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56話 一瞬の迷い

 四人で和気あいあいとしたやりとりをした後、私たちは再びダンジョンを歩いていた。

 途中魔物が出てもアルフさん、ケイトさんが危なげなく倒していたのだが、手持ち無沙汰で暇なのかアルテナがウズウズし始めていた。


「エレン、次はあたしたちも戦いましょうよ」

「そうは言ってもアルフさん、ケイトさんの二人で十分なのに、私達も戦う必要あるの?」

「じゃあ交代よ交代。見ているだけなんてつまんないわ」

「そんな事言ってないで、せめて後ろの警戒をしなさいよ」

「どうせあんたがやってんでしょ? 二人で同じことやっても意味無くない?」


 珍しくまともなことを言う。

 アルテナの言う通り、私は探知魔法で常に後ろどころか全方向を警戒しながら歩いている。

 ケイトさんを疑っているわけではないが、私はただの女子高生。

 万が一不意を突かれたらゴブリンにだって確実に負ける。

 私に気を抜く余裕はなかった。


「安心しなさいよ、あたしがいるんだから」

「むしろ不安要素しか無いわね」

「言ってなさい。いずれ従者らしくあたしを敬いたくなるんだから」

「やれるもんならやってみなさい」


 そう言いながら互いに相手を睨みつける。

 そんなギスギスした空気を感じたのかアルフさんが近づいてきた。


「おいおい、何変な空気になってるんだよ。 何かあったのか?」

「いえ、大丈夫よ」

「それより次はあたし達に戦わせなさいよ。あんたらの実力はわかったから、次はこっちが見せる番よ!」

「はは、確かにそうだな。よしケイト、次は二人に戦ってもらおうぜ」

「そうね、互いの実力を把握しておきたいし……。もしピンチになったら助けに入るから安心して頂戴」

「ありがとうケイトさん」


 アルテナの提案で、隊列を交換する私達。

 二人の時と違い、後ろでいつでもカバーに入ってくれる仲間がいるという事実で安心感が違う。

 パーティを組んで本当に良かったと思いながらダンジョンの通路を進んでいくと、私達は大きな広間に辿り着いた。


「グォォォォォォォォォ!!」 

「「「「!!」」」」


 すごい威圧を感じ、私とアルテナだけでなくアルフさんとケイトさんも即戦闘体制を取る。

 広間の奥、そこには剣と盾を持った通常よりも一回り大きい赤いオークが仁王立ちしてこちらを睨みつけていた。


「おいおい、嘘だろ!? あれはオークの希少種レッドオークだ!!

「アルフさん、希少種って?」

「稀に出現するレアな個体だな、ダンジョンでもかなり低確率で出るとは聞いていたが……」

「へぇ、面白いじゃない! 早速戦いを挑ませて……」


 デスサイズを持ち戦いを挑もうとするアルテナ。

 しかし、ケイトさんがアルテナの肩を掴み止める。


「止めた方がいいわ。通常のオークと違ってあいつは戦いを好むの。その強さはオークの比じゃないわ。幸いにもこちらから近づかなければあいつは襲ってこないみたい」

「ケイトさん、それはあれが原因かしら?」


 レッドオークの後ろには豪華な金の宝箱がある。

 恐らくそれを守っているのだろう。

 その証拠に向こうはこちらを視認しているがその場から動こうとしない。


「そうね、今の私たちはダンジョンを出ることが目的だし、宝があるとはいえ無用なリスクは避けるべきだわ。ここは引き返しましょう。」


 私はケイトさんの提案に頷く。

 そもそもこの広間は行き止まりで先へ続く道もない。

 引き返し別の道を行くべきだ。

 しかし、それに反対する人物が一人いた。


「あんた達、何言ってんの!? お宝が目の前にあんのよ! 諦めるなんて無いじゃないの!」

「確かにそうだが……俺とケイトじゃ多分攻めきれないぞ」

「ふん、何のためにあたし達を仲間にしたわけ? 攻撃ならあたしの得意分野よ。あんたらがやらなくてもあたしとエレンだけでも戦うわ」


 しれっと私を入れるのは止めてほしい。

 だがアルテナのやる気スイッチが入った以上止めることは出来ない。

 だったら私のやるべき行動は一つ。


「絶対にヘマしないでよね?」

「アンタこそビビって外すんじゃないわよ」


 そう、アルテナのサポートをする。

 ただそれだけだ。

 

「……はー、しょうがねぇな」

そう言いながらアルフさんが私達の前に立つ。


「アルフ、あなたまで……」

「ケイト、オレ達はここに腕試しに来たんだぜ? それに、仲間が戦おうとしてるってのに傍観するわけにはいかないだろう?」

「ふう、しょうがないわね」


 ケイトさんも後ろで弓を構えた。


「アルフさん、ケイトさん、ありがとう」

「足引っ張んじゃないわよ」

「それはこっちのセリフだ」

「無理だけはしないようにね」


 こちらの戦う意志を感じたのかレッドオークも動き出す。

 そして、戦いが始まった。


『グオォォォォォォォ!!」

「来い豚野郎!」


 レッドオークは横薙ぎに剣を振ってきた所をアルフさんが盾で受け止める。


「ぐっ!?」


 オークより素早く力強い一撃に、吹き飛ばされそうになるが、アルフさんは何とかそれを防ぎ切った。

 その隙にケイトさんの矢がレッドオークの目に向けて放たれるが、盾により防がれる。


「やっぱりそう上手くは行かないわね」

「ここは任せて」


 レッドオークが剣を防いだアルフさんを蹴り飛ばそうとした所を見計らって、私は軸足になってるもう片方の足を狙って魔導銃を撃つ。


「グォォォォォ!?」


 頭を守っていたせいで足への攻撃は防ぐことができず、銃弾はレッドオークを貫通した。

 このまま倒れてくれるのが理想だが、レッドオークは痛みに耐え、そのまま足を振り抜く。


「ちっ!」


 アルフさんは盾を捨て、後ろへ跳躍する。

 ギリギリ足の攻撃を避け、さらに足に剣を突き刺した。


「グォォォォォ!?」

 両足に怪我を負い、さらに無理にアルフさんを蹴り上げようとしたためバランスを崩し、レッドオークは仰向けに倒れる。

 そして、その隙を逃さずアルテナが高速で近づき、一気に首元まで辿り着く。


「グォォォォォ!?」


 そして、空中でデスサイズを大きく振りかぶり……。


「派手に逝け!『死の回転(デス・ローター)』!」


 アルテナはそのままデスサイズと共に回転し、レッドオークの首を刎ね飛ばす。

 飛ばされた首は大きく空中を舞いながら落ち、

 レッドオークは絶命した。


「ふ、案外弱かったわね」


 アルテナが余裕ぶりながら戻ってくる。


「いや、私達で隙を作ったからでしょう? なんであなたが一人で倒した感じになってるのよ」

「まあ役に立った事は認めるわ。ていうかアルフ、あんたレッドオークの攻撃受け止めてたけど大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。しかし、こっちが隙を作ったとはいえ、レッドオークを一撃とはな……。皮膚もオーガ程じゃないがかなり硬かったはずだが……」


 咄嗟とはいえアルフさんが刺した剣は表面にしか刺さっておらず、それがレッドオークの硬さを表していた。


「それならエレンの魔導銃も凄かったわ。足を貫通するほどの威力だなんて。

「ええ、ありがとう」

「おいおい、ここまで強いとは思わなかったぜ。こりゃいつまでも先輩面出来な……いつっ!」


 アルフさんが急に腕を押さえて痛み出す。

 ケイトさんが慌てて駆け寄り、袖を捲るとレッドオークの攻撃を防いだ腕は大きく腫れていた。

「アルフ……」

「ちょっと、何処が大丈夫よ? 痩せ我慢してんじゃないわよ」

「っち、ちょっとカッコつけたかったんだがな。ケイト、ポーションを……」

「その必要はないわ。『ヒール』」


 魔導銃にヒールの魔法を込めアルフさんの腕を撃つ。

 アルフさんの怪我はあっさりと完治し、それを見た二人は驚愕の表情を浮かべた。


「まさか、回復魔法まで使えたのか!?」

「エレン、本当にその魔道具は一体……」

「えっと……」

「ちょっと、そんなことよりお宝よお宝!」


 返答に困った所にアルテナが助け船を出して(意図してなかっただろうが)くれる。

 そうだ、レッドオークが守っていた宝箱を忘れていた。


「おう、そうだったな! 早く開けてみようぜ!」


 アルテナとアルフさんが宝箱に向け走っていく。

 さっきまで怪我してたのに元気だな……と思った瞬間、私は気づいた。

 レッドオークが守っていた宝箱、それに魔力がかかっていることに。

 私は直ぐに止めようとしたが、あれが罠ならケイトさんが気づいているはず。

 何も言わないと言うことは、あれは危険なものじゃ無いのでは……。

 その一瞬の迷いが命取りとなった。

 次の瞬間。


「……! アルフ! アルテナ! 罠よ! その宝箱に触れちゃダメ!」

「「え?」」

 

 ケイトさんが必死に止めるが一歩遅かった。

 アルテナの手がすでに宝箱に触れていたのだ。

 その宝箱は一瞬光ったと思うと、入り口の壁が閉ざされる。

 私とケイトさんは急いで二人の所へ辿り着くと、さらに部屋に異変が起きる。


「おいおい、冗談だろう……!?」


 宝箱を背にした私達の周りには、広間を埋め尽くすゴブリン、スケルトン、オークの軍勢が出現していた。

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