54話 パーティ結成
同じ冒険者であるアルフさんからパーティに勧誘された私とアルテナ。
しかし、その事に驚いたのは私達だけでは無かった。
「アルフ、いきなり何を言うのよ!? 会ったばかりの子達をパーティに誘うなんて!?」
「おいおい落ち着けって。別に考え無しで誘ったわけじゃ無いぜ」
「アルフさん、理由を教えてくれる?」
コホンッと咳払いして、アルフさんは理由を語り始める。
「一つ目単純にはお前達の腕を買っての事だな。エレン、お前はその魔導銃ってやつで魔力切れを起こさず色んな魔法を扱えるんだろう? 自覚が無いようだがそれはとんでも無い事だぞ? 火や水の心配をしなくて済むだけでも十分すぎる。 因みに戦闘はこなせるのか?」
「そうね、遠距離なら多少は」
「戦力にもなるなら尚更問題無いな」
アルフさんの評価がとんでもない事になっている。
と言うかこれが常識だったら私には大きな価値があるという事になる……。
うん、本当に魔導銃のおかげと言うことにして良かった。
「ちょっと、あたしには何もないわけ!?」
「勿論あるぞ。アルテナ、さっきお前の攻撃を見たが相当強いだろ? その腕を買ってのことだな。
「ふ、確かにあたしに勝てるやつはいないわ! ……ってそれだけ? エレンの時と違って短くない?」
「いや、それしか分からなかったからな。もしかして他にも何か出来るのか?」
「ええ、耳をかっぽじってよく聞きなさい!」
アルテナが自信満々に自分のスキルを説明していく。
アルテナの場合別に隠す必要もないのだが(自分が目立たなくて済むから)普通に信じてもらえるかが微妙だ。
実際二人はポカーンとしている。
「驚いたな……本当かそれ?」
「ええ、ちょっと実践してあげるわ」
どうやら調子に乗り始めたらしい。
アルテナがデスサイズを出し壁の前に立つ。
「見なさいこれがデスサイズの威力よ!」
アルテナが壁に向かってデスサイズを振りかぶる。
防御無視と言うチート性能を壁を斬ることで証明しようとしてるらしい。
ガキンッ!
「え?」
デスサイズが壁に弾かれアルテナは予想外のことに尻餅をつく。
この結果は私も驚いた。
もしかしてと思い私はまたマニュアルを開く。
「ちょっと、何で斬れないのよ!?」
「アルテナ、どうやらダンジョンの壁や地面は斬れないみたいよ」
「え?」
「マニュアルに『詳細は不明ですがダンジョンの壁や地面は絶対壊れないように出来ています! だから壁を壊したり地面を突き破ってショートカットなんて真似は出来ませんよ! まあそもそも壁を壊そうとするような頭空っぽの人はいないと思いますけどね!!』って書いてあるわ」
「誰の頭が空っぽよ!!」
アルテナの頭が空っぽかは置いといて、この世界のダンジョンは良くあるパワーで解決する類の方法は使えないようだ。
上手く出来ているものである。
「エレン、それもしかしてあのウサギのマニュアルか?」
「ええ、そうだけど?」
「よく受け取る気になったわね」
どうやら二人もマニュアルの事を知っているようだ。
詳しく聞くと初めてヴェインのギルドに来た時、私達と同じくマルタに弄られマニュアルを渡されそうになったらしい。
本当に誰にでもやっているようだ。
「いやーあの時はムカついたぜ。うっかり手が出そうになっちまったからな」
「二人はマニュアルは受け取らなかったの?」
「そんな怪しい本に頼ろうとは思わなかったわね。ダンジョンの情報ならギルドの閲覧用書籍に載ってるしね」
「そうだったの。私も調べる時間さえあったらそうしてたのに……ねぇ、アルテナ?」
私は顔を逸らすアルテナをジト目で睨む。
「そ、そう言えばあんた達と組んであたし達になんかメリットあるわけ?」
あ、話題を逸らした。
まあ過ぎた事をあれこれ言ってもしょうがないからいいか。
「ああ、お前達を見ててまだ冒険者としての知識や経験が足りてないって思うんだよな。だから先輩冒険者である俺たちが色々教えてやれることがあると思うんだよ。ケイトはどう思う?」
「確かにそうね……あなた達冒険者になったのはいつから?」
「大体一ヶ月前ね」
「おいおい、本当になったばかりじゃないか。だったらお前達にもメリットはあると思うんだが……どうだ? もちろん無理にとは言わない」
「……そうね、ちょっと話し合う時間をくれないかしら」
私はそう言って、アルテナと共に二人でその場を離れ、二人で話し合う。
「アルフさんの誘い、アルテナはどう思う?」
「あたしは賛成よ。それに、仲間が増えるって冒険の醍醐味の一つじゃない!」
「うん、あなたならそう言うと思ったわ」
「逆にあんたは乗り気じゃないの?」
「……正直アルフさんの言う通り私たちには知識も経験も足りてないわ。二人から学べる事は多くあると思うし、四人パーティーになれば戦闘も楽になるからいい事しか無いわね。でも二つ問題があるわ」
「何よ、その問題って?」
「一つは信用出来るかってことよ。いきなりパーティーに誘ってくるなんて不自然じゃない」
ただ、この疑問はアルフさんがアルテナと同じタイプで深く考えてないってだけな気もする。
今頃その事でケイトさんに叱られている気もするし。
「二つ目は……いや、これは言わないでおくわ」
「え、なんでよ?」
「杞憂かもしれないからね。信用出来るかは一緒に行動してから決めてもいいし……そうね、私も賛成でいいわ」
「決まりね、じゃあ戻るわよ!」
話し合いが済み、アルフさん達のところに戻ると、何故かアルフさんが正座させられていた。
「えっと、どうしたの?」
「出会ったばかりの子をパーティーに誘うなんて怪しい真似したやつを説教してたのよ」
「す、すまん……」
どうやら想像通りケイトさんに叱られていたようだ。
まあ、私も同じ立場ならしてただろうし特に驚きはしない。
「そんなことより、エレンと話し合ってあんた達をあたしのパーティに加える事にしたわ」
「お、本当か!? って何でそっちが上なんだよ? リーダーは俺だからな!」
「何で入れて下さいって言った方をリーダーにしなきゃならないのよ?」
「そんな事言ってないぞ! とにかくリーダーは俺だ!」
「あたしよ!」
「俺だ!」
「「……はぁ」」
ケイトさんと一緒にため息をつく。
何と言うかお互い相棒に苦労させられてるようだ。
「えっと……それじゃあこれからよろしくねエレン」
「ええ、よろしく」
私とケイトさんは言い争いをしている二人を放って互いに握手を交わした。
こうして、私たちに初めて仲間ができたのだった。




