68話 エレン、探知魔法を進化させる
本格的なダンジョン攻略を始めた私達。
セーブポイント的な五階層の転移陣を目指して、ダンジョン内を進んでいた。
「アルテナ、くれぐれも一人で突っ走ったり、私が危ないと判断した物には触れないでよ?」
「分かってるわよ、ふ、そんなにあたしが心配なわけ?」
「ええ、できる事なら首輪とロープをつけて欲しいくらいね。今からでもつける?」
「あたしはペットかーー!? つけるわけないでしょ!!」
割と本気でつけて欲しかったんだけど……。
いや、よく考えたら私じゃアルテナの力には敵わないから意味ないか。
その後、特にトラブルもなく探索を進めた私達は、何もない小部屋を見つけたので一旦休む事にした。
「…………」
「エレン、何か難しい顔してるけどどうかした?」
私が考え事をしていると、アルテナがそう聞いてくる。
「ええ、不意を突かれた時の対策を考えていたわ」
「はぁ? あんたには探知魔法があるじゃないの。何でそんな事気にすんのよ?」
「それでもどうにもならない事もあるのよ」
昨日、魔戦士のミ……何とかに剣を突き出された事を思い出す。
あの時、相手を視認できていたにも関わらず私は対処できなかった。
理由は簡単、ミ……何とかを敵と認識していなかったためである。
今後、このような事が起きないようしたいが、いいアイデアが浮かばない。
「どうしたらいいと思う?」
一応アルテナに相談してみる。
「ふ、そんなの簡単じゃない。怪しい奴全員ぶっ倒せばいいのよ!」
「無実の相手をぶっ飛ばしたらどうすんのよ? ドン・ガイさんと同じ牢屋にでも入る?」
「それだけは嫌よ! えっと……じゃあケイトでも連れてくるとか? ほら、『危機察知』のスキル持ってたじゃない」
……確かに、ケイトさんのスキルなら解決できるかもしれない。
とは言えパーティを組む話は無しになったし、そもそも私自身がどうにかしたいと言う話なので、その案は使えない。
「せめて私にもケイトさんのスキルが使えたら……ん?」
「どうしたのよ」
「その手があったわ、一つ試してみてもいい?」
「お、その言葉久々ね、今回は何するの?」
「ケイトさんの『危機察知』を習得するのよ」
確か私のスキルは、感覚も技術で多少伸ばせたはず。
そもそも探知魔法だって、魔力を意識した結果できた魔法だ。
出来てもおかしくはない。
私は目をつむり、危険な物を感知するイメージを浮かべる。
そして……。
「……何も変わらないわね」
「え、まさかの失敗?」
「いや、よく考えたら危険な物が近くに無いと意味無かったわね」
仕方ないのでこれは後で試すとしよう。
丁度疲れも取れたので、先に進む為立ち上がった私は探知魔法を展開する。
「……あれ?」
「ん? どうかした?」
アルテナが青い。
今まで単に光っていたアルテナの魔力が青く見える。
これはどう言う事だろう?
そのままじっと見ていると……。
「な、何よじっとこちらを見つめて……? あたしの顔に何かついてんの?」
アルテナがそう言うと同時に、今度は魔力が黄色に変わった。
これはもしかしたら……。
「アルテナ、『危機察知』習得できたかもしれないわ」
「え、どう言う事?」
「まだ危険に遭遇してないから確証はないけど……」
ひとまずアルテナに今起きた変化と、それに対する私の仮説を説明する。
その後、再びダンジョンの探索でしばらく歩いた後、正面から何かの声が聞こえてくる。
「助けてくれーー……」
微かだが、確かにそう聞こえた。
誰かが助けを求めているみたいだ。
「エレン、行くわよ!」
アルテナの後を追いかけるように走ると、十字路となっている通路の手前で、足から血を流した男が、壁に寄りかかるように倒れていた。
「ああ君達、すまないが回復ポーションを分けてくれないか? 魔物との戦いで足を怪我してしまって……」
その男はこちらに気付くと助けを求めてくる。
「ふ、安心しなさい。エレン、こいつに『ヒール』を……」
「アルテナ、騙されないで。こいつ“赤”よ」
「げっ!?」
私の言葉を聞いて、アルテナは男から遠ざかる。
「そこの十字路の影に隠れてるやつも出てきなさい」
「……ち、何でバレた!?」
十字路の影から男が三人現れ、倒れていた男も平然と立ち上がる。
「おいおい、勘の鋭い嬢ちゃん達だな。不用意に近づいてきた所を襲うつもりだったのによ」
やっぱり冒険者狩りだったらしい。
「ちょっと、また冒険者狩りなの!? にしてもあんたの予想マジで当たったわね」
「ええ、本当に赤く見えると思わなかったわ」
先程、アルテナが最初は青く、警戒した時黄色に変わった。
なら単純に考えて、こちらに敵意がある時は赤になるんじゃないかと思ったのだ。
まさか魔力の色で識別できるようになるとは思わなかったが、結果オーライである。
「じゃあアルテナ、サポートするから前衛はまか……」
『麻痺の邪眼」
「ギャァァ!?」
「え?」
普通に戦うのかと思いきや、アルテナが久々に『邪眼』スキルで冒険者狩りを全員麻痺させる。
「邪眼を使うなんて珍しいわね」
「こんな連中いちいち相手してらんないわ。さっさとボコるわよ」
なぜか機嫌が悪くなったアルテナと共に動けなくなった冒険者狩りを全員痛い目に合わせ、縄で縛り上げる。
「何で機嫌悪くなってるのよアルテナ?」
「はぁ……そりゃそうもなるわよ。ダンジョンで冒険者同士の出会いとか、助け合いとかそう言うの求めてるのに、今んところ襲ってくるやつの割合が多いじゃないの! どうなってんのよ!?」
「アルテナ……ダンジョンに出会いを求めるくらいなら、路地裏に出会いを求めた方がいいわよ」
「何でそうなんのよ!?」
「少なくともダンジョンよりは安全じゃない」
「おいお前ら! 俺らを忘れてべちゃくちゃ喋ってんじゃねぇ!」
ボコられた上に縛り上げられた連中が何か言っている。
さて、今回はどうしようか……。
「ちょっと、またオークに(性的な意味で)食わせるんじゃないでしょうね?」
「それもありだけど、今回媚薬持ってきて無いのよね……ん?」
探知魔法に何かが引っかかった。
ってこの大きさと反応は……。
『グォォォォ!』
「あ、噂をすればオークだわ」
「タイミング良すぎじゃない? ま、今回は普通に倒して……」
「いや、ちょっと待ってアルテナ、様子がおかしいわ。」
オークは女性である私達ではなく、縛り上げられた冒険者狩りの方を見ている。
おまけに探知魔法で見ても青く、私達に全く敵意を持っていなかった。
疑問に思いながら観察すると、オークの足に弾痕のような傷がついていることに気づいた。
あ、このオークってもしかして……。
「前回冒険者狩りを(性的に)食べさせたオーク?」
「え、マジで?」
オークはこちらに向かって一旦頭を下げると、縛り上げられた冒険者狩り達を持ち上げる。
「お、おいなんだこのオークは!?」
「何で女じゃなくて俺達を狙うんだ!?」
「おい、冗談じゃ無いぞ!? 誰か助けてくれーーー!!!」
必死の叫びも虚しく、連中は上機嫌でオークにお持ち帰りされていった。
「……ちょっと、もしかしてあたし達、ヤバいモンスター生み出しちゃってない?」
「まあ、問題ないでしょう。むしろああ言う連中を処理してくれて助かるわ。それよりもアルテナ、あそこを見て」
私は十字路の一つの道を指差す。
そこには、大きな下り階段が存在した。
「もしかして、次の階層への階段!?」
「きっとそうね。早めに見つかってよかったわ」
こうして、私とアルテナは第一階層を突破し、次の階層へ進んだ。
因みに、男色に目覚めたオークは、その後多くの男性冒険者を恐怖のどん底に叩き落としたらしい。
うん、知らぬが仏である。




