43 敵と〇〇〇〇には容赦しない
私は何を勘違いしてたんだろう。
お腹を蹴られて痛みに苦しんだ時、頭によぎったのがそれだった。
魔導銃を手に入れて、魔法を使う術を見つけて、私が強くなったつもりでいた。
実際ゴブリン討伐をして、冒険者の依頼もこなして、今回山賊にも勝った。
でもそれはスキル、魔導銃、何よりアルテナおかげだ。自分の力ではない。
それなのに、私は山賊を見つけた時何を思った?
面倒とか、対人戦のいい機会とか、ふざけるな!
おもちゃの武器でいきがった小学生か私は!?
山賊の私を馬鹿にする声が聞こえるが、全て本当の事だ、何も言い返せない。
このままだと私は、元の世界に帰れないまま死ぬだろう。
自分に対する怒り、そして山賊に対する感謝の気持ちが浮かんでくる。
気付かせてくれてありがとう。
蹴りという安い授業料で教えてくれてありがとう。
私は丁寧にお辞儀をして感謝した。
そして、困惑したアルテナが心配そうに声をかけて来る。
「エレン、蹴られた時、頭でもぶつけたの?」
「大丈夫よ、何処もぶつけてないわ」
「じゃあなんでお礼なんか……まさか、あんたそういう性癖が……」
「何とんでもない勘違いしてんのよ。まあそれよりも……」
私は山賊達を見つめる。
「な、なんだ……?」
「ボス、こいつ様子がおかしいですぜ?」
「…………」
ここは危険な異世界だ。日本みたいな平和な場所じゃない。
常に怖がってるくらいが丁度良いだろう。
私に出来るのはそれだけだ、何せスキルのせいで強くなれないのだから。
そして、もう一つ大事な事がある。
「あなた達に命令するわ。私達は車に乗ってヴェインまで行くから、その横を走ってついて来なさい」
「は? おいおい、俺たちがお前の命令なんて聞くとおも……」
「そう、じゃあさようなら」
「え?」
バァン!
大事な事……それは、“敵とアルテナには容赦するな”だ。
私は躊躇なく山賊のボスを撃った。
だが、これは普通の弾ではない。
ある厄介な魔法が込められている。
「う、うぎゃぁぁぁ!?」
撃たれた場所から、山賊のボスがどんどん石化していく。
そして、体全てが石となり、山賊のボスは沈黙した。
「「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」」」」」
山賊達が恐怖で震える。
「ちょっとエレン!? 石にするなんてやり過ぎでしょ!」
「安心して、石にしたわけじゃないわ。というか、人を石にする魔法なんて私、使えないから」
「え? でも石になってるじゃない」
「あくまで表面だけよ」
そう、私が石にしたのは表面だけだ。
中でちゃんと生きてるし、口は石で覆っているが、息ができるよう鼻の部分にしっかり穴を開けている。
「ふーんなるほどね……。でもこれどうすんの? 動けないんでしょ?」
「ここからが本番よ。足踏みしなさい」
私が命令すると、石になった山賊のボスがゆっくりと足踏みし始める。
「あ、ゴーレムみたいに動かせるのねこれ」
「ええ、名付けて『傀儡の鎧』よ」
正直、これを思いついた時はボツにするつもりだった。
人を石に閉じ込めたうえ、強制的に動かすのだから。
でもこんな奴らに容赦する気はもうない。
怯えるゴブリンを撃ち殺した時のように。
ゴブリンの巣に黒い悪魔を突撃させた時のように。
手段を選ぶつもりは無い。
「さて、次はあなた達ね」
私は残った山賊達の方を見る。
「お、俺たちに何をさせる気だ!?」
「いや、さっき言ったでしょう? ヴェインまで走ってもらうのよ」
「……え? それだけか?」
「それだけよ、ヴェインに着いたらちゃんと魔法を解除するから安心しなさい」
山賊達から安堵の声がでる。
ここからヴェインまでまだ距離はあるものの、恐らく100kmもないため、走るだけなら決して無茶なことでは無い。
山賊なら体力もあるだろうし、ヘトヘトにはなるだろうがそれだけだろう。
「じゃああなた達も、さようなら」
私は山賊達全員に『傀儡の鎧』をかける。
そして、車の隣まで移動させた後、私とアルテナは車に乗り込んだ。
「カルロさん待たせたわね、じゃあ行きましょうか」
「は、はい……」
カルロさんの様子が少しおかしい。
怖がらせてしまっただろうか?
私は荷馬車の車輪が壊れないようゆっくり車を発進させ、その隣を走るよう山賊達を操作する。
結果、荷馬車を牽引する車の横を、石になった山賊が走るという図になった。
中々シュールである。
「うっ……」
「エレン、どうしたの?」
助手席に座ったアルテナが声をかけてくる。
「まだ蹴られたところが痛むのよ」
「いや、回復すればいいじゃない」
「……いいわ、この痛みを覚えておきたいからね」
もう、二度とこんな失敗をしないために……
「そう、にしても意外だわ」
「何が?」
「あんた蹴られたでしょ? お返しに殺さないにしろ、結構ヤバい仕返しをすると思ったのに、ただマラソンさせるだけとはね。さようならとか意味深なこと言いながら」
「はぁ……今一番の優先事項は、ヴェインまでスムーズに辿り着くことでしょ。余計な事をする時間は無いわ」
「ま、そうだけどねー」
「それに、あなたが思ってる以上にきついと思うわよ」
「え?」
……一方、山賊達は。
(((((お、重いーーー!!!)))))
山賊達は心の中で悲鳴を上げていた。
実は、山賊が内側から力づくで石を破壊できないよう、エレンはそこそこ分厚く石で覆っていた。
そのせいで、立っているのも辛い重量が山賊達にのしかかっていた。
そして……
(((((も、もっとスピードを落としてくれーーー!!!)))))
エレンは荷馬車の車輪が壊れないようゆっくり走っているが、それでも山賊達にとってはかなり早いスピードだった。
おまけに……
(((((あ、暑い……)))))
周りを石で覆われているのだ。
当然熱が籠るし、穴は鼻の部分しか空いてないので、通気性が全く無い。
(あ、汗がとまらねぇ……)
(み、水をくれー……)
(め、命令通り走るから魔法を解いてくれー……)
山賊達はそれぞれ心の中で叫ぶ。
本当なら口に出して言いたいが、石で完全に覆われてるため動かせない。
(畜生……これいつまで続くんだよ……あ)
エレンはヴェインまで走れと言った。
そう、走れとだけ。
休憩は? 水分補給は? 食事は? トイレは?
何も触れていない。
ヴェインまでまだまだ先は長い。
この最悪の環境で本当にヴェインまで何もないまま走らされたら……。
山賊達を絶望が襲う。
(た、助けてくれーー!!)
(何でもするから魔法を解いてくれーー!!)
(俺が悪かった! 蹴って悪かった! だからもうやめてくれーー!)
山賊達は必死に懇願するが、声に出せないし、石で覆われているので見た目からは全くその様子が分からない。
そんな中、エレン達の声が山賊達に届く。
「この車という乗り物は凄いですね……。動かすのに相当な魔力を使いそうですが大丈夫ですか?」
「空気中のマナを使ってるから大丈夫よ。魔力切れの心配はないわ」
「そんな事よりエレン、喉乾いたわ」
「すいません、私も喉が渇きました……この先に川がありますので休憩にしませんか?」
(((((よっしゃーーー!!)))))
山賊達は歓喜に満ちる。
「いや、エレンは自分で水が出せるから大丈夫よ」
「そうね、休憩の必要はないわ」
「いやー魔法で楽するって最高ね!」
(((((楽をしないでくれーーーー!!)))))
山賊達は絶望に堕とされる。
「エレン、山賊達休ませたりしなくていいの? 流石にずっとはきついんじゃない?」
(((((め、女神様ーーーー!!)))))
偶然にもアルテナの正体がバレる。
「人を襲う体力があるんだから、要らないでしょう」
「そういやそうだったわね」
(((((み、見離さないでくれーーーー!!)))))
……その後、ヴェインにつくまで山賊達が赦される事は無かった。




