67話 再びダンジョンへ
ギルドに協力してもらい開催された、魔石と魔導銃の争奪戦は無事私たちの勝利で終わった。
アルテナの強さと魔導銃が私以外扱えないという事実を、参加した冒険者や観戦していた者たちに見せつけられたので、そう簡単に私達を狙ってくるような奴は現れないだろう。
ドン・ガイさんが「後始末はギルドに任せてくれ」と言ってくれたので、私は未だ起きないアルテナをゴーレムで引きずりながら帰路に着いたのであった。
……その夜、夕食の時間に今日のことを話すと、カルロさんはまた呆然とし、アーシャさんもまた爆笑し始めた。
「あはははは!! 二日連続で何やらかしてんだ!? 本当おもしれーなお前ら!!」
「適切に処理しただけよ。ねぇアルテナ?」
「おぇぇぇ……エレン……水……」
アルテナは無事目を覚ましたものの、受けたダメージは深刻な様子で、まだえずいていた。
しょうがないのでコップに水を注いであげると、ゴクゴクと勢いよく飲み出した。
「まあ、アタシもお前らが狙われないか心配だったんだけどな。しかし大胆な行動だったな。魔石とその魔導銃を賭けた争奪戦を開催するとか、負けたらどうするつもりだったんだ?」
「その時はその時よ」
そう答えたが、実際は負けるつもりは一切無かった。
魔石に関しては勝っても負けてもどっちでも良かったし、魔導銃は本来圧縮した魔力を撃ち出すだけの魔道具で、魔法を込めているのは私である。
つまり、私が出した条件の属性魔法を一種類以上使うというのは、達成不可能な出来レースだった訳である。
けれど残念だ。
もし魔導銃を撃てる人が現れたら、マテツさんを紹介しようと思ってたのに。
「あの変態筋肉〜〜……」
水を飲み終えたアルテナは、まだ恨みを吐きながらテーブルに突っ伏している。
「まあ、今回ばかりは同情するわ」
「当たり前よ……あんな奴にあたしの初めてが……」
「おいおい、アルテナ? お前、そんな美人のくせに男いた事ないのか?」
アーシャさんが少し驚きながら聞く。
確かにアルテナは腐っても女神と言う事なのか、透き通るような金髪と整った顔を持っており、性格に問題がある事を除けばとんでもない美少女なのである。
性格に問題があることを除けば(大事なことなので二回言う)。
「……ねぇエレン、お願いがあるんだけど」
そう言うと、アルテナはいきなり手をこっちの肩に乗せ、真っ直ぐこちらを見つめてくる。
「……な、なに?」
「……あたしの初めて、上書きしてくんない?」
「気色悪い事言うなーーーー!!!!!!」
「ギャァァァ!?」
とんでもない悪寒が走った私は、咄嗟に手をチョキにして、アルテナに目潰しを喰らわせる。
「はぁ……はぁ……、いくら美少女でもあんたと百合展開なんてごめんよ!!!」
「わ、悪かったわ!! あたしがどうかしてた!!」
うん、どうやら正気に戻ったようだ。
やれやれ、明日精神科に診てもらったほうがいいだろうか?
「お前ら本当に仲良いな。羨ましいぜ」
そんなやり取りを微笑ましそうに見ていたアーシャさんが言う。
いや、そんな目で見られても……
まあいいか、それより……。
「結局、今日争奪戦で一日使っちゃってダンジョンの用意できなかったのよね」
「それならウチの店で用意してけばいいじゃねぇか。色々揃ってるぞ? なあカルロ」
「はい。家なら大抵の物は揃ってますしサービスしますよ」
「本当?」
それならわざわざ出かけなくても良かったかもしれない。
最初に雑貨屋の品揃えを見た時はドタバタしてた部分もあって、あまり見てる時間はなかったのだ。
それでも何かに使えるかもしれないと幾つか薬を買ったのだが。
「……そういえば買った私が言うのもなんだけど、なんで媚薬なんて置いてあったの?」
「ああ、それは家で使う分が余ったので……グフッ!?」
カルロさんのボディにアーシャさんの拳が入った。
「……お前らは何も聞いてない? 良いな?」
「「は、はい……」」
私とアルテナは即返事した。
うん、家庭事情に踏み込んではいけない。
その後、カルロさんはそのまま失神した。
……その翌日、カルロさんの店で食料や道具などを買った私達は、ギルドに向かって歩き出していた。
「ふっふっふ、今日から本格的にダンジョン攻略するわよ!」
昨日の傷はもう良いのだろうか?
朝から無駄にテンションが高いアルテナである。
「はぁ……ここからが大変ね」
マルタのマニュアルによると、ダンジョンは一回層毎に全て回ろうとしたら一日以上かかってしまうほど広いらしい。
ダンジョンは構造も少しずつ変わるから、下へ行く階段の場所も分からない。
つまり、最悪一階層クリアするのに一日かかってしまうのだ。
今回は五階層の転移陣を目標としているため、五日以上かかる事を覚悟しなければならない。
その後、ギルドに辿りついた私とアルテナは、いつも通りマルタのいる受付へ向かう途中、何やらひそひそ声が聞こえて来た。
「おい、あれが噂のヤバい新人か?」
「ああ、見た目に騙されるなよ。あの金髪の強さはやべぇ……腕っぷしじゃ誰も敵わないぞ」
「それよりヤバいのは黒髪の方だろ……!! 死にたく無かったら絶対関わるなよ……!」
うん、作戦通りアルテナの強さが広まっているようだ。
しかし、何故魔導銃じゃなくて私がヤバイ事になっているのだろう?
まあ所詮噂だし、内容が変化する事はあるかと私は結論づけた。
「マルタ、おはよう」
「クソうさぎ、今日も来てやったわよ。ありがたく思いなさい」
マルタの受付は平常運転のようで、相変わらず並ぶ事なく私達は辿り着けた。
いつも思うがこの時間何しているのだろうか?
「おや、エレンさんポンコツさん、おはようございます! 昨日はお疲れ様です! 馬鹿な奴らをぶっ倒してさぞかし気分は爽快でしょうね! 今日もやっちゃいますか!? 無実の人たちもボコっちゃいますか!?」
「やるわけ無いでしょうが!!」
「それより昨日はありがとね、マルタ」
ギルドが協力してくれたお陰でうまく行ったので、私は改めてお礼を言う。
「気にしないで下さい! 他人の大事な物を奪うイベントに参加する連中なんて碌なのがいませんからね! 昨日の事で大人しくなってくれたら、ギルドや町にとってもいい事ですし! 高級ランチフルコースで手を打ちましょう!」
「結局たかる気じゃないのよ!」
いつもの二人のやり取りが始まる。
楽しそうでなによりである。
「ところで今日はなんのご用ですか? もしかして昨日のキッスで変態マスターに惚れちゃいました!? 式の用意を依頼しに来ちゃいました!?」
「んなわけないでしょう!!!! いくらなんでも言っていい事と悪い事があるわよクソうさぎ!!」
「確かにそうですね、ふざけすぎました! 申し訳ありません!」
珍しくマルタが頭を下げる。
流石に今のは無いと思ったようだ。
「まあ、どっちにしろ今変態マスターはいないんですけどね! 昨日セクハラ容疑で捕まったので!」
「「え?」」
マルタによると、昨日公衆の面前で行った、アルテナへのセクハラ行為が原因でとうとう捕まったらしい。
そういえば昨日集まった人々の中に兵士がいたような……。
この為だったのだろうか?
「ドン・ガイさんがいなくてギルドは平気なの?」
「まあ一週間程度で戻って来ますので大丈夫ですよ!」
「いや、短すぎでしょ!? あんな歩くわいせつ物三千年くらいぶち込みなさいよ!」
「それは流石に困ります! 私もよく病気にかかって、自慢の筋肉がしぼみながら惨たらしく死ねば良いのにとか思ってますけど、いざという時には頼りになりますので!」
居て欲しいのか死んで欲しいのかどっちなんだか。
と言うか幾ら本人がいないからって、お互いボロクソ言い過ぎである
そんなに嫌な人じゃ……ないとは言い切れないのが困った所なのだが。
まあ大丈夫らしいし、とりあえず本題に戻ろう。
「マルタ、今日はダンジョン攻略のために来たんだけど」
「なるほど、そう言う事でしたか! では念の為、自分達が死んだら私に魔石を譲ると言う内容の遺書を……」
「マルタ、そう言うのいいから」
「あ、はい」
いちいち相手してたらキリがないので、私はマルタを睨みつけ強引に話を進める。
ダンジョンに関してはもう許可証を出したので好きに入っていいとの事だった。
ただ、戻った時は持ち帰った物をギルドの査定に回す必要がある為寄って欲しいのと、前回みたいに目立つ行為は抑えるよう言われた。
うん、それに関しては本当に申し訳なかった。
「他に何かありますか?」
「あ、一つだけいい? これなんだけど……」
私は昨日返し忘れた、折れた魔剣を取り出す。
「もしミ……えっと、名前忘れたけど持ち主が来たら返してくれるかしら?」
「分かりました! でも折れた剣なんて、そのまま返されても嫌がらせにしかならないと思いますけど?」
「それは忠告したのに剣を外さなかった向こうが悪いわ。じゃあお願いするわね」
「了解です! ではお二人とも精々頑張って下さいね!」
「ふ、またあんたが度肝抜かれるような物見つけてくるから覚悟してなさいよ!」
そう言って、私とアルテナはマルタと別れ、再びダンジョンへ向かった。
さて、今回は何が待っているのやら……。
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