65話 魔戦士ミレイ、登場
魔石をかけた激しい戦いにアルテナは身を投じ、勝利をもぎ取ったものの、大怪我(精神的)を負い再起不能になってしまった。
アルテナと同じ轍を踏まないよう、この世界に来てから最大限の警戒(味方に)をしながら魔導銃を賭けた戦いに挑む。
「おーいポンコツさーん? 生きてますかー? ただのポン骨状態ですかー?」
マルタは倒れたアルテナに対し、チョップやビンタ連発しながら煽っている。
うん、彼女に任せておけば大丈夫だろう。
私はドン・ガイさんと共に模擬戦場の中央に立つ。
「よーし次は彼女、エレン君が持つ魔導銃を賭けた争奪戦をするぞ! 参加したい者は前に出たまえ!」
模擬戦場に来ていた冒険者の多くが、魔石欲しさにアルテナへ挑み吹っ飛ばされたものの、どうやら挑んでなかった者もいたようで、十数人の冒険者が前に出た。
「参加者はこれで全員かしら?」
「お、おい! 先にどんなお題を出すか教えてくれ!」
冒険者の一人が怯えながら聞いてくる。
先程の戦いで警戒されてしまっているようだ。
「たいした事じゃないわ。私が出すお題は、あなた達が欲しがるこの魔導銃を使いこなすことよ」
「そ、それだけか?」
「使いこなせない人に譲ってもしょうがないでしょう?」
私は何言ってんの? という感じで答える。
改めて集まった冒険者を見ると、全体的に弓や杖を持った後衛担当と言った感じの人と、ガタイはいいが、特に武装をしていない人に分かれていた。
後者は恐らく、パーティで持ち物を持つ役目のポーターだろう。
なるほど、魔法やサポートを得意とする人たち中心に集まったというわけだ。
「質問も無いみたいだし、それじゃあ……」
「ちょっと待ちなさい」
急に一人の女性冒険者が私の前に立つ。
紫色の長い髪に、血のような赤い瞳を持った美しい女性。
彼女はこちらを睨みつけたと思うと次の瞬間、腰に差した鋭い剣を抜き、私の首目掛けて突き刺して来た。
「っ!?」
グサっという音と共に、私は後ろへ倒れ込んだ。
一瞬死んだかと思ったが、私の意識はある。
咄嗟に首を手で確認するものの、付いているし傷も無い。
その事実に安堵しながらも目線を上に向けると。
「……ミレイ君、何のつもりだい?」
「あらギルドマスター、ごめんあそばせ」
ドン・ガイさんが、ミレイと言う女性冒険者の剣を手のひらで受け止めていた。
咄嗟に庇ってくれたのだろう。
ポタポタと血が流れるものの、剣はドン・ガイさんの手を貫通していなかった。
「その筋肉は見かけだけでは無いという事ね、流石だわ」
「君のような美人に褒めていただけるとは光栄だよ。勿論こんな事をした理由を説明してくれるよね?」
ミレイは剣を収めると、こちらを見下ろしながら答える。
「その子の実力を確かめたかったのよ。さっきのアルテナって子と一緒で本当は強いんじゃないかと思ってね。当然寸止めする気でいたけど……まさか全く反応できないなんて期待外れだわ。ギルドマスターが止めなかったら本当に刺しちゃってたかもね。ごめんね、お嬢ちゃん?」
「……っ!!」
笑い事じゃない。
ドン・ガイさんがいなければ、私は死んでたかもしれないのだ。
「怪我は大丈夫?」
「はっはっは、これくらい何とも無いさ。エレン君こそ怪我はないかい?」
まるでイケメン主人公のようだ。
これで変態じゃなければ少しキュンとしてたかもしれないのに……現実は残酷である。
まあそれよりも。
「傷を見せて……っ!? これって……!」
ドン・ガイさんの手は、何かに切り裂かれたかのような傷が手のひら全体に広がっていた。
「ごめんなさいね? 私の愛剣『旋風の刃」は、暴れ馬のように気性が荒いのよ」
ミレイは自身の剣を見せびらかすように言う。
探知魔法でそれを見ると、荒れるような風の魔力を剣が纏っていた。
なるほど、風の魔剣という訳だ。
だけどそんな事よりドン・ガイさんの傷だ。
私は魔導銃を抜き、彼の手に向けてヒールの魔法を込めて放つ。
「これは……!」
手に負った傷が完治するのを見て、ドン・ガイさんは驚きの様子を見せる。
「まさか回復魔法まで放てるとは……驚いたよ。ありがとう」
「いえ、お礼を言うのは私……」
「へぇ……まさか回復まで扱えるなんて……ますます欲しくなって来たわ……!」
こちらの言葉を遮り、ミレイは熱い視線を魔導銃に向けながら言う。
「そんなに欲しいのね。じゃあ早く準備を整えてあげるわ」
私は魔導銃に土魔法を込め、岩製のカカシを三つ、そして自分の背後に大きな岩の壁を作り出す。
壁は何発も土魔法を込め厚さを増し、絶対壊れないようにしておく。
「ルールは簡単、今私が立っている位置から魔導銃を撃ってカカシに命中させる事よ。ただし属性魔法を1種類以上使ってもらうわ。以上だけど何か質問はある?」
「後ろに作った岩は何かしら?」
「ちょっとした手間省きよ。気にしなくていいわ。他には……」
「無いからさっさと退きなさい」
ミレイは私を突き飛ばしながら魔導銃を奪う。
「っ! 随分せっかちね」
「優れた道具は優れた者が持つべきよ。これは私にこそ相応しい物だわ。それに、狙われてるって噂程度で手放すような臆病者が持ち主じゃ可哀想じゃない。早く私のものにしてあげないと」
「……確かに、なにも言い返せないわね。まあ頑張って頂戴。あ、でもその魔剣は外した方がいいわよ」
「なにを言っているの? 愛剣を外すわけなんてないじゃ無い」
「そう、ならいいけど」
「後、あなたは何回までって言う挑戦回数を指定しなかった。つまり私が成功するまでやらせて貰うけどいいわよね?」
「……ええ、良いわよ」
私はミレイから離れ、ドン・ガイさんの所へ行き、様子を見守る。
というか彼女の独壇場で、周りはなにも言わないのかと思ったが、他の冒険者はすでに諦めムードになっていた。
どうやら彼女には逆らえないらしい。
「ドン・ガイさん、彼女は何者なの?」
「スキル『魔戦士』を持つ、実力は確かな冒険者さ。だが素行が非常に悪くてね。彼女がこの町に来てから一ヶ月しか経ってないが、既に町でいざこざを十件以上起こしている。ギルドでも悩みの種になっているんだよ」
「ふーん……『魔戦士』ってどんなスキルなの?」
「魔法こそ使えないが、魔力のコントロールに長けたスキルでね。扱いが難しい魔道具も使いこなす事が出来るのさ。しかしその彼女が現れたとなると……君の作戦は残念だが失敗に終わりそうだね」
なるほど、魔道具の扱いを得意とするスキルか。
今回の目的は、魔導銃の扱いが難しく、私にしか扱えないと言う事実を広めるためのものだったのが……。
「確かに……そうなると予定が狂うわね。でも問題ないわ。元々彼女に勝ち目なんて無いから」
「ほう? それはどう言う……」
ドォォォォン!!
魔導銃の銃口から爆発が起きると共に、ミレイが後ろに吹き飛ばされ、先ほど作った岩に激突した。
「「「「「え?」」」」」
様子を見ていた他の冒険者とドン・ガイさんからおかしな声が出る。
さて、漁から大物一本釣りに予定が狂ったが、なにも問題はない。
盛大に見せしめになってもらうとしよう。




