づいたのか慌て始める。
「あ、あの……どうかしましたかご主人様?」
「いや……て言うかあんた誰よ? どっから入って来たの? あとご主人様って……?」
アルテナは全く分かってないようだが、私はなんとなく予想がついた。
正直信じ難い事実ではあるが……。
「あなた……もしかしてレッサーミミック?」
「は、はい! わたし、昨日お二人にお仕えすると決めたレッサーミミックです!」
「えええええーーーー!?」
そう言って手を真ん中で組み、綺麗なお辞儀してくる彼女。
アルテナが驚愕しているが、とりあえず彼女の正体が分かったので一歩前進だ。
次はこうなった原因を聞かなければならない。
「あなたは何で人間の女の子になったの? 転生……って訳じゃなさそうだし」
「あ、いえ、わたしは魔物です! この姿は……えっと……わたしが作った分身です」
「分身?」
確かに、よく見たら半透明のような姿をしている。
「は、はい、こんなふうに動けます」
そう言うと彼女は、フワッと幽霊のように浮かび始めた。
「「え!?」」
私とアルテナの驚きをよそに、部屋の中をクルクルと回転するように宙を動く彼女。
更に、箱までもが宙に浮き始めた。
「こ、こんな風に私の体(箱)も動かせます!」
まるでマジックショーでも見ているかのような気分だ。
宙を動き回った彼女は、再び自分の体を元の場所に戻すと一緒に、箱の中に着地した。
「い、如何だったでしょうかご主人様?」
首を傾け、可愛らしい顔で聞いてくる彼女。
「ご、ごめんなさい……訳がわからないわ。一体どうしてこうなったの?」
「ふ、鈍いわねぇ? こんなの進化したに決まってるじゃ無いの」
アルテナがドヤ顔でそう言ってくる。
さっきは理解するの遅かったくせに……だが、確かにレッサーミミックが進化したというのが、一番可能性が高い。
とはいえ何が原因で……あ。
「アルテナ、昨日魔石を入れたアイテム袋を彼女の中に入れたわよね」
「ええ、そうだけど?」
「それで、そのアイテム袋が消えてたのよね」
「そうなのよねー。全くどこに消えたんだか……あばばばば!?」
「100%それが原因じゃないのーー!!!」
アルテナに雷の弾丸を喰らわせながら叫ぶ。
きっとあの高純度の魔石を吸収してしまったのだ。
それでこんな事になったのだろう。
「はぁ……はぁ……一応聞くんだけど、あなた、魔石を吸収した?」
「えっと……それは……」
彼女は言いにくそうにして俯く。
「はっきりしなさい! あんたに預けた魔石、吸収したのかしてないのか!」
「う……うぅ……ごめんなさい……う……うわぁぁぁん!!」
復活したアルテナが彼女に迫りながら聞くと、彼女は魔石を吸収した事を認め、急に泣き出した。
「ちょっと!? なんで泣くのよあんた!?」
「だって……だって……ご主人様が守るよう言った魔石を吸収しちゃって……でもどうしようもなかったんです……! 魔石の力がわたしに流れ込んできて……お伝えしようとしたんだけど体が動かなくて……そのまま意識が無くなっちゃって……気づいたらこうなってたんです……! うぅ……本当にごめんなさい……!」
涙目になりながら彼女は昨日起きた事を教えてくれる。
なるほど、彼女自身の意思ではなかったようだ。
いや、自分の意思だったとしても、魔物に魔石を預けた私達の責任かもしれない。
私はしゃがんで子供をあやすように頭を撫でる。
「もう過ぎた事だし仕方ないわ。泣き止みなさい、許してあげるから」
「グスッ……本当……?」
「アルテナもそれでいいわよね?」
「……やれやれ、しょうがないわね。あたしも許してやるわ」
アルテナも彼女の泣き顔に負けたのか、渋々と言った感じで彼女を許す。
「にしても……こうなると名前が必要かもね」
「確かにそうね。よし、あたしが名前をつけてやるわ! 魔物でお嬢様っぽい見た目をしてるし、『エレオノーラ・バロウヴェール』なんてどう?」
「あなたね、そんな厨二臭い名前つけたらこの子が可哀想でしょうが」
「かっこいいじゃない!? じゃああんた、他に案はあるの?」
「そうね……」
私は彼女を見つめる。
彼女の可愛らしい姿に合った名前……そうだ。
「『ミラ』……なんてどうかしら?」
「ミラ……?」
「そうよ、気に入った?」
「…………はい!」
ミラは満面の笑みで答えると、箱から飛び出し抱きついてくる。
半透明で幽霊みたいなミラだが、実体はあるようでしっかり受け止められる。
流石に温もりは無いが、心地いい涼しさが感じられる。
「じゃあミラ、これからよろしくね。 あと、ご主人様なんて呼ばなくていいわ。名前で呼んで頂戴、敬語も無しで」
「は、はい……じゃなくて……うん! エレン様!」
「様もいらないわよ」
「でもそう呼びたい!」
うーん……それならいいか。
ちょっと恥ずかしいけどミラの好きにさせてあげよう。
「ちょっと、あたしのこと忘れてない?」
「なに? もしかして名前に満足してないとか?」
「いや、それはもういいわ。それより、あたしの事も様って呼んでみなさい」
こいつは……私がそう呼ばないから、ミラに呼ばせたいらしい。
「うん、分かった! ポンコツ様!」
「へ?」
「プッ!!」
ミラの言葉に思わず吹き出してしまう。
そして、アルテナは一瞬キョトンとしたあと怒り出す。
「何でそうなんのよ!? そこはアルテナ様でしょうが!?」
「え……でも昨日、ウサギのお姉さんにそう呼ばれていたから……」
「あのクソうさぎーーーー!!!」
アルテナの恨みがこもった叫びが響く。
こうして、私達にミラという新しい仲間が出来たのだった。
新しいメインキャラの誕生です。
12月3日2025年12月3日
ミラの挿絵を追加しました




