64話 魔石争奪戦
ヴェインの冒険者ギルドは辺境にあるとはいえ、ダンジョンがあるお陰で毎日数多くの冒険者が訪れる場所である。
その一角には、冒険者の為に作られた大きな模擬戦場が存在する。
屋外に存在し、丸太で作られた高い柵に囲まれたその場所は、現在お祭り騒ぎとなっていた。
「おい、あの話は本当なのか!?」
「ああ、確かに聞いたぜ。この町に来たばかりの新人冒険者が、ダンジョンで手に入れた巨大な魔石と、その一人が持っていた便利な魔道具を他の冒険者に譲る事にしたってな。その相手をここで決めるそうだ」
「へ、きっとあの変態マスターから自分達が狙われてるって噂を聞いて怖くなったんだろうぜ。新人が調子に乗るからだ、いい気味だぜ」
「魔道具も欲しいがやっぱ魔石だよな。へへ、一生遊んで暮らせるぜ」
ニヤニヤした冒険者達がそんな話をしていると、模擬戦場に四人の男女が姿を現し、その場にいる者たちの目が集中する。
うち二人はエレンとアルテナ。
一人はウサギ獣人の受付嬢マルタ。
そして、皆が狙う巨大な魔石を肩に持った、海パン姿のギルドマスター、ドン・ガイであった。
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エレンside
模擬戦場には、魔石や魔導銃を欲しがる多くの冒険者の他に、商人らしき者や、町の兵士まで来ている。
まあいたところで問題はない(むしろ好都合)のだが、そんな事より……。
「ねぇマルタ? なんでドン・ガイさんはまた海パン姿になったの?」
「まあ、あれが基本ですからね! 女性と個室で話す時だけちゃんと服を着るんですよ!
変なところだけきっちりしてますよね! まあ、筋肉を膨らませるとすぐ服が破けるっていうふざけた理由もあるんですけど!」
結局普段は海パン一丁なのか……。
アルテナは「あれはエルフじゃない……あれはエルフじゃない……」と言い聞かせ心を保とうとしている。
うん、今回ばかりは気持ちがわかる。
そして、私達が模擬戦場の中央に立つと、ドン・ガイさんが話し始める。
「はっはっは! 冒険者の諸君! 話は聞いてるかもしれないが改めて説明しよう! 昨日ここにいる新人がダンジョンから見つけた巨大な魔石、彼女が持つゴーレムを作り出せる他、様々な魔法を扱える魔道具! 何とこれらを譲ってくれるそうだ! だがより優れた冒険者に持って欲しいとの彼女達の意向により、ここで争奪戦の開始を宣言する!」
そういってドン・ガイさんは魔石を天高く掲げる。
すると。
「「「「「「ウォォォォォ!!!」」」」」
模擬戦場に威勢のいい声が響き渡る。
普通に暑苦しい。
「はっはっは! では皆頑張ってくれ! ではマルタ君、ルール説明を頼むよ!」
「了解しました! いたいけな少女達から略奪を企む冒険者の皆さん! 耳かっぽじってよく聞いて下さいね!」
「「「「「うるせぇてめぇは帰れーーーー!!!」」」」」
マルタにブーイングの嵐が飛び交う。
日々どんな事をしているのだろう?
マルタは当然の如くスルーして話を続ける。
「ルールは簡単! 彼女達から出されるお題を最初にクリアした人に魔石、ついでに魔道具が贈呈されます! 共通ルールとして殺人、途中抜けは禁止とさせていただきます! もし怪我した場合はこちらで用意した回復ポーションがありますので、安心して自腹を切って購入して下さい!」
「安心できねぇよ!」
「自腹かよケチだな! そこの主催者が払えよ!」
マルタの説明を聞き、そんな言葉が飛び交う。
というか主催者って私とアルテナだろうか?
一応宝を譲ると言う体なのにポーション代まで払えとか……うん、遠慮は要らなそうだ。
「因みにルールを破る者には変態マスターからのお仕置きが待ってますので、頭空っぽの人は気を付けてくださいね! ではまず魔石争奪戦から行きましょう! 参加する人は前に出て下さい! ではポンコツさん、精々当たって砕けて来て下さいね!」
「ふ、まあ見てなさい。 砕けるのは向こうだから」
ルール説明が終わり、アルテナを残して私達は端による。
そして、アルテナの宣言が始まった。
「あたしから魔石を奪おうとする愚か者共! あたしのお題は単純明快! あたしを倒したやつに魔石をくれてやるわ! さあ、何処からでもかかって来なさい!」
アルテナの出したお題に、冒険者達が困惑する。
「え、それだけ?」「おいおい、楽勝じゃねぇか」などの声が聞こえる中、一人の冒険者が飛び出した。
「へ、早い者勝ちだぜ! 俺が相手だ!」
大柄で、でかい斧を軽々振り回す冒険者がアルテナの前に飛び出した。
「しまった!?」「ずりぃぞあいつ!」と言う言葉が飛び交うがもう遅い。
「最初の相手はあんたね、安心しなさい。死なない程度にボコしてあげるから」
「へ、ガキが! 調子に乗るなよ!」
そして、戦闘が始まろうとする時、隣にいるマルタから声が掛けられる。
「エレンさん、ポンコツさん本当に大丈夫なんですか? 正直トラップ部屋での活躍も、ゴブリンキング討伐も信じられないんですけど。それに、あれに勝ってもまだまだ後ろに多くの冒険者がいるんですよ? 数の暴力でわからせられるオチしか見えないんですけど?」
流石のマルタも心配し始めたらしい。
実際戦う姿を見てないから当たり前だろう。
「大丈夫よ、まあ見てなさい」
「ギャァァァ!!」
どうやらマルタと話しているうちに、早速一人目がやられたらしい。
倒れた冒険者と、双剣を掲げたアルテナの姿が見える。
「ほら、次は誰!?」
「「「「「俺だぁぁぁ!!」」」」」
早い者勝ちと言わんばかりに五人の冒険者が一気に襲いかかって来る。
「ちょ、複数人とか卑怯じゃない!! ……とでも言うと思った!?」
剣や槍を持った冒険者達の間を、目にも止まらぬ速さで斬り裂きながら通り抜けるアルテナ。
その直後、「ぐわぁぁ!?」と言う悲鳴と共に血飛沫が飛び、五人全員が倒れる。
「「「「「は……?」」」」」
見た目からは信じられないアルテナの強さを目の当たりにし、硬直する冒険者達。
さっきまでの早い者勝ちといった空気が一気に無くなり、誰もアルテナに向かおうとしなくなる。
「おい、あいつ本当に新人か!?」
「おい、お前先に行けよ?」
「いや、お前が先行けって!?」
冒険者達に動揺が広がるのを見て、アルテナが調子に乗り始め、いやらしい笑みを浮かべながら冒険者達を挑発する。
「ふ、何? こんな雑魚しかいないわけ? もう面倒くさいから全員纏めてかかって来たら? ま、どんなに頑張ってもあたしに指一本触れられないでしょうけどね」
「「「「「てめぇぇぇぇ!!!」」」
アルテナの安っぽい挑発に乗せられ、一斉に数十人の冒険者が襲いかかる。
それを見たアルテナは、自分も相手に向かって走り出し、跳躍。
前にいた冒険者の頭を踏み台にし、更に高く跳ぶ。
「何処に行ったあいつは!?」
「後ろか!?」
「いや見ろ! 上だ!!」
気づけばアルテナは、上空で魔法を詠唱し始めていた。
「魂の深淵より、我が漆黒の力を解き放て!『暗黒の波動!!』」
アルテナの手のひらから漆黒のビームが冒険者達に向かって放たれる
ドォォォォン!!!
着弾と同時に爆発が起き、冒険者達は全員悲鳴を上げる暇もなく吹っ飛ばされる。
人がゴミのようだと言いたくなる光景が、そこにはあった。
「これで決着かしらね?」
「ちょっと!? アレなんですか!? ポンコツさん本当に強すぎじゃないですか!? ていうかエレンさんは何でそんな人事みたいに冷静なんですか!? 信じてたとかそういう気持ち悪い感情ですか!?」
「まあ、負けても良かったからね」
「え?」
表向き今回の目的は、魔石を餌に私達を襲って来そうな冒険者を集めて一掃する事だったのだが、私はそもそも大金も魔石も要らないので、実は負けて奪われても問題はない。
その場合、アルテナが納得する形で魔石を手放せるのだから。
つまり、どっちに転んでも私には得しかないのである。
「ほう、アルテナ君の強さは聞いていたが……まさかあれ程とはね。私も手合わせしたくなって来たよはっはっは」
ドン・ガイさんはアルテナの強さにご満悦なようだ。
しかしアルテナの強さを前に全く引かないとは、ドン・ガイさんも相当な実力を持っていそうである。
「さて! 参加者全員脱落したわけだが、他に挑戦する者はいないかい!?」
「「「「「…………」」」」」」
模擬戦場が静寂に包まれる。
どうやら本当に決着がついたようだ。
「ではこの魔石争奪戦の勝者はアルテナ君という事で! よく頑張ったねはっはっは!」
「ふはははは!! あたしに勝てる奴なんて存在しないのよ!」
勝負に勝って余計に調子に乗るアルテナ。
少し注意するべきだろうかと思っていると……。
「ふむ、でも勝者であるアルテナ君に何の得もないのは不公平だね。そうだ、私からのハグをプレゼントしよう!」
「へ?」
ドン・ガイさんがアルテナを正面から思いっきり抱きしめる。
「よく頑張ったね! はっはっは!」
「ギャァァァ!? へ、変なものが当たって!? 止めなさーい!?」
「そうだ、私からのキッスもプレゼントしよう!」
「は……? ちょっまちなさ…………」
ブチュッッ!!
抵抗も虚しく、唇を奪われたアルテナはそのまま気絶した。
その光景を見てマルタは爆笑し、私は人生最大の戦慄を覚える。
「……ね……ねぇ? ドン・ガイさんって……いつもあんな事やってるの?」
「あははは!! あの人嬉しいとアレやっちゃうんですよね! 本当よく牢獄入りになってないですよね! あははははは!!!」
こうして無双したアルテナは、ドン・ガイさんにとんでも無いものを盗まれ、その生涯を閉じた(死んで無いけど)。
さて、次は私の番なのだが……。
どうしよう、行きたくなくなってきた。




