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39 車で行く異世界の旅


 ルベライトの街を出発してから数時間後、私達は街道から少し離れた所を車で走っていた。

 運転にも大分慣れて来て今は時速40km位は出している。これ以上は怖いので出さないでおこう。事故を起こしたら怖い。

 因みに不満たらたらだったアルテナはというと……


「いやー快適ねー。風が気持ち良いわー」


 窓の外から顔を出し風や景色を味わっている。すっかり車の旅に順応していた。


「ほら、車で良かったでしょう?」

「悔しいけど快適ね……。あ、人がいるわよ」


 アルテナが街道を向こうから歩いてくる旅人達を見かける。


「なんだありゃ? 馬車か?」

「いや、馬がいないぞ? 魔道具か何かじゃないか?」


 旅人たちは初めて見る車に戸惑っているようだ。

 さっさとその横を通り過ぎる。


「エレン、なんか驚かせたみたいよ? 今からでも馬車に変えたら?」

「それは難しいわね、馬の四足歩行とかイメージし辛いし、何よりこっちの方が早いじゃない」


 私はなにも意地悪で車をにしたわけではない。上手く動かすにはイメージが鮮明な方が良いため、タイヤを動かす単純な物にしたのだ。


「そういえばこの車って何か面白い機能とか無いの?」

「いきなり何を言い出すの? 面白い機能って何?」

「機関銃を撃ったりとか、ミサイルを発射したりとか、変形したりとか」

「そんなの期待されても困るんだけど」

「ま、そうよね。あんたにロマンを求めたあたしが悪かったわ」

「精々あなたの足元に自爆装置をセットしたくらいよ」

「へぇ、自爆装置……ギャーー!? イタッ!」


 アルテナが驚きのあまり飛び上がり、そのままフロントガラスに頭をぶつける。


「冗談に決まってるでしょう?」

「あんたが言うと冗談に聞こえないから!」

「そうね、どっかのバカな女神に影響を受けたのかしら? 全く怖いものね」

「あたしのせいにするなぁ!」

「それより、頭をぶつけるんじゃないわよ。ガラスにヒビが入ったらどうするのよ」

「あたしの心配をしなさいよもう……ん? これ土魔法で作ったのよね? なんでガラスもついてるわけ?」


 アルテナが今更なことを聞いてくる。

 普通に家を作った時も、窓ガラスを作っていたのに。


「ガラスの材料って土よ? 作れて当たり前じゃない」

「なるほど、それなら納得だわ」


 いや、それで納得するのか。

 まあいいか、魔法に科学的説明をしろと言われても無理だし、私自身なんとなくイメージしたら出来ただけだ。

 細かい事はいいのである。

 そう思っていると、前方に人が住んでいそうな小さな町が見える。

 私は一旦車を止めると、地図を取り出し現在位置を確かめた。


「前に見える町が最初の宿場町みたいね。乗合馬車だと今日一日かけて着く場所だったけど……」


 早朝から数時間、まだ昼にもなっていない。

 思ったより早く着いてしまった。


「アルテナ、今後の予定について相談があるのだけれど」

「相談?」

「ええ、ヴェインに着くまで日中は車で進んで、夜は野営しようと思うんだけど良い?」

「野営? 良いけど……あんたから言い出すなんて意外だわ」


 アルテナの言う事は最もだ。

 私が自分から野営したいなんて普通は言わない。

 だが、それにはちゃんとした理由があった。


「これから冒険者生活する上で、野営なんて日常茶飯事になるでしょう? それに、ダンジョンの中で一夜を明かすこともありそうだし……今のうちに慣れた方が良いと思ったのよ」


 今回は携帯食料や、簡素な野営用の道具も用意してある。

 練習には最適だと思ったのだ。


「ふ、やっとあんたも冒険者らしい思考が出来るようになったじゃないの」

「必要だから仕方なくよ。じゃあそれで良いわね?」

「ええ、問題ないわ」

「じゃあ行きましょうか」


 私は車を発進させる。

 宿場町には立ち寄らず、このままヴェインまで直行コースだ。

 そのまま何事も無く更に数時間運転経った後、疲れを感じた私は一旦休憩のため、街道から少し離れた草原に車を停め、昼休憩を取ることにした。


「うーん……流石に疲れたわね」


 ずっと座って運転してた私は車を降りると身体を大きく伸ばした。

 

「エレン、あたしお腹空いたから昼にしましょうよ」

「そうね、サンドイッチ作ってあるから荷物から持ってきて頂戴。あ、ついでにコップも頼むわ」

「いや、あんた従者でしょ? なんで主人に持って来させるのよ?」

「私は運転で疲れてるのよ。とにかく頼んだわよ」


 アルテナにそう言って、私は芝生に寝転んでみる。

 と言うかいつまで私を従者と扱う気なのだろうか?

 まあそんな事より風が気持ちいい。

 自然に満ちた場所で得られる開放感はとても良い。

 このまま寝てしまいそうだ。


「ほらエレン、サンドイッチとコップ持って来たわよ」


 アルテナが戻って来たので、私は起き上がりサンドイッチとコップを受け取る。


「ありがとう。水は私が出すわ」


 水魔法で水を出しコップに注ぐ。

 ついでに四角い氷も作って入れる。


「はい、アルテナの分も入れたわよ」

「あんたがいれば水に困らないから楽よねー」

「有能な従者に感謝しなさいよ」


 私とアルテナは地面に座って昼食を楽しむ。

 とはいえ気は抜いていない。

 ここは異世界、地球とは違う。

 いつ魔物や山賊などが現れるか分かったものじゃない。

 私は探知魔法を使い周囲を警戒する。


「周囲に反応は無いわね」

「エレン、あんたの探知魔法って目だけじゃ無くなったんだっけ?」

「ええ、お陰でかなり精度が上がったわ」


 探知魔法と言っても私が使っていたのは魔力を見る目、『魔力視覚』だった。だが、以前図書館でスキルを考察した時、私は感覚を技術で研ぎ澄まし強化できることが分かり、それを利用して魔力を感知する技術、『魔力感知』を習得したのである。その二つを併用する事で、より精度が増した探知魔法となった。


「まあ今の所何も反応は……ん?」


 私の探知魔法に何かが引っかかる。

 反応は三つ、どんどんこっちに近づいている。

 

「アルテナ、何かが三匹近づいて来てるわ。多分グラスウルフね」


 グラスウルフとは森や草原に生息している狼の魔物だ。

 普通に戦うなら大した事ないが、緑色の体をしていて、周りの景色に溶け込みながら静かに近付き奇襲をかけてくるため、油断していると痛い目を見る魔物である。


「全く、食事の時間を邪魔するなんていい度胸じゃない。イグニス、アビス! 出番よ!」


 アルテナはそう言いながら双剣を構える。

 イグニス、アビスとはアルテナが考えた双剣の名だ。

 右手に持った赤い剣をイグニス、左手に持った黒い剣をアビスと言う。

 

「逆にこっちから仕掛けてやるわ! エレン、今回はあたしに任せなさい」

「いいわ。その代わり三匹ともしっかり倒しなさいよ」

「任せなさい、さあ行くわよ狼ども!」


 アルテナがグラスウルフに向かって突撃する。

 グラスウルフの一匹が正面から口を開けアルテナに飛びかかって来る。

 アルテナはそれを横に避けながらグラスウルフの喉元を掻き切る。

 一匹仕留めたが、同時にアルテナの斜め左、斜め右から残りのグラスウルフが飛びかかって来る。


「動きが単調なのよ犬っころ!」


 大きな口を開けてアルテナの首元に迫るが、アルテナは冷静に双剣を上段に構え、二匹同時に頭から突き刺し絶命させた。

 戦闘を終えたアルテナは、剣を軽く振り血を払うと鞘に戻す。

 

「はぁ、手応えのない奴らだったわ。弱すぎて草生えるわね。グラスだけに」

「どういう意味?」

「え、意味って……グラスは英語で草でしょ? だから……ってボケを説明させるな!」

「ごめんなさい、知らなかったから……プッ……」

「絶対知ってたでしょあんた!」


 うん、少しおふざけが過ぎたようだ。


「まあそれはさておき、解体作業に移りましょうか。アルテナも頼める?」

「解体の仕方はわからないから任せたわ」

「でしょうね」


 私は解体用ナイフを取り出しグラスウルフを解体していく。

 ルベライトに住んでいた一月の間に、私は解体技術も学んでいた。

 そのおかげもあって解体はスムーズに行く。

 素材として売れそうな爪、牙、毛皮、魔石、そして肉。

 解体後はアルテナが残った死体を燃やして処理し、これで完璧だ。

 最後に肉を魔法で凍らせ、私とアルテナで肉と素材をアイテム袋に詰める。


「よし、こんなものね。休憩の筈が逆に疲れた気がするわ」

「食糧が手に入ったからいいじゃない。ほら、日が暮れるまでにさっさと行くわよ」

「はいはい」


 私とアルテナは再び車に乗り、発進させる。

 さて、この調子で何事もなく行ければ良いけれど……。

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