41 山賊討伐
ルベライトを発ってから四日目。
魔導車に乗った私達は、ヴェインへの旅を順調に進めていた。
初日にアルテナが不慮の事故で死にかけた事もあったが、それはもういい。
「何が不慮の事故なのよ!?」
「いや、心の声にツッコミ入れないでよ。それに、原因はあなたでしょう?」
「いやそうだけど……あんた毎回容赦なさすぎなのよ、地球にいた時もそんな感じだったわけ?」
「そんなわけないでしょう。アルテナが特別だからよ、あなた以外にこんな事やらないわ」
私は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「そ、そう……あたしが特別だから……だったらしょうが……って納得するかー!!」
アルテナならワンチャン誤魔化せると思ったけど無理だった。
「ねえアルテナ? 前から思ってたんだけど、嫌なら抵抗すればいいじゃない。なんでされるがままなのよ?」
「さあ……?」
「さあって何よ? さあって?」
「よく分かんないんだけど、あんたに何かされる時って抗っちゃいけない的な感じになるのよね……なんで?」
「私に聞かれても分かるわけないでしょ」
……もしかしたらアステナが何か関わってるのかもしれない。
アルテナが酷い目に遭ってるのを見て興奮する変態だし。
まあ深くは考えないでおこう。
「それより、後もう少しでヴェインに着くわよ」
「え、本当? 後どれくらいで着くの?」
「そうね……後三時間ってところよ」
地図を見る限りでは大体そのくらいの距離だ。
先程ヴェインから一番近い町を通り過ぎたので、現在地もはっきりわかっている。
今の時刻はまだ午前なので、大体昼頃には着く計算だ。
「ふ、いよいよね……。ダンジョンを制覇して、冒険者として名を上げてやるわ!」
「名を上げる必要なんてあるの? 異世界を楽しめればいいんでしょう?」
「目標があった方が面白いじゃないのよ! 目指せ、トップ冒険者よ!」
「はぁ……」
目標があった方が良いとは言うが高すぎても考えものだ。
付き合わされてるこっちの身にもなって欲しいがもう今更だろう。
私は考えるのを止め、運転に集中することにした。
それから大体一時間が経った辺りで、私はあるものを見つけて魔導車を止める。
「エレン、どうしたのよ?」
「アルテナ、あれを見て」
私が指を刺した方向。
そこには、街道の中央で男達に囲まれ、止まった荷馬車があった。
「もしかして……山賊に襲われてる?」
「きっとそうだわ! エレン、助けに行きましょう!」
「……そうね、分かったわ」
正直面倒ごとに巻き込まれたくはない。
だが、私も見捨てるのは後味が悪いし、何より対人戦を経験する良い機会かもしれない。
私はその場に向けて魔導車を走らせた。
「おいおい商人さんよぉ? 護衛もつけずに外を歩いちゃダメだろう? まあおかげで俺達は儲かるけどなぁ」
「ひぃぃ!! い、命だけは取らないで下さい! 私には妻と子供が!!」
「あ? 知るかよ。とっとと死ね!」
「ん? ボス、何か変なのが近づいて来るぜ?」
「何?」
私は現場まで辿り着くと魔導車を止めた。
やっぱり山賊に襲われている様だ。
商人らしき人が腹から血を流しており、武器を持った男十人に囲まれている。
どうやら間一髪だったらしい。
私とアルテナは魔導車を降り、山賊達と対峙した。
「はっ! 何だと思ったら女二人かよ? 何の用だお前ら?」
おそらくあれが山賊のボスだろう。
大きな斧を背負い、一際強そうだ。
「クックック、我はアルテナ。これからダンジョンを制覇し、いずれトップ冒険者になる者。ここで出会ってしまったのが運の尽きだったわね。あんたら全員、ここで終わりよ」
「「「「「……ぎゃははははは!!」」」」」
アルテナの言葉を聞いた山賊全員から、盛大に笑いが飛び出した。
「ちょっと!? 何で笑うのよあんた達!」
「いや、そりゃ笑うだろう!」
「明らかひ弱そうな女二人が俺達に勝つ気でいるとかよ!」
「しかもダンジョン制覇とか言ってるぜ!」
「全く、命知らずにも程があるわよね」
「よくもあたしをバカにしたわね……! というかエレン! あんたもしれっとバカにしてんじゃ無いわよ!」
「バレた?」
「バレるわ!」
まあおふざけは此処までにしておこう。
山賊のボスが前に出て、こっちを値踏みする様な目で見ている。
「よく見りゃ金髪の女は中々の上玉じゃねぇか。黒髪の方はまあ普通だが」
「普通で悪かったわね」
「へ、こりゃ良い値で売れそうだ、おまけにその魔道具」
魔導車を魔道具と勘違いしているらしい。
本当は私が作ったゴーレムの一種なのだが。
「とんでもねぇ価値になりそうだ。まさか貴族の物見遊山だったのか? 興味本位で山賊なんかに近づいたのが悪かったなぁ?」
「ボス、売る前に俺たちで楽しんで良いっすよねぇ?」
「おいおい、ヤリすぎて壊すんじゃねぐわぁ!?」
私は右手に持った魔導銃で山賊のボスの肩を撃ち抜いた。
「ゲスい会話止めてくれる? 耳が腐るわ」
「て、テメェ! よくもやりやがったなぁ! お前ら! あの女を殺せ!」
ボスの命令により、山賊が一斉に武器を構え襲いかかって来る。
「ふ、肩慣らしにもならないけど相手してあげるわ!」
「アルテナ、デスサイズは使わないでよ? スプラッターなんて見たくないから」
「分かってるわよ。さあかかって来なさい山賊ども!」
アルテナは双剣を抜き、山賊達を迎え撃つ。
「おいおい嬢ちゃん、一人で俺たちと戦おうてのぎゃぁぁぁ!?」
アルテナを甘く見ていた山賊の一人があっさりと斬り倒される。
それを見た山賊は二人同時に剣で切り掛かってくる。
アルテナは双剣で二人の攻撃を受け流すと、その場で回転斬りを繰り出し、二人の山賊を切り裂いた。
あっさりと三人を倒したアルテナに、山賊達が震え出す。
「ひぃぃ!? 何だこいつ!?」
「おい、何してやがる! 相手は一人だぞ!?」
「いや、二人よ。アルテナ下がって、『氷弾」
アルテナが地面を蹴って後ろに下がると同時に、私は氷属性を付与した弾丸を山賊の足元に撃つ。
山賊の足元に弾丸が着弾すると山賊の周りの地面が凍結した。
「何だこりゃ……うわ!?」
凍った地面に足を取られ山賊達は次々と転び始める。
「これで終わりよ、『雷弾』
雷属性の弾丸氷結した地面に向けて放つ。
「「「「「あばばばばば!?」」」」」
氷結した地面を通して山賊達は全員感電し、そのまま気絶する。
これで残るは一人。
「どうすんの? あんたの部下、全員倒しちゃったけど?」
「き、貴様ら、調子に乗るなぁぁ!!」
山賊のボスがデカい斧を振り回し襲いかかって来る。
肩から血を流しているとは思えない圧だ。
「なら、こっちも行かせてもらうわよ!」
アルテナも山賊のボスに向かって走り出す。
「覚悟しろこのガキがぁぁ!」
山賊のボスが斧を大きく振りかぶる。
それを見たアルテナは、双剣を素早く鞘に戻しデスサイズを出現させる。
「なに!?」
「喰らいなさい!」
アルテナはデスサイズの長い持ち手部分を山賊のボスに向けて、槍の様に突き出す。
「ぐうぉ!?」
斧を振りかぶる前に山賊のボスは、アルテナの強烈な一撃を腹にくらい悶絶し、膝をつく。
「ち、チクショウがー!」
最後の足掻きとばかりに山賊のボスは、アルテナではなく私に向かって斧を投げつけた。
私になら当たると思ったのだろう。
けれどそうは行かない。
私は左手を突き出し、用意していた魔法を使う。
『マジックシールド』
ゴブリンの時にも使った光の盾。
魔法の扱いに慣れ、強度を増した光の盾は斧を軽々弾く。
「何だ……と……?」
「さっさとくたばんなさい!」
「グハァ!?」
アルテナの回し蹴りが顔に炸裂し、山賊のボスは気絶した。
「ふ、他愛もないわ。エレン、怪我はない?」
「私は大丈夫よ。それよりも一つ聞いていい? 最後デスサイズに武器を変えたのは何故?」
「ふ、あの状況じゃリーチが短い双剣よりデスサイズの長い持ち手部分で突いた方がいいと思ったのよ。意表もつけるでしょ」
どうしてその頭の回転を戦闘以外で発揮できないのか……。
そんな疑問が浮かぶが、考えてもしょうがない。
こうして、初の山賊討伐は完了した。




