46 カルロ夫妻
アーシャさんのジャンピング土下座が炸裂した後、私達はカルロさんの店、一階奥のリビングに集まっていた。
「いやーマジで申し訳なかったな、変な誤解しちまって」
皆でテーブルを囲んで座った後、アーシャさんがさっきの事を謝ってくる。
「ま、怪我もしなかったし問題ないわ。ね、エレン?」
「うーん……まあそうね、さっきのことは水に流すわ」
もしあの場にアルテナがいなかったらと思うとゾッとする。
下手をすれば死んでたかもしれない。
そう思うと水に流したくはないがまあ良いだろう。
流石にそこまでやるつもりはなかったに違いない。
「サンキューな。いやーアルテナ、お前が強くて助かったぜ。旦那の命の恩人を殴り殺しちまったら後悔してもしきれねぇからな」
「…………」
うん、やっぱり水に流すべきでは無かったかもしれない。
「アーシャ、本当に反省してくれよ……。小屋で爆発音が聞こえた時は本当に肝が冷えたんだからな」
「いや、オマエもだからな? 護衛なしで外を歩きやがって。 アタシもやらかしてなきゃ今頃殴ってたぞ」
「す、すまん……」
乱暴な言いようだがアーシャさんなりに心配したのだろう。
夫婦仲はなかなか良いようである。
「改めて私も自己紹介しますね。カルロと言います。『カルロ雑貨店』の店長をやっています」
「店の名前、そのまま過ぎない?」
「はは……良い名前が思いつかなかったので……」
「次はアタシだな。アーシャだ、カルロの夫で自警団のリーダーをやっている。周りからは『鬼神のアーシャ』と呼ばれてるぜ」
「何とも物騒な二つ名ね?」
「オーガを素手でぶっ殺してからそう呼ばれるようになっちまった」
「オーガを?」
以前魔物図鑑で見た事がある。
オーガは身長三メートルはある、大岩を持ち上げる怪力と鋼のような硬さの体を持つ、強力な赤い鬼の魔物だ。
それを素手で倒すなんて信じられない。
「アーシャさんは格闘系のスキルを持ってるの? さっきの戦いを見たところ、光属性魔法も使っていたように見えたのだけど?」
「ああ、アタシは光属性の格闘技を使える『聖闘士』っていうスキルを持ってるぜ。そのおかげか自分の傷を治す事もできるんだよな」
「なるほど……」
「なんか教会とかお堅い連中が持ってそうなスキルだよな? なんで神様はガサツなアタシにそんなスキル与えたんかな?」
私はチラッとアルテナを見るが「いや、あたしじゃないから」という目でこっちを見る。
「じゃあ次はオマエたちのことを教えてくれよ」
アーシャさんが訊くと、アルテナが立ち上がり変なポーズを取りながら答える。
「クックック、我はアルテナ、ヴェインのダンジョンを攻略し、いずれ冒険者のトップとなる者よ!」
久々の厨二自己紹介である。
それを聞いた二人は少しポカンとした後、アーシャさんが急に笑い出す。
「あはははは!! アルテナ、オマエ面白いな! いや、確かにオマエならダンジョン攻略しちまうかもな、何せアタイに勝ったやつだからな!」
「え、アルテナさん! アーシャに勝ったんですか!?」
カルロさんが信じられないという顔をする。
「いや、まだ勝負の途中だったでしょ? ま、あのまま続けても余裕で勝ってたと思うけど」
「言ってくれるな、今度は狭い小屋じゃなくて、開けた場所で存分に戦おうぜ」
「そうね、ダンジョン攻略が終わったら考えてやってもいいわ」
「おう、約束だぞ?」
何というか、アーシャさんはアルテナの事をかなり気に入ったらしい。
戦い好きらしいし強い者が好きなのだろう。
アルテナの自己紹介が終わり、次は私の番になる。
「私はエレン、アルテナに付き合わされて冒険者をやってるわ」
「ちょっと、あたしの従者っていう重要なところが抜けてるわよ」
「はいはい、従者って事にされて付き合わされてるわ」
「んー? よく分からんが従者って事は、アルテナはどっかのお偉いさんなのか?」
「まあそんなところよ、詮索はしないでもらえると助かるわ」
訳アリっぽい空気を出して適当にはぐらかす。
そもそも本当のことを言っても頭がおかしい人としか思われないので、これがベストである。
自己紹介を終えたところで、私は気になってた事をアーシャさんに聞いてみる。
「ところでアーシャさん、さっきの事だけど……どうしていきなり襲いかかって来たの? 冒険者って部分に反応してたように見えたけど……」
私が聞くと、アーシャさんとカルロさんの顔が曇る。
何か変な事を聞いただろうか? そう思っていると……。
グ〜〜
何とも気の抜ける音が自分のお腹から響く。
そう言えば山賊の件があってまともなお昼を食べていなかった。
そうでなくてももう夜だ、充分お腹が空く頃合いである。
「ご、ごめんなさい……」
「……まあそんな時間だからな、今メシ作ってくるから待っててくれ」
「それなら私も手伝うわ」
「おいおい、客に作らせるわけにはいかないだろう? オマエらはそこで座って待ってな」
そう言ってアーシャさんは立ち上がり、台所へ向かう。
正直二人の様子が気になったが、あまり言いたくない事なのだろう。
私は追及しない事にし、アーシャさんが料理をしている間、私達はカルロさんと道中で倒した魔物の素材を買い取ってもらえないか? ダンジョンで役に立つ物があったら売ってくれないかなどの話をした。
アーシャさんが夕飯を用意してくれた後、明日からの宿について良い所がないか話してると、アーシャさんが「そんならウチに泊まってけ!」と言ってきた。
アルテナの双剣や旅の準備で、懐に余裕がなかったのでありがたい。
私達はせっかくの申し出に甘えることにして、ヴェインにいる間お世話になることにした。
……その夜、二人部屋に案内してもらった私とアルテナは、ベットに座って明日について話し始める。
「エレン、明日は早速ダンジョンに行くわよ!」
「もう行くの? 旅で疲れたし、明日はヴェインの町を見て回るのもいいと思うけど」
「目の前にダンジョンがあるのに我慢できるわけないじゃないの」
「はぁ……分かったわ。だけど、明日は下見にしましょう」
「下見?」
「まだ私達、ダンジョンについて詳しく知らないでしょう? しっかり情報を集めて準備してから本格的な攻略に乗り出すべきよ」
「確かにそうね、じゃあ明日は下見って事で」
「決まりね。なんかすごく眠くなって来たわ……私はもう寝るわね」
「あたしも今日は寝るわ」
明日の事を話し終えると、旅の疲れが出たのかすぐ眠気が襲い、私とアルテナは明かりを暗くし、ベットに横になった。
「……そういえばアルテナ」
「なに?」
「今日、山賊に馬鹿にされた時……怒ってくれてありがとう」
「え?」
アルテナがキョトンとする。
私が感謝したのを驚いているのだろう。
実際私が異世界冒険する羽目になった元凶はアルテナだ。
私を守るのは当然と思っている。
……ただ、感謝する所はするべきだと思っただけである。
「……二度は言わないわよ」
「……ま、まあ主人として従者をバカにされて黙ってるわけにはいかないしね。ふ、少しはあたしを敬う気になったかしら?」
「無理」
「ちょっと!? 流れ的に最低でも『考えとくわ』くらい言いなさいよ!」
「だったら頭ポンコツな所をどうにかしなさい」
「誰の頭がポンコツよ!?」
アルテナがぎゃーぎゃーうるさいが、言うべきことは言ったので、私は無視して目を瞑る。
明日はいよいよ、初のダンジョン挑戦である。




