62話 エレンとアルテナ、ギルドマスターに会う
翌日の朝、私とアルテナはギルドへ向かおうとしていた。
昨日ダンジョンで得られた素材や、巨大魔石の査定を聞くためである。
カルロさんの店の前で大きく体を伸ばしながら、私はアルテナと今日の予定を話す。
「アルテナ、今日はギルドで査定の結果を聞いて、その後攻略の為準備を整える。それだけだからね? 余計な事はしないからね? 分かったわね?」
アルテナに顔を近づけ、圧をかけながら言う。
「わ、分かってるわよ……!!」
昨日勢いでダンジョンへ突撃した手前、強く出れないアルテナ。
そんなやり取りをしていると、店の中からアーシャさんが出てくる。
「よぉ、朝から元気そうだなお前ら。ギルドへ行くのか?」
「ええ、アーシャさんは?」
「もう少ししたら、町の自警団の仕事へ出かけるな」
そう言えばアーシャさんは自警団だった。
アーシャさんの服装はいつも一般人が着る平服であり、戦いに向いた服を着てる所をまだ見ていない。
やはり仕事をする時は着替えるのだろうか?
「ふ、今日こそあのクソウサギを平伏させてやるんだから!」
「一体何でマウント取るつもりなの?」
「きっとあの魔石がとんでもない価値になって、自然と頭を下げたくなるはずよ!」
「価値がどうであれ、思ったとおりにはならないと思うけどね」
「ほぉ?」
私達の会話で何かが気になったのか、アーシャさんが話に入ってくる。
「でけぇとは昨日聞いたが実際どれくらいの大きさなんだその魔石?」
「ふ、両手で抱えないといけないくらいデカくて重かったわよ」
「マジか、そりゃスゲェな。大体は指でつまめるサイズか、大きくて片手で掴めるサイズだからな」
アーシャさんはそう言うと、考え込むような仕草をする。
「アーシャさん、どうしたの?」
「……いや、何でもねぇ。じゃあアタシは仕事があるからまたな」
そう言って、アーシャさんは店の中に戻って行った。
その様子が少し気になりながらも、私達も冒険者ギルドへ歩き出した。
……その数十分後、ギルドへ辿り着いた私たちは、マルタがいる誰も並んでいない受付へ向かう。
その時、私は妙な視線を感じた。
「「「「「…………」」」」」」
その視線は至る所から向けらている。
どうやら昨日の事でかなりの注目を浴びてるようだ。
昨日は開き直ったが、二日続けては流石に辛い。
元々こういうのは苦手なのだ。
「〜〜♪」
だが、アルテナは寧ろこの状況を楽しんでいるようだ。
呑気というか目立ちたがりというか、今はその性格が羨ましい。
そう思っているうちに、私達はマルタの所へ辿り着いた。
「マルタ! 今日こそあんたに一泡吹かせてやるわよ!!」
「おやおやポンコツさん、おはようございます。しっかり挨拶しましょうねー? もしかして挨拶の仕方も分かんないんですか? そこら辺の子供から習ってきたらどうです? と言うか何で毎回私のところ来るんですか? 実は私のこと好きだったりします? すいませんが同性とか以前にポンコツさんは私の好みでは無いのでごめんなさいね! ぷっぷっぷ!」
「何ですってーーー!?」
アルテナを楽しそうに煽るマルタ。
うん、とっとと本題に入ろう。
「マルタ、昨日ギルドに預けた素材や魔石についてだけど」
「あ、はいその事なんですが、昨日ご一緒だったお二人から話は聞いてますよ! ダンジョンで得た物を全部あなた達に譲るとか言われましたね! 何があったんですか?」
「実は……」
マルタにパーティを解散したことを話す。
「ふむふむ、まあギルドにパーティ登録してたわけじゃ無いですし問題はないですね!」
「パーティ登録?」
「はい! 三人以上で正式にパーティを組む時はギルドにパーティ名を書いて申請していただく必要があります! 覚えといて下さいね! まあそちらのポンコツさんと組みたい人なんて……あ、もう組んでる人がいましたね、すいませんぷっぷっぷ!」
「はいはい」
適当にマルタの毒舌を流す。
こう言うのは相手したら負けである。
「で、クソウサギ! 査定は終わったんでしょうね?」
「はい、それについてなんですが! ちょっとここで話す訳にはいかないんですよね! なのでついてきてもらえませんか? ギルドマスターも会いたいそうなので!」
「ギルドマスターが?」
マルタにそう言われ、「こっちですー!」と案内されながら、私達はギルドマスターの私室がある最上階まで行く事になった。
「ところでクソウサギ、ここのギルドマスターってどんなやつなの?」
案内の途中でアルテナが質問する。
「元熟練の冒険者で、その腕を買われギルドマスターに推薦されたお人ですね! かなり立派な人ですよ! 何せ200歳を超えるエルフの男性ですから!」
「エルフですって!?」
アルテナの目が輝き始める。
私も今回ばかりは少しドキドキしてきた。
エルフ、ファンタジー物でよく登場する弓と魔法に長けた、知的で美しい長命種族だ。
その分数が少なく、ほとんどが森の中でひっそり暮らしているイメージだが、普通に人間と共に暮らしている者もいるらしい。
そうこうしているうちに、私達は部屋の前まで到着した。
「ギルドマスター! 昨日話したやらかしコンビを呼んできましたよー!」
「変な言い方するんじゃないわよ!」
マルタがノックしながら呼ぶと、中から若い男の声が聞こえてくる。
「わかった、入ってくれ」
「はい! じゃあポンコツさんからどうぞ!」
「?」
入室の許可が降りたのはいいが、妙な違和感を感じる。
何故マルタは自分から入らないのだろうか?
そう考えてるうちに、アルテナが部屋に入る。
次の瞬間。
「ギヤァァァァァ!!!!!!!!」
「え?」
悲鳴が聞こえ、慌ててドアを開けると、そこには泡を吹いて倒れているアルテナがいた。
一体何が……と思いながら視線を上に向けると、そこには……。
「おやおや、少女には刺激が強すぎたかな? はっはっは」
爽やかな笑顔をしながら海パン一丁で、筋肉ムキムキの体でポーズをとる謎の変態がいた。
瞬時に魔導銃を構えるが、よく見ると、エルフ特有の長く尖った耳をしている。
「……マルタ、もしかしてこの変態って……」
「はい、この筋肉ムキムキ変態エルフが冒険者ギルドのマスター、その名も『ドン・ガイ』さんです!」
「……はぁ」
エルフのイメージを完全にぶち壊すその姿に、私は上を見ながら頭を抱えた。
また濃いキャラが現れてしまった……。




