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59話 やっと帰還

 広間に二発の銃声が鳴り響く。

 その直後、壁の向こうから何かが開く音と、聞こえていた戦闘音が無くなり、広間は静寂に包まれた。

 うん、どうやら上手くいったようだ。

 私は指をパチンと鳴らし『岩の壁(ストーンウォール)』を解除すると、背後から外で戦っていたアルテナが駆け寄って来た。


「ちょっとエレン、銃声が聞こえたんだけど、あんた何したのよ?」

「アルテナ、私達は騙されていたのよ」

「え?」

「この……”ダンジョン“にね」


 視線の先では、驚きの表情で立ち尽くしているアルフさんとケイトさん。

 そして、二つの穴が空いた“宝箱”が存在した。


「これが罠だったのよ」

「……え? でもそれってわかってたことじゃ……あーーー!!」


 アルテナも気付いたらしい。

 そう、宝箱は罠を起動する物ではなく罠その物だったのだ。

 

「全く性格が悪いわ……。実はこのダンジョン、管理者がいるとか言うオチじゃないでしょうね?」

「ぐぬぬ……なんで気付かなかったの!?」


 アルテナが悔しそうに歯を強く噛みしめる。

 それはそうだろう、自分のすぐ近く……更に言えば、自分が触っていた物だったのだから。

 だが、これはアルテナの頭がポンコツとかいう問題じゃない。

 閉じ込められた上に、魔物の大群が出現すれば意識はそちらに向かざるを得ない。

 更に厄介なのが、罠が宝箱の形をしていたと言う事。

 まだ開けて中身も確認していない宝箱は無意識に守る対象になるだろう。

 だから宝箱を壊そうだなんて発想は自然と浮かびにくい。

 実際はそれさえ壊せば全て解決してたというのに。


「こ、この宝箱を壊すだけで良かっただって……?」

「完全に騙されたわ……」


 アルフさんとケイトさんもまさかの事実に呆然としている。

 だが、いつまでもこんなところにいるわけにはいかない。

 入り口も開いた以上ここからさっさと出るべきだと思ったその時、撃ち抜かれた宝箱が急に光出した。


「おいおい、今度はなんだ!? 急に光出したぞ!?」

「アルフ、宝箱だけじゃ無いわ、魔物達も光出してる……!」


 役目を終えたとばかりに、宝箱と倒された魔物達はマナの粒子となって消えていく。


「ちょっと!? これじゃあ魔石や素材が取れないじゃ無いの!? 倒し損ってわけ!?」

「待って、おかしいわ。マナが1ヶ所に集まってる……」


 集まったマナは、やがて一つの形を成していく。

 そして、光り輝く結晶となって宙に浮きながら実体化した。

 

「これは……魔石?」

「ただの魔石じゃ無いぞ……こんだけ大きくて輝いてる魔石なんて見た事ない……!」


 確かにゴブリンやスケルトンの魔石は指で掴める程度のサイズ。

 オークもそれを一回り大きくしたくらいだ。

 それに比べて、この魔石は両手で抱えないといけないほどの大きさであり、輝きもまるで違う。

 探知魔法でも強力な魔力を感じる。

 これは間違いない、正真正銘のお宝だ。


「ケイトさん、一応聞くけどこれから危険は感じられる?」

「いえ、無いわ」

「そう……」


 私は吸い寄せられるように近づき、その魔石を抱きしめるように持つ。

 すると、魔石の浮遊が無くなって一気に重みが増し、危うく落としそうになった。


「お、重い……!?」

「ちょっと、剣も持てないあんたが持ってどうすんのよ、あたしが持つわ」


 私は素直にアルテナが持つアイテム袋に入れる。

 しかし、倒した魔物達のマナが集まってできたということは、もしかしたらここはただのトラップじゃなく、ボーナスステージみたいな物だったのかもしれない。

 とりあえず、もうここに用はないだろう。


「さて、脱出を……」

「エレン、待ちなさいよ。アレ忘れてるでしょ」

「あれ?」


 まだ何かあるのかと思ったら、そこには最初に倒したレッドオークの死体が残っていた。

 罠と関係無かったため、そのまま残っていたようである。


「アルフさん、レッドオークって売れるの?」

「ああ、何せオークの希少種だからな。硬い皮から上等な防具を作れるし、肉も通常オークよりずっと美味いと聞くぞ」

「じゃあしょうがないわね……解体して魔石と素材を少し持っていきましょうか」


 解体用ナイフを取り出しながらレッドオークを解体しようとするが、背後からアルテナに肩を掴まれる。


「何、アルテナ?」

「待ちなさいよ、貴重なんでしょ? 少しじゃなくて全部持って帰るべきよ」

「はぁ?」


 なんかまた変なことを言い出した。

 この巨体をどうやって持って帰れと……いや、荷車とゴーレムを作ればなんとか行けるかもしれない。

 どうせこのまま置いておけばスライムに吸収されてしまうのだ。

 やってみる価値はあるだろう。

 

「その代わり、ちゃんと守りなさいよ」

「ふ、任せなさい」


 ナイフをしまい、魔導銃を構える。


「ねぇ、話が見えないんだけど何をする気?」

「ちゃんと説明してくれよ」

「まあ見てて」


 百聞は一見にしかず。

 先ずは荷車を作るため、レッドオークの下に銃弾を放つ。

 すると、レッドオークが収まった状態で、荷車が製造される。


「「へ?」」


 アルフさんとケイトさんがついて行けて無いようだがしょうがない。

 次に、いつものアルテナゴーレムを六体ほど製造。

 三体ずつ荷車の前と後ろに配置、これで準備完了。


「よし、これでいいわね。じゃあ脱出を……」

「エレン、ついでにこれも持っていくわよ」


 そう言ってアルテナが持って来たのはレッドオークの剣と盾。

 もうツッコむ気も失せた。

 ついでにそれも荷車に乗せ、今度こそ出発だ。


「アルフさん、ケイトさんは後ろを守ってくれる?」

「あ、ああいいぞ」

「え、ええ任せて」


 二人は特に何も聞かず、私の指示通り動く。

 まあ無理もない。

 説明はダンジョンを出た後でいいだろう。


「よし、凱旋よ!」

「何事も無く出られるといいけど」


 紆余曲折あり、やっと出発できた私達はゴーレムを守りながらダンジョンを再び進む。

 途中魔物に襲われたり、他の冒険者に出会い驚かれたりしたものの、なんとか無事に転移陣がある部屋まで戻って来ることができたのであった。


「はぁ……まさかここに戻るまでこんなに苦労するなんて……」

「ふ、なかなか楽しめたわ」

「そりゃ良かったわね、早く帰るわよ」


 荷車も合わせ全員で転移陣に入り、私達はギルドへワープする。

 早くカルロさんの家に帰って休みたい。

 その事で頭が一杯で、私は失念していた。

 これからギルド起きるであろう出来事に……。

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