44 ヴェインに到着
途中山賊を退治するという出来事があって遅れたが、私達は無事ヴェインが見えるところまで来ていた。
予定では昼頃到着だったのだが、荷馬車を牽引してる事もあって、すっかり日が暮れそうな時間になってしまった。
え、山賊? 休み無しで今も元気に走ってるわよ。
「良かった、夢じゃないんですね……エレンさん、アルテナさん、本当にありがとうございます……」
カルロさんは嬉しさのあまり泣いていた。
山賊に殺されそうになったのだから無理もないだろう。
「商人のおっさん、泣くんじゃないわよ。水でも飲んで落ち着きなさい。というわけでエレン、水頂戴、水」
「はいはい」
アルテナが差し出して来たコップに魔導銃を使って水を注ぐ。
「ねぇ、魔導銃をそうやって使うの止めてくれない? ドリンクサーバーじゃないんだから」
「仕方ないでしょう?」
魔導銃で魔法を使っているという設定の為、人前ではこうせざるを得ないのである。
「にしても立派な防壁ね」
ルベライトは大きな街だった為、周りを立派な防壁で囲まれていたのだが、ヴェインもそれに負けないほどの立派な防壁で囲まれていた。
「七年前までは静かな田舎町だったのですけどね。ダンジョンが出来てから、それを中心に町が大きく発展して、あんな大きな壁まで作られてしまいました」
「カルロさん、それってダンジョンの資源を求めて商人や冒険者が集まったから?」
「はい。後、国から援助が出たのも大きかったですね」
「援助?」
「はい。冒険者を町が受け入れられるための準備、そして堅牢な壁を作る為、国から金や人員が派遣されたんです」
「どうして国が? そういうのはこの土地を治めている領主とかがやるものじゃないの?」
「ダンジョンでは『魔物の暴走』が稀に起きますからね……その対策です」
「『魔物の暴走』?」
何かが原因で多くの動物が一斉に暴走する現象だったはず。
異世界なら動物じゃなく魔物になるだろうが。
「おっさん、それってダンジョンの中から魔物がうじゃうじゃ湧いてくるってこと?」
「そうですね、下手をすれば大きな被害が出ますので義務付けられてるんです」
「へぇ〜でも太っ腹じゃないの。国が金を出してくれるなんて」
「はい、でもダンジョンの資源で元は十分取れるそうですよ」
「へ〜」
なるほど、援助というよりは投資といった方が近いかもしれない。
そのまま車を走らせると、私達はヴェインの入り口まで到着した。
「おい、そこの怪しい連中止まれ!」
門番らしき人達が止まるよう指示を出したので、私は門の前で車と山賊達を止める
「ちょっと、怪しいって何なのよ?」
「いや、怪しいだろう!? ひとまず何だ? その乗り物とその……石像達は?」
うん、気持ちはわかる。
私達は車を降りて事情を説明した。
「ふむ、何となく事情はわかった。では身分証を提示してくれ」
この世界では街に入る時、基本身分証が必要だ。
カルロさんは身分証を提示する。
ギルドカードが身分証の代わりになるため、私とアルテナはカードを取り出す。
「これでよろしいですか?」
「ほら、これで良いでしょ?」
「ああ、問題な……おい、何でお前のカードは何も書かれてないんだ?」
門番は私の方を見て言う。
まあそうなるだろう、私のギルドカードは空白のままだ。
これにはちょっとした事情がある。
「ごめんなさい、ちょっと待ってくれないかしら?」
「は?」
ギルドカードは本人の魔力に反応して文字が浮かび上がる仕組みである。
だが、私の場合魔力が極端にないため、浮かび上がるまで時間がかかるのだ。
提示し始めてから一分後、ようやくカードに文字が浮かび上がってくる。
「……魔法が使えないやつでもすぐ文字が浮かぶはずだが……」
「エレンさん、魔力がないとは聞いてましたがまさかここまで……」
「相変わらず貧弱ねぇ」
「…………」
三人の目が可哀想なものを見る目になっている。
いたたまれないから止めて欲しい。
とりあえず町に入る許可は降りたのでよし。
「二人とも、車は町に入ると目立つからここで消すわね」
「分かりました、そうなると代わりに引く物が必要ですね」
「あたしが引く以外の方法にしなさいよ」
「はいはい」
アルテナがいつもの選択を潰してくる。
私は魔導銃にゴーレムの魔法を込め地面に二発撃った。
そうすると、アルテナと瓜二つのアルテナゴーレムが出現する。
「これで良いわよね?」
「良いわけあるかぁ! あたしを作るなって何回言ったらわかるのよ!?」
「一番頼もしいのを作ろうと思ったらついね」
「え、頼もしい……? そう言うことならしょうがないわね。ふ、頼もしすぎるのも罪だわ」
相変わらずちょろい。
本当はイメージしやすいのと、アルテナが労働してるのを見るとスカッとするからなのだが。
「あとは山賊の引き渡しね」
「その石像に入ってるんだっけか? とりあえず魔法を解除してくれないか?」
「分かったわ、解除」
この時、万が一山賊がすぐ襲いかかってきても対応できるよう準備はしていた。
だが、そんな私に別の脅威が襲いかかる。
ガラガラッ
ベチャッ
石が崩れ、出てきた山賊達は全員倒れた。
何故か山賊達はずぶ濡れで……って
「「「「ぎゃぁぁぁ!!」」」」
とんでもない異臭が私たちを襲った。
山賊達はタオルを余裕で絞れるほどの汗で濡れており、さらに色のついた謎の液体も混じっている。
「……じゃあ門番さん、あとは頼むわね」
「おう任せとけ……ってなるわけないだろうが!? どうにかしろ!!」
仕方ない、私はすぐに水魔法で汗や謎の液体を洗い流し、次に山賊達が死にかけていたのでヒールをかけ、最後に熱風で服を乾かした。
「全く、最後まで迷惑がかかる奴らね」
「いや、これはあんたのせいでしょ」
「当然の報いよ。じゃあ門番さん、引き取ってくれる?」
「いや、正直引き取りたくないんだが……まあしょうがないか。こいつらにはアジトの場所や、他に仲間がいないか尋問しなきゃ行けないからな」
私は尋問が上手くいかなかったら、私の名を出して良いと言って、門を通過する。
金については、後でギルドに振り込んでおくとのことだ。
ヴェインに入ると、本当に昔田舎だったのかと思うほど発展している町並みが広がっていた。
私達はこれからの事を話し合う。
「まず荷馬車を運ぶ必要があるから、カルロさんの店に行きましょう」
「分かったわ。おっさん、あんたの店何処にあるの?」
「ヴェインの西側にあります。此処からだと少し時間がかかりますね」
「それより問題は宿ね。もう日が暮れるし早く見つけておかないと……」
「あ、それなら私の家に来ませんか? 何もお礼が出来ていませんし」
「そう? じゃあお言葉に甘えようかしら」
こうしてカルロさんの家に泊まる事になり、私達はヴェインの町を歩いて行った。




