55話 仲間と一緒にダンジョン探索
ダンジョンで出会った先輩冒険者アルフさん、ケイトさんとパーティを組むことになった私とアルテナ。
二人は今回の探索で五層の転移陣まで行くつもりだったらしいが、私達の用意ができてないため、今回は最初の転移陣に戻り、ダンジョンから脱出する事になった。
……因みにリーダー争いは一旦保留となった。
「ごめんなさい、私達のせいで戻る事になってしまって」
「気にしないでいいのよエレン。準備不足のまま先に進む訳にはいかないもの」
「仲間が増えたし、俺は五層くらいなら行けると思うんだがな」
「あたしもそう思うわ。よし、今からでもそっちの路線に変更を……」
「「するわけ無いでしょう」」
やっぱりアルフさんはアルテナと似た思考をしているようだ。
ケイトさんの苦労が目に浮かぶ。
「そもそも今日は情報収集と下見の予定だった筈なのに……」
「ふ、甘いわね。予定通りなんてそう上手く行かないもの……いだっ!?」
「予定をぶち壊したあなたが言うな」
アルテナのスネを蹴りながらツッコミを入れる。
「そう言えばアルフさんとケイトさんは冒険者になってどれくらいなの?」
「そうだな……十二の時一緒に冒険者になったから、もう七年になるな」
十二歳という事は小学生の頃から冒険者として働いていたと言う事。
日本では信じられないが、異世界ではこれが普通なのだろう。
まだまだこの世界について知らない事は多いみたいだ。
「そうね、だから経験者として色々アドバイスは出来るわ。何か疑問があったら遠慮なく聞いて頂戴ね」
「ええ、ありがとう」
「あ、じゃあ一つ聞きたい事があるわ。あんたらってこのダンジョンいつから潜ってんの?」
「いや、何でアドバイスと関係ない事聞いてるのよ」
「構わないわ。実はまだ一週間くらいなの」
苦笑しながらケイトさんが答えてくれたが、それを聞いたアルテナは腑に落ちない顔をする。
「いや、一週間かけて何でまだ最初の階層にいるのよ?」
「そうだよな、俺も早く先進もうぜって言ってたんだが、ケイトがダンジョンに慣れてから先に進むべきだとか言ってな」
「ふん、臆病ねぇ」
「だよなぁ」
「「はぁ?」」
私とケイトさんは漫画ならゴゴゴという効果音がなっていそうな迫力を出し、二人を睨みつける。
「「ごめんなさい」」
そして速攻謝る二人であった。
……そんなやり取りをしてから数分後、冒険者の先輩として手本を見せてくれると言って、ケイトさんとアルフさんを先頭に、転移陣に向けて進んでいた。
「みんな止まって」
そう言って皆を止めると、ケイトさんは身を屈め、手で何かを探る様に進んでいく。
そして、ある地点でケイトさんの動きは止まった。
「みんな気をつけて、ここに罠があるわ」
探知魔法で見ると、確かにそこには罠があった。
ケイトさんが指した場所を避け私達は罠を避けることに成功する。
「ケイトさんは罠の場所が分かるの?」
「ええ、私のスキルは『危機察知』と言ってね、罠に限らず危険な物が近づくと感覚でわかるの」
なるほど、だから危険な罠に反応できたわけだ。
便利なスキルだ、もし私が使えれば冒険者狩りの罠に掛かることもなかっただろう。
「だから危険が迫ればすぐに教えられるわ。私がいれば不意を突かれたりしないから安心して頂戴」
「それ本当? ここってダンジョンなんでしょ? 敵がいきなり出現したら防げないんじゃない?」
「大丈夫よ、ダンジョンのモンスターは人の近くで出現なんてしないから」
「え、そうなの?」
ケイトさんの言葉を確かめるためマニュアルを開くと、確かにそういう記述が書かれているページを見つけた。
「『ダンジョンの罠、魔物、宝箱などは時間が経てば再出現しますけどその場所は毎回ランダムかつ誰もいない場所に限定されます! なのでその場にとどまって再出現を待つなんて事出来ませんよ! 例外として罠の効果で魔物が召喚される場合はありますけどね! 近くで行きなり魔物が現れないかといらない心配しているポンコツさん! 将来はハゲ確定ですね! おめでとう!』って書かれてるわ」
「ハゲないわよ! っていうか毎回内容音読しなくていいから! 要点だけ伝えなさい!」
その通りなのだが、毎回アルテナを的確にディスっている内容なのでつい音読したくなってしまう。
マニュアルを通してこっちを見ているんじゃないかと思うレベルである。
「おい、お喋りはそこまでだ、何か来るぞ」
アルフさんの言葉を聞き、私達は即戦闘体制に移る。
すると、棍棒を持ったゴブリン三体が出現した。
「ここは俺たちに任せろ。ケイト、行くぞ!」
「ええ、任せて」
アルフさんは剣と大盾、ケイトさんはショートボウを持ちゴブリンを迎え撃つ。
「ゴブリン共! こっちに来やがれ!」
アルフさんの体が一瞬淡く光ったと思うと、ゴブリンが一斉にアルフさんに向かう。
ゴブリンの攻撃を大盾で防ぎながら、アルフさんは剣でゴブリンを突き刺し、同時にケイトさんがショートボウで別のゴブリンの頭を射抜く。
残ったゴブリンは逃げようとするが、すかさずケイトさんは二発目の矢でゴブリンの足を射抜き、動けなくなったところをアルフさんが剣で斬り伏せ、戦闘は終了した。
「ま、余裕だな。どうだった、俺たちの実力は?」
「ふ、ゴブリン程度倒していい気になってるようじゃまだまだね」
「あなた、昔スライム倒していい気になってなかった?」
「そ、そんな事あったかしらねぇ?」
はぐらかそうとしているアルテナ。
まあそんな事はいい、私も答えなければ。
「私は連携がかなり自然で、とてもバランスが取れてると思ったわ。けれど一つ聞いていい? 最初アルフさんの体が光ったのは何故?」
「ああ、それは俺のスキルだな。敵の攻撃を自分に引き付けられるんだ。どうだ、凄いだろう?」
「本当? それは素晴らしいスキルね」
ヘイトを管理できるタンク役がいればパーティの安定さが増し、後衛である私が安心して攻撃やサポートを行える。
私は内心ガッツポーズをしながら喜びに震えた。
「へぇー因みになんて名前のスキルなの?」
「……まあ名前なんてどうでもいいじゃないか」
「何でよ? 気になるじゃない」
何故かアルテナの問いをはぐらかすアルフさん。
疑問に思っていると、ケイトさんが苦笑しながら口を開く。
「アルフのスキル名はね、『肉の壁』って言うのよ」
「え……」
「プッ! あははは何その変な名前!?」
あんまりなスキル名に唖然とする私と爆笑するアルテナ。
「ぐ……ケイト、何で言うんだよ!」
「言わなくてもいずれ分かる事じゃない」
どうやら本人も相当気にしているようだ。
うん、ここは私も言うしかない。
「アルフさん、ケイトさん。私のスキルまだ言ってなかったけど……『器用貧乏・改』って言う名前なの」
「「え?」」
一瞬ポカーンとする二人。
その後、二人は私の肩に手を乗せ……。
「お前も苦労してたんだな……」
「安心して、笑ったりしないわ」
そう言って同情してくれた。
いや、そう言ってくれるのは嬉しいけど、なんか複雑な気持ちになる。
やっぱりどうにかしてあの上級変態女神を殴る方法はないだろうか?
「ちょっと『器用貧乏・改』ってかっこいいじゃない。少なくとも『肉の壁』よりはずっといいわ」
「何でそうなるんだ!? どっちも同じくらいふざけた名前じゃないか!」
「ふざけた名前……」
「ちょっとアルフ! エレンがダメージ受けてるじゃないの!」
「あ、いやそんなつもりじゃ!?」
「ふ、仲間をディスるなんて最低ね」
「アルテナ! お前だって俺の事笑ってただろうが!?」
「あんたは男なんだから、細かいこと気にしてんじゃないわよ」
「男差別するな!」
「ああもう良い加減にしなさい!」
「……ふふっ」
みんなのやりとりを見て自然と微笑んでしまう。
最初は不安だったけどこの四人なら楽しくやっていけるかもしれない。
少なくとも、この時の私はそう思っていた……。




