58話 無双と推理
部屋と書いていましたが広間に修正しました
あたしは今過去一番に燃えている。
眼前に広がるのは視界を埋め尽くす程の魔物達。
そして、後ろには守るべき従者と仲間がいる。
「クックックック……」
まるでアニメの主人公になったようなシュチュエーションに、笑みをこぼしながらデスサイズを構え、ゆっくり魔物の方に歩く。
その時、背後で大きな音がし、振り返ると大きな岩の壁ができていた。
どうやらエレンが作ったみたいね。
あいつは従者のくせにあたしを敬わないし、変な事ばかりするけどちゃんと力になってくれる。
今もこの部屋から脱出する方法を考えているんでしょう。
その方法が何かはわからないけど、今あたしがやる事は一つ。
「あんたらを徹底的に殲滅する事よ! まずはこれでも喰らいなさい! 炎よ、我が眼前の敵に降り注げ!『炎の雨』!」
頭上に大きな炎を出現させ、それを炸裂。
無数の火炎球を生み出し敵に降り注がせる。
ドォン! ドォン! ドォン!
『ギャァァァ!!??』
ゴブリン達前衛を中心に多くの敵が吹き飛んだ。
けれど大物はそうもいかない。
レッドオークが三体、あたしの魔法を受けながらも止まらず襲いかかってくる。
でもそんなの想定内、寧ろこれでやられたら拍子抜けね。
「来なさい豚共!」
並走しながらこっちに走ってくる奴らを見て、あたしもデスサイズを構え、レッドオーク達に向かって直進する。
自分達に向かってくるあたしを見て、レッドオーク達も剣を振り下ろしてくるけど遅い。
あたしは更に加速して奴等が剣を振り下ろす前に中央のレッドオークの股の下を潜りながらデスサイズでレッドオークの両足を刈り取る。
「グォォォォォ!?」
「ふ、まず足を奪ったわ」
次に右のレッドオークに狙いを定めたあたしは反転し、レッドオークに向かって跳躍する。
向こうもこっちに気づいて横薙ぎに剣を振ってくるけど、あたしは空中で体勢を変え、剣をギリギリで避けながらレッドオークの首を刈り取る。
「次は……げっ!」
けれどそこを狙っていたかのように、後衛にいたスケルトンマジシャン達があたしに向かって魔法による攻撃を一斉に放つ。
けど甘い、空中で身動きが取れない今なら当たると思ったの?
「所詮ガイコツね、『爆裂跳躍』!」
両足に火炎玉を出現させ、炸裂させる事であたしは魔法を避け、同時に残った無傷のレッドオークに向かって吹き飛ぶ。
相手も高速で突っ込んでくるあたしに気がついて盾を構えるけど、防御無視のデスサイズの前には意味は無い。
盾ごとオークを斜め一閃に切り裂き、着地。
そして足を失ったレッドオークの首に向かってデスサイズを回転させながら放ち、首を吹っ飛ばす。
これで大きいやつは処理完了。
「残るはあんた達だけね骨共!」
双剣を抜き、スケルトンマジシャン達に高速で斬りかかる。
相手も当然魔法で応戦して来たけどあたしのスピードに追いつけるはずもない。
魔法を掻い潜りスケルトンマジシャン共を斬り刻んでいく。
そして、最後の一体も倒し、広間にいた敵は全滅した。
「さて、これで終わりかしら……ん?」
殲滅が終わったと思った直後、再び広間に多くの魔法陣が展開。
再び多くの魔物が召喚された。
流石のあたしもこれにはうんざりする。
「まさか無限湧きってわけ? ふんっ!」
あたしは放ったデスサイズを手元に出現させ、閉じた入り口に向かって再び放つ。
もしかしたら斬れるかもと思ったけど、ガキンッと言う音と共にデスサイズは弾かれた。
「やっぱまともな脱出方法は無いってわけね……上等だわ! 幾らでも相手してあげようじゃない!」
あたしは再び魔物達に立ち向かう。
このままだと死ぬまで戦い続ける事になるけど、きっとそうはならない。
だって生きる事に必死なあいつが、このまま何もしない訳ないじゃない。
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sideエレン
「さて、どうしようかしらね……」
アルテナがこちらを気にしないで戦えるようにしたが、いくら魔物を殲滅しても出られない可能性がある以上このままではジリ貧だ。
なんとか脱出する方法を考えないといけない。
「エレン、本当にアルテナは大丈夫なの?」
「心配ないわ。それよりこの部屋から出る方法を考えましょう」
私は本当に心配していない。
アルテナのデスサイズは相手の体力、魔力を吸い取る効果がある。
なので、寧ろこの状況で一番長く生きられそうなのはアルテナなんじゃないかとも思う程だ。
だから焦る必要はないだろう。
冷静に現状を打破する方法を考えなければ。
「まずは……やっぱコレよね」
私は探知魔法を起動。
おかしなところがないか部屋全体を調べるが、魔力的におかしなところは何もない。
この方法ではダメなようだ。
「くそ……俺達にダンジョンは早かったって言うのか……!?」
「……強さの問題じゃないわ。ダンジョンの壁が壊せない以上、閉じ込められた時点で終わりだったのよ……」
「……?」
今のアルフさんとケイトさんの言葉を聞いて私は何かが引っ掛かった。
ダンジョンの壁を壊せない以上、閉じ込められた時点で終わりとするならば……。
「……何故魔物を召喚する必要があるの?」
そうでなくてももう詰みの状況だ。
わざわざ魔物を召喚して倒させる必要なんてないだろう。
手っ取り早く済ませたい?
ダンジョンにそんな思考があるだろうか?
……いや、よくよく考えたらおかしな部分はもっとある。
根拠はマルタが書いたマニュアルだ。
書かれてあるダンジョンのルールに則って気になる部分を上げていく。
先に進むほど危険な罠がある。
罠は対処は回避するか壊す事。
魔物やトラップ、宝箱は人のいない場所で再出現する。(罠で魔物が召喚される場合はある)
ダンジョンの床、壁は壊せない
次はこの四つについて考えよう。
まず①だが、ここは最初の階層であり、今は大した罠はない筈だ。実際トラバサミや矢で済んでいたし、いきなりこんな危険な罠があるのはおかしい。
②、これを信じるなら、既に罠にかかってしまってるため壊す、もしくは解除と言っていいかもしれないが、その方法しかない。
③、人のいる場所で罠や魔物が再出現しないなら、今の状況はすでに仕掛けられた罠が作動して魔物を召喚しているという事。
④、これは無理やり脱出する方法は除外していいという事。
「つまり……この状況を打破するには、作動している大した事ない罠を壊せばいいって事?」
自分でも言ってる意味が分からないが、まとめるとそういう事になる。
だが閉じ込められた上、大量に魔物が出現している現状は大した事ないどころか非常に危険だ。
……だがもし戦う必要がなかったら?
もし壊すべき罠がすぐ近くにあったら……?
気づけばただのドッキリで済むような罠だったら……?
「はぁ……なるほど……そういう事ね」
私は後ろにいた二人の方を向き、魔導銃を構える。
「おい、どうしたエレン!?」
「なんで魔導銃をこっちに……!?」
「今日は厄日ね……こんな性格の悪い奴ばかりに会うなんて!」
そして、私は二発の弾丸を放った。
その直後、入り口が開き、出現した魔物は消え去った。




