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40 野営と漫画肉


 夕暮れ時の時間、街道から少し離れた林の近くに魔動車を停めた私とアルテナは野営の準備を進めていた。

 アルテナは焚き木を集めて火の準備、私はその他備品や食材の準備だ。

 

「まずは光ね、魔石を取り付けてっと……」


 私はグラスウルフから手に入れた魔石をランプにセットする。

 このランプは魔石を取り付けると光る魔道具である。

 スイッチを入れると結構明るく光る。

 光源はこれで十分だろう。


「次は食材の準備ね」

 

 私はアイテム袋から鍋と乾燥野菜、そしてグラスウルフの肉を取り出す。

 まず肉を魔法で解凍し、ナイフで一口サイズに切る。

 その後魔法で鍋に水を張り、肉と乾燥野菜を入れる。あとは煮込めば簡単スープの出来上がりだ。


「エレン、焚き火の準備出来たわよ」


 アルテナの方も準備が終わったようだ。

 私は鍋を火にかけスープを煮込んでいく。

 最後にささっと塩胡椒を振りこれで完成。


「じゃあいただきます」

「いただきまーす」


 二人でスープを味わう。

 野営なので凝ったものは作れなかったが、味はなかなか良い。

 アルテナも満足そうに食べている。


「そういやエレン、ヴェインまで後どんくらいなの?」

「ちょっと待って」


 私は地図を広げる。


「現在地は大体ここだから……そうね、このペースなら後三、四日で着くわね」

「え、もうそんなに進んだの?」

「まあ車だし、こんなものじゃないかしら?」


 馬車よりずっと速い上に、馬の休憩を挟む必要もない。

 運転に慣れればもっと早く行けるかもしれないと思った。


「いやー楽しみだわ。ヴェインってどんなダンジョンなのかしらねー?」

「正確には町の名前らしいわ。町の中央にダンジョンがあるみたいね」

「町の中央? なんでそんなところにあるのよ?」

「ギルドで聞いた話だと、町自体がダンジョンを中心に作られたみたいよ」

「なるほど、ダンジョンのお宝を目当てに冒険者や商人が集まるから、自然と町ができたって訳ね」

「まあそんな理由なんじゃない? 詳しい事は行けばわかると思うわ」

「そうね。あ、スープおかわり頼むわ」

「自分でやりなさいよもう……」


 そんな話をしながら食事をしていると、中身がすぐ空になる。

 

「エレン、あたしまだ足りないんだけど?」

「安心しなさい、スープは前菜よ。メインを今持って来るわ」

「メインって何?」

「あなたが凄く好きそうなやつよ」


 私はモン◯ンで出て来るような肉焼き器と、グラスウルフの骨付き肉を持って来る。

 塩胡椒を振った後、火にセットした私はクルクルと回し始めた。


「こ、これって……夢にまで見た漫画肉じゃないの!!!!」

 

 アルテナが目を輝かせながら飛び跳ねる。

 いや、喜ぶだろうなと思っていたが、ここまでとは思わなかった。


「そんなに良いものなの、これ?」

「これぞ神のロマンよ!」

「んな訳ないでしょ」


 そんなふざけた神がいる訳……いや、ここにいた。

 ついでにもう一人変人……いや、変態がいた。

 もしかして神ってみんなアルテナやアステナみたいなのしかいないんじゃ……。


「いや、そんな訳ないわね、ていうかそんなのは嫌!」

「ちょっと、いきなり大声出してどうしたの?」

「あなたのせいよ!」

「何で!? っていうか肉は大丈夫なの?」


 アルテナに言われ、私はハッとして肉を見る。

 焦げた、なんて事はなく寧ろ良い焼き加減だった。

 私は肉を取り外す。


「ほら、焼けたわよアルテナ」

「いや、そこは上手に焼けましたー♪ でしょ?」

「そんな恥ずかしいこと言う訳ないでしょう」

 

 私はとりあえず味見で肉を一口食べてみる。

 口の中にジューシーな旨みが広がり、幸福感で包まれる。


「少し舐めてたわね……普通に美味しいわこれ」

「ふ、そうでしょう、そうでしょう」


 アルテナがドヤ顔で頷いて来る。

 何だろう、少し悔しい。


「はい、この肉はアルテナにあげる」

「いらない」

「え? 私の分はこれから焼くから良いわよ」

「自分で焼くから」

「え」

「自分の分は自分で焼くわ! 一回やってみたかったのよねこれ!」

「えー……」


 アルテナが変なことを言い出した。

 悪い予感しかしない。


「さあ焼くわよー♪」


 アルテナが肉をもう一個持ってきて焼き始める。

 正直不安だがまあ大丈夫だろう。

 私も見ているのだ、焦がす事は万が一にもない。

 ……今フラグが立った気がした。


「なかなか焼けないわねー……」


 焼き始めてから一分後、アルテナが呟く。

 いや、カップ麺待てない系女子じゃないんだから不安になる様な事言わないで欲しい。

 ……そんなワード無いけど。


「よーし、こうなったら……」

「いやアルテナ、変なことしないで良いから。炎魔法で焼いたりとか火に直接入れようとかしなくて良いから」


 肉が焦げた塊になるような結果は避けたい。

 私はアルテナがやりそうな事を先に潰しておく。


「ふ、あたしがそんなお約束な失敗して肉を焦がすとでも思った?」

「家を倒壊させた奴が言えるセリフじゃないわよそれ」


 でも安心した。

 流石にアルテナもそこまでバカじゃないようだ。


「炎と闇の複合魔法で焼くから安心しなさい! 闇の味もついて一石二鳥よ!」

「そう、それなら安心……え?」


 一瞬頭がフリーズした。

 ちょっと待て、焦がす未来を想像して何故その結論に至った?

 後闇の味って何? 苦味がある大人の味ってこと?

 いや、そんなこと考えてる場合じゃない!


「深淵の炎よ、眼前の敵を燃やし尽くせ!」

「何よその詠唱は!? じゃなくてアルテナ! ちょっと待ちなさ……」

『ダークフレア!』


 ボォォォォォ!!!!


 アルテナ手の平から勢いよく黒い炎が吹き出す。

 数秒後、詠唱の言葉通り全てが燃やし尽くされていた。

 肉も、肉焼き器も、焚き火も、闇の炎に焼かれて消えた。


「……一瞬で全部灰にするなんて凄い威力ね」

「……ふ、さすがあたしの魔法ね」

「で、アルテナ? 何か言う事は?」

「……エレン、やっぱあんたの肉あたしにくれない?」

「ええ、良いわよ……骨ごと美味しく頂きなさい!!」

「ふがァァァァァァ!?」


 私は漫画肉を丸ごと一個アルテナの口に突っ込んだ。

 そのまま喉の奥まで押し込む。

 アルテナはしばらく苦しんだ後、そのまま動かなくなった。


「さて……寝ましょう」


 気絶したアルテナを放って私は水で体を軽く洗った後、魔動車に乗って周りを魔物が入ってこられない様土魔法で囲み、そのまま寝た。


 ……次の朝、窒息したアルテナから肉を取り出すと普通に息を吹き返した。

 全く、どんな体してるのやら……。

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