57話 私がやるべき事
ちょっと真面目な話が続きます。
大広間でレッドオークが守っていた宝箱。
それに触れた瞬間罠が作動し、入り口が塞がれ、大勢の魔物が召喚された。
「ケイトさん、何故もっと早く罠だと気づかなかったの?」
ケイトさんのスキル『危機察知』なら宝箱の罠にもっと早く気づけたはずだ。
それなのに、ケイトさんはアルテナが触れる直前まで気づかなかった。
その疑問に対し、ケイトさんは申し訳なさそうな顔で言う。
「……ごめんなさい。レッドオークを倒した事で油断してたの……」
「……そう」
ケイトさんを責めることはできなかった。
むしろ私の方が戦犯だ、気付いた上で言わなかったのだから……。
だが反省は後でいいだろう。
今はまずこの状況を突破しないと。
不幸中の幸いかパーティが分断されることはなかったし、集まっていた場所は宝箱が設置された広間の一番奥だったおかげで全方位を魔物に囲まれると言う事態にはならなかった。
後はどうにかして魔物達を倒すしかない。
「くそ……魔物共!こっちを見……」
「アルフ、止めなさい! スキルを使ったら全ての魔物があなたに群がるわ!」
スキルを使おうとしたアルフさんをケイトさんが止める。
確かに魔物の数は何十体もいる。
いくらアルフさんでも一斉に群がられたら終わりだ。
「じゃあどうしたら……!?」
「決まってんでしょそんなの! やられる前にやってやるのよ!」
アルテナがデスサイズを片手で持ち魔物達に襲い掛かる。
「喰らいなさい!」
そのまま回転しながらデスサイズを横に一閃。
一気に目の前の魔物を斬り伏せた。
「アルフさん、アルテナの言う通り全て倒す以外無いわ。ここは二手に分かれましょう。右側を私とアルテナが担当するから左側をお願い」
「あ、ああ。わかった! ケイト行くぞ!」
「ええ、こんな所で死ぬわけにはいかないもの!」
二手に分かれた私達はそれぞれ魔物に対処し始めた。
アルテナはデスサイズを振り回しながらも、ゴブリンやスケルトンの攻撃を舞うように避け、確実に数を減らしていく。
私はアルテナが取りこぼした相手や、こっちに向かってくる相手を1匹ずつ丁寧に撃ち抜いていく。
当然マジックシールドも用意していたが、アルテナの殲滅力と遠距離武器を持っている敵がいない関係で、追い詰められるような事はなく、このまま行けるかもしれないと思った時だった。
「キャッ!?」
「ケイト!?」
左の方から悲鳴が聞こえ、反射的にそちらを見るとケイトさんがスケルトンに斬られ、腕から血を流していた。
ケイトさんは弓での殲滅が間に合わず、短剣で戦ったが数の多さに対応出来なかったようだ。
直ぐにヒールを撃とうとしたが、アルフさんはケイトさんが傷を受け焦ったのかスキルを使ってしまう。
「魔物共! 俺を狙いやがれ!」
アルフさんのスキルが発動し、ケイトさんを狙っていた魔物どころか、私とアルテナが受け持っていた敵も一斉にアルフさんに群がっていく。
「アルフ!」
「アルフさん!」
私とケイトさんの叫びも虚しく、数十体の魔物がアルフさんに襲いかかる。
アルフさんの死が頭によぎったその時……。
「世話が焼けるわね!!」
その声と同時にアルフさんの体が飛び上がる。
そして、アルフさんが元いた場所には私の近くにいたはずのアルテナの姿があった。
まさか一瞬でアルフさんの元に辿り着いて、上へ投げた……?
今まで見た事がないアルテナのスピードに驚く暇もなく、更にアルテナは魔物達に攻撃を仕掛ける。
「まとめて吹き飛びなさい!『炎の台風!」
アルテナは炎を纏わせたデスサイズを頭上で回転させると、巨大な炎の竜巻が出現。
周囲にいた敵を焼き尽くし、さらに熱風で広い範囲の敵を吹き飛ばした。
「うっ!?」
「キャァ!」
アルテナの攻撃の余波は凄まじく、ケイトさんも吹き飛ばされ、私は身を屈めなんとか熱風を凌ぐ。
再び目を開けると、そこには上に飛び上がったアルフさんを両手で受け止めたアルテナの姿があった。
どうやら、竜巻の中心にいたお陰でアルフさんは大丈夫だったようだ。
「ほら、立てる?」
「あ、ああ……」
何が起きたかわからないのだろう。
自分の足で立った後もポカーンとしている。
「そ、そうだケイトは!?」
我に返ったアルフさんはケイトさんを探す。
ケイトさんはアルテナの攻撃で吹き飛ばされながらもなんとか生きていた。
私は素早くヒールでケイトさんの傷を治す。
「ケイト! 大丈夫か!?」
「え、ええ……。エレン、治してくれてありがとう」
「どういたしまして」
二人が無事なことに一安心する。
「ちょっと、あたしにもお礼言いなさいよ」
「あなたはもうちょっと加減しなさい。魔物だけじゃなくケイトさんまで殺す気?」
「咄嗟の行動だったしそこまで考えてる暇無かったのよ、それに、多少巻き込まれてもあんたなら治せるでしょ?」
「……まあ確かにそうだけど」
結果的に誰も死なずに済んだ。
そう言う意味ではアルテナのファインプレーだったことには変わりない。
「アルテナ、お前のおかげで助かったぜ。にしてもさっきの魔法は一体……」
「ふ、言ったでしょ? あたしのスキルは三つあるってね。デスサイズだけじゃないのよあたしは」
「自慢は後にしなさい、残った敵を片付けないと」
奇しくもアルフさんが全ての魔物を引き付け、それをアルテナの魔法で一掃したため大半の敵が倒されていた。
後は残りを処理するだけ……と思ったその時だった。
「っ! みんな気をつけて! 何か来るわ!」
ケイトさんが叫んだ直後、地面に多くの魔法陣が現れ、再び魔物が召喚された。
「う、嘘だろ……また魔物が召喚されやがった!?」
「それだけじゃないわ……見て!」
ケイトさんが指した方向を見るとレッドオーク、剣を持ったゴブリンソルジャー、杖を持ったスケルトンマジシャンなど、この階層にいる魔物の希少種、上位種まで出現していた。
「な、何だよこれ……」
「もう……ダメだわ」
「……はぁ、やれやれね」
正直最悪な状況だ。
既にアルフさんとケイトさんは絶望に染まり、その場に突っ伏している。
もう二人は戦力にならないだろう。
こうなってしまったら、私のやるべき事は一つしかない。
「……アルテナ、行ける?」
「ふ、安心しなさい、あたしが負けるわけないんだから」
そう言ってアルテナはデスサイズを構え魔物に向かって歩き、私は後ろに向かって歩く。
「アルフさん、ケイトさん。こっちへ」
私は二人を連れ、宝箱がある広間の奥まで移動。
そして魔導銃を構える。
「エレン、どうする気?」
「こうするのよ、『岩の壁』」
自分たちの周囲に岩の壁を生み出す魔法を撃ち、私達3人とアルテナを分断する。
「これで魔物は入って来れないわね」
「お、おい! アルテナはどうするんだ!?」
「アルテナなら大丈夫よ、寧ろ私たちがいたら邪魔になるわ」
私のやるべき事、それはいつもと変わらない。
アルテナをサポートする事だ。
だから、まず暴れるのに邪魔な私達を排除した。
これで存分に戦えるだろう。
「さて、このトラップ部屋、攻略開始するとしましょうか」
そう言って、私は次に取るべき行動に思考を巡らせた。




