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69話 虐められた箱

アルテナ、油断するんじゃないわよ」

「ふ、任せなさい」


 私達の前に現れたのは、三匹の角が生えたウサギの魔物、角ウサギである。(名前がそのままな件)

 RPGの最初に出てきそうな雑魚とか思って油断してはいけない。

 素早い跳躍から繰り出される角の一撃は岩にも刺さる。

 なので、見た目に反して手強い相手……の筈なのだが

 

「クソうさぎーーー!!! 覚悟しなさーい!!!」

『キュゥゥゥ!?』


 マルタを思い出すのか、とんでもない殺気が角ウサギ達を襲う。

 とばっちりを受けた角ウサギ達は、その瞬間脱兎の如く逃げ出した。


「同情するけど……一匹もらうわよ」


 本来わざわざ逃げる相手を倒す必要もないのだが、角や毛皮は売れるし、肉は食料になるので一匹に狙いを定め引き金を引き、仕留める。


「じゃあ解体するから少し待ってて」


 アルテナにそう言って、角ウサギを解体し、角、皮、肉(冷凍済み)に分け、アルテナが持つアイテム袋に入れる。


「エレン、そろそろ荷物が重たいんだけど」

「うーん……ダンジョンに入ってから二日くらい経っているから、しょうがないわね」


 何気にここまでトラブルも無く、現在の階層は五階。

 この階層のどこかに転移陣があると言う所まで来ている。

 ここまで来るのに二回野営を行なっているので、体感二日という計算である。

 それだけ歩いていると、道中倒した魔物の素材で、持ち物が結構溜まってきていた。


「こんな安物じゃなくて、異世界主人公がよく持つ無尽蔵に入って、重さを感じなくて、時間停止するアイテム袋が欲しいわね」


 アルテナは自分が持つアイテム袋を見ながら言う。

 これはルベライトの道具屋で買った安物のアイテム袋。

 見た目の数倍入るものの、当然ながらアルテナが言う機能は一つも付いていない。

 

「そんな欲張り三点セットがついたアイテム袋、現実にはそうそうないわよ」


 と言うかそんな便利な物持ってたらまた狙われかねない。

 あの魔石でさえ持て余していると言うのに、そんなのはごめんだ。


「じゃあエレン、ゴーレムにアイテム袋を持たせて運びましょうよ」

「……それはお勧めできないわ」


 一見ゴーレムに任せれば、幾らでも荷物を持てるように見える。

 けれど、私が作れるゴーレムは自立型では無い為、魔物などからの攻撃に対応できないのだ。

 だから守る必要があるのだが、二人パーティだとそんな余裕はないため、荷物が危険にさらされる可能性ができてしまうのである。

 

「……まあそう言うわけで、少人数ならではの問題が発生しちゃっているわけね」

「ぐぬぬ……アルフとケイトがいれば解決するって言うのに……」

「……恋人に振られたショックから立ち直れて無いの?」

「アーシャと同じ言い回しを使うんじゃ無いわよ!」

「まあ、あの二人に限らず、誰か新しいパーティメンバーを入れる事を視野に入れたほうがいいかもしれないわね」


 ギルドにはパーティメンバーを募集している人が毎日いる為、案外難しく無いかもしれない。

 知らない人物をパーティに入れるのは抵抗があるが、検討するのもありだろう。

 

 そんな話し合いをしながらしばらく歩いていると、前方から何かが聞こえてくる。


「また冒険者狩りじゃないでしょうね?」

「流石にそんなのばかりではないと思うけど……ってあれ? こっちに近づいてくるわ」


 前方から現れたのは、若い男性冒険者二人、そしてその二人から逃げる木で出来た宝箱だった。

 ……え? 宝箱?


「おいおい、逃げられると思ってんのか!?」

「とっとと観念しろ!」


 宝箱は男性冒険者から必死にそうに逃げている。

 しかし、前方にいる私とアルテナに気付くと、前後を振り向きながらどうすればいいかわからないと言った感じで止まってしまった。


「お、他の冒険者か? お前達も参加しないか?」

「いや、意味不明なんだけど、あんたたち何してんのよ? 後こいつは何なの?」


 アルテナが動く宝箱を指差しなら質問する。

 動く宝箱……もしかして。


「アルテナ、この宝箱ってミミックなんじゃない?」

「え、ミミック?」


 有名な宝箱にふんして人を襲う魔物だ。

 倒すとお金やレアアイテムを落とすイメージがあるが、もしかしてこの二人はそれを狙っているのだろうか? 

 いや、それでも疑問が残る。


「聞いていい? 何でこのミミックは逃げているの? 後参加ってどう言う事?」

「ああ、知らないのか。こいつはミミックじゃない。”レッサー“ミミックなのさ」

「レッサー……つまり弱いミミックって事?」

「弱いなんてもんじゃない。普通のミミックは宝箱に化けてこちらを食おうとしてくる厄介なやつだが、こいつは牙も舌もない。強さもゴブリン以下、中は空っぽで倒しても魔石すら落とさない。つまり、こいつはただ動くだけの空箱なのさ」


 何と言うか……聞いてるだけで可哀想になってくる魔物だ。

 アルテナもレッサーミミックに向けて同情の目をしている。


「見つけてもガッカリさせられるだけの魔物だからな、せめてこうして憂さ晴らしの役目を与えてやっているのさ。どうだ? お前達もこいつを痛ぶって楽しまないか?」


「「え……?」」


 思わぬ提案に、アルテナと顔を見合わせてしまう。

 そして、私達の返答は。


「お断りさせて貰うわ」

「あたしも趣味じゃないわね」


 当然断る一択だ。

 敵なら容赦はしないが、このレッサーミミックからは敵意を感じないし、おまけに今箱をガクガクさせていて、怯えているようにも見える。

 いくら何でも可哀想だ。

 

「おいおい、ノリが悪いな。相手は魔物だぜ? 痛ぶろうが殺そうが文句言う奴はいないんだぞ?」

「そう言う問題じゃないでしょう? 普通に人としてどうかと思うわよ」

「て言うかわざわざダンジョンに来て旨みも無い相手にイジメとか、あんたら暇なの? なら町で草むしりの依頼でも受けてなさいよ」

「な、何だと!?」


 私達の答えに、男の一人が怒り始める。


「へ、ならお前達相手に憂さ晴らしさせて貰うか。こっちは旨みがたっぷりありそうだしな」

「お、おい待て」

 

 ターゲットを私たちに変えようとした男を、もう一人の男が止める。

 何やらこちらを見て怖がっているように見える。


「おい、どうした?」

「こいつら……もしかして噂のヤバい新人冒険者じゃないか? 関わったら死ぬって言う……」

「はぁ? そんなわけないだろ? そいつらは女二人組で一人が黒髪、もう一人が美人の金髪って話……」


 こっちを見て男が固まる。

 何やら噂が飛躍しているのは気になるが、まあ利用させてもらおう。


「アルテナ、今回は焼くか煮るかどっちにする?」

「え? ……うーんそうね、ちょうど二人いるし両方やるって言うのはどう?」


 アルテナもこっちの意図を読んで乗ってくる。


「そうね、じゃあまずは二人ともバラバラに……」

「「ヒ、ヒィィィィィィ!!!! すいませんでしたーーーー!!!!」」


 二人は顔を青ざめ一気に逃げ出した。

 さっきの角ウサギにも負けないスピードだ。

 一応更なる脅かしとして、雷魔法を込めた銃弾を足元向かって撃ち、さらに怯えさせる。


 バチィィ!!!


「ウギャーーー!!」

「た、助けてママーーー!!」


 雷の音に怯え、情けない声を出しながら、二人は視界から消えていった。


「ふ、とんだ小物だったわね。でも追撃はやりすぎじゃないの?」

「これくらい痛い目見た方が良い薬になるわ。さて、さっさと行きま……あ」


 そのまま歩き出そうとする私とアルテナだったが、目の前にレッサーミミックがいたことに気付く。

 すっかり忘れていた。


「こいつどうすんの?」

「どうするって言われても……そうね……」


 相手は魔物だが、今回に限っては被害者だ。

 木で出来たみすぼらしい箱は、既に何回も攻撃を受けたのか、あちこち凹んだり、斬られたような傷がついている。

 何だか可哀想に思えた私は、ヒールの魔法を銃弾に込め、レッサーミミックに向けて撃った。


『……!』


 何やら箱を開け閉めして驚いているように見える。

 

「ほら、行きなさい。もう変な冒険者に絡まれないようにね」

 

 私はしゃがみ込んで頭(蓋の部分)を撫でながらレッサーミミックにそう伝える。

 そして、その子を残し私とアルテナは先へ進んだ。


「あんた、結構優しい部分あるじゃないの」

「心外ね。私は優しいわよ? 敵とあなたには容赦しないと決めてるけど」

「何であたしが敵と同じ扱いなのよ!?」

「それ位が丁度いいからね」


 そんな話をしながら進むと、大きめの部屋にたどり着く。

 そこには下へ続く階段と、その横に転移陣と思われる魔法陣があった。


「これで五階層突破ね。ふう、今回は厄介なことが起きなくてよかったわ」

「あたしとしてはもっと色々おきて欲しかったけどねー。まあ疲れたし、今回はとっとと帰りましょ」

 

 そのまま私とアルテナは転移陣に乗ろうとする。

 その時。


 トスン、トスン、トスン


「……? エレン、何か聞こえない?」

「この反応は……もしかして……」


 物音を響かせながら現れたのは木の宝箱。

 いや、さっきのレッサーミミックだった。

 一体どうしたのだろうか?

 少なくとも敵意はない。


 トスントスントスン!


 レッサーミミックはこちらを見つけるとさらに速くこちらに近づいてくる。

 そして、こちらに向けてジャンプしてきた。


「え!?」

「ちょ!? エレン!?」


 ジャンプしてきたレッサーミミックを思わず両手で受け止めてしまい、その反動で転移陣に入ってしまう。

 そして、それを追ってきたアルテナと共に、私達はギルドへと転移してしまった。

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