47 元気なギルド嬢マルタ
ヴェインに着いた翌日、カルロさんとアーシャさんに見送られ、私とアルテナは冒険者ギルドへ向かっていた。
「エレン、ダンジョンの入り口は何処にあるの?」
「前も言ったけどヴェインの中央ね。冒険者ギルドの中にあるみたいよ」
「え? ギルドの中にあるの?」
「ええ、カルロさんに聞いたんだけど、ダンジョンに入るにはギルドの許可証がいるみたいね。危険な場所だから入り口を厳重に管理してるみたい」
「へぇー。」
そんな会話をしながら歩いていると、ギルドの建物に到着する。
ギルドは中央広場の、本来噴水でもありそうな場所にドカンと建っていた。
町の規模としては、ヴェインよりルベライトの方が大きいのだが、ギルドは逆にヴェインの方がはるかに大きかった。
「まるで公民館みたいね」
「よし、じゃあ行くわよエレン!」
アルテナが目をキラキラさせながら正門へ向かう。
「間違ってもルベライトの時みたいな恥ずかしいマネしないでよ?」
まるで子供のような姿に若干呆れながら、私はアルテナの後を追い、共にギルドの門をくぐる。
中は朝という時間帯もあるだろうが、多くの冒険者で溢れかえっていた。
そして、奥には頑丈で大きな扉が見える。
恐らくあそこがダンジョンの入り口なのだろう。
冒険者の多くが扉の前に並んでいる。
逆に受付の方は人が少ないようだ、依頼が貼ってある依頼ボードも同様で、ダンジョンがどれだけ人気かがよくわかる。
「ねえエレン、あっち見なさいよ!」
「何かあったの?」
アルテナが指す方向を見ると、冒険者が声掛けをしていた。
「俺は『戦士』だ! 俺をパーティに入れたいやつはいないか!?」
「私『水魔法使い』です、どなたかパーティー組みませんかー?」
「僕は『力持ち』です。ポーターとして雇いませんか?」
どうやらパーティメンバーの募集のようだ。
最初に言ってるのは恐らくスキルだろう。
ポーターというのはあまり聞かないが運搬業の意味だったはず。
だとすると荷物持ちという事だろう。
ダンジョンでは必要になるのかもしれない。
「で、どうしたのアルテナ? 何か気になる事があった?」
「ほら、あそこよあそこ」
何だろうと思いながら見ると、何やら揉めてるパーティがいるようだ。
「ハリー、お前をパーティから追放する」
「そ、そんな、俺は精一杯頑張ってるじゃないか!?」
「あんた動きが遅いのよ、お陰でいつもイライラするし魔物から逃げる時いつも苦労するじゃない」
「そ、それは俺の荷物が多いからで……」
「ポーターが荷物の多さでへばってどうする! とにかく俺たちは新しいポーターを雇う、じゃあな」
パーティメンバーはそう言って彼を置いて行き、残された彼はトボトボとギルドの端に行ってしまった。
「パーティの追放ね……アルテナ、まさかよくある追放ジャンルの様に、あの人実は優秀だって言いたいの?」
「それもあるけどほら、名前がハリーで役割がポーターって……あいつがこれで魔法使いだったら完璧だったの……」
「超どうでもいいわ!」
「イダッ!?」
アルテナを魔導銃の持ち手部分でブン殴る。
「くだらない事言ってないで受付行くわよ。まあ私はダンジョンじゃなくて依頼の方がいいけど」
「あんた、何言ってんのよ? ここまで来たらダンジョン以外行く理由がないでしょ」
「まあそうよね。どっちにしろ金欠だから頑張ってお金を稼がないといけないんだけど」
私達は受付に誰も並んでない場所を見つけ歩き出す。
途中、なぜか私たちを見てクスッっと笑う人がいたけれど……やはり場違いなのだろうか?
そんな事を疑問に思いながらも私達は受付に着いた。
「あんた、用があるんだけど」
受付にいるギルド嬢にアルテナが話しかける。
彼女は緑色の制服と帽子を身につけ、ピンク色の髪をしていたが、何より目に入ったのは頭から生えてる白く大きな耳。
どうやら彼女はウサギの獣人みたいだ。
「はーい! ギルド嬢マルタが受付いたします! どんなご依頼ですか? でもここの冒険者達はみんなダンジョンに夢中ですからすぐに受けてくれる冒険者は出ないかもしれないですけど、首を長くしてお待ちくださいね!」
「え、ええ……」
いきなり高いテンションで私は少し気圧される。
どうやらかなり元気な人のようだ。
「依頼じゃないわ、あたし達ダンジョンに入りたいの、だから許可証って奴頂戴」
「はい?」
アルテナの言葉にキョトンとするマルタさん。
そして……。
「ぷ、あははははは!!!!」
「「え?」」
受付の机を叩きながら急に大笑いし始めた。
いや、一体何事?
「ちょっとあんた! 何いきなり笑い出してるのよ!?」
「いや、笑うしかないですよ! あなた達みたいな子供がダンジョンに入るとか!! たとえ冒険者だったとしてもまずは簡単な依頼からこなしましょうね。 良ければ案内しましょうか?」
「はぁ……」
受付でつまづくのはこれで二回目、おまけに16歳なのに子供扱いされ、さらにバカにされる始末。
思わずため息をついてしまうが、多分今回は大丈夫なはず。
「余計なお世話よ! ギルドカードあるんだから許可出しなさい!」
アルテナが怒りながらギルドカードを出す。
私も出そうとした所……。
「あ……」
「どうしたのエレン?」
「ごめん、ちょっと待って」
「あー……」
今回は事前に手に取っておこうと思ってたのに忘れてしまった。
昨日と同じく1分程かけてようやく私のギルドカードに文字が浮かび上がる。
「ぶっ! あははははは!! 何ですかカードに情報出すために一分掛かるって!? 初めて見ましたよ! 魔力無さすぎです! 本当に人間ですかあなた!? あ、当然悪い意味で言ってますよ!」
「分かってるわよ!」
私の魔力の無さに再び大笑いし出すマルタさ……いや、もうマルタでいいか。
というかいい加減このネタで何か言われるのは勘弁して欲しい。
「それはいいから、許可証って言うのは貰えるの?」
「あ、はいちょっと待って下さいね」
マルタは横にある機械のようなものにギルドカードを通し情報を確認していく。
すると、こっちを疑うような目で見て来る。
「どうかしたの?」
「どうもこうもないですよ、登録が約一ヶ月前って本当に初心者じゃないですか! おまけにスキルも意味不明です! 私はギルド職員としてスキルの勉強だってちゃんとしてるんですよ? なのにあなた達のスキルは見たことも聞いた事もありません! おまけに一人はトリプルスキル持ちでもう一人は名前がダサいです! わかりました、スキル詐称して登録しましたねあなた達!」
「「その下りはもうやったわ!!」」
思わずハモってしまう私とアルテナ。
どうやらこの元気なギルド嬢マルタを突破しない限りダンジョンに入ることはできないようだ。
……帰りたい。




