37 アルテナ、新しい武器を買う
出立の準備を始めてから一週間、私は毎晩家の庭である物を作り出す実験をしていた。
「さて、今日も実験開始ね」
私はいつものゴーレムを作る魔法でそれを作り出し、静かに動かす。最初は出来るかどうか分からなかったが、やってみると意外に動く。少しして、実験が成功した事に満足すると、私はそれを消した。
「よし、完璧ね。当日までアルテナには秘密だけど……知ったら絶対うるさいだろうし」
私はそう呟くと、部屋に戻り就寝した。
……翌朝、出立の準備を大体終えた私とアルテナは、マテツさんの店に再びやって来た。しかし、店はまだ閉まっており、ドアも鍵がかかっている。
「欠陥親父ー! あたしの武器取りに来たわよー!」
アルテナが大声でマテツさんを呼ぶ。
だが、なかなかマテツさんは出てこない。
「マテツさん留守なのかしら?」
「ちょっと、あたしの武器はどうなるのよ!? 欠陥親父ー! さっさと出て来なさい!」
ドンドンドンドンドン!
ドアをうるさく叩き始めるアルテナ。
声と合わさってかなりの近所迷惑である。
「アルテナ、大声でその呼び方止めなさいよ。あと、そんなドアの近くにいたら危ないわよ」
「え? 危ない?」
「うるせぇ小娘!」
ドアが勢いよく開かれ中からマテツさんが出てくる。同時にアルテナがドアに挟まれ視界から消えた。
「ん? エレン、小娘はどこだ?」
「帰ったわ」
「帰ってないわよ!」
ドアの裏からアルテナが出てくる。随分思い切り挟まれたが元気なようだ。うん、やっぱり丈夫である。
「何だ、そんなところにいやがったのか」
「いやがったのか、じゃないわよ! いきなり何すんのよ!?」
「オメェがそんなところにいるのが悪い。それよりも武器は出来てるぞ」
その言葉を聞いてアルテナの目が輝きだす。
ドアに挟まれた怒りは吹っ飛んだ様だ。
「出来てるの!? 早速見せなさいよ!」
「ちょっと待て、先に倉庫に行ってろ。今持って来てやる」
そう言われ、前回と同じく倉庫で待っていると、マテツさんが箱を持って現れる。どうやらあの中に入っている様だ。
「ふ、かなりの自信作だぞ。ほれ、こいつだ」
マテツさんが箱を開けると、その中には“二本”の赤と黒に刀身が輝く剣が入っていた。
「これもしかして双剣!?」
「ああ、オメェ専用に作ったミスリル製の双剣だ。どうだ、カッコいいだろう!」
「メチャクチャカッコいいわ!」
アルテナが双剣を持ちはしゃぎはじめた。私にはよく分からないが、どうやらかなり気に入った様だ。でも何か引っ掛かる。
「マテツさん、何で双剣なの?」
「カッコいいからだ」
「……」
「いや、冗談だ! ちゃんと他にも理由があるぞ?」
私が呆れた目を向けると慌てて訂正して来た。
それならそうとちゃんと言って欲しい。
「小娘、その剣を持ってみてどう思う?」
「そうね、色が炎と闇の魔法を使うあたしにピッタリだと思うわ」
「だろうな。そういうイメージで作ったからな、ガッハッハ」
「…………」
「って色の話じゃねぇ! 剣の長さや重さの話だ!」」
うん、ならよかった。
もう少しで魔導銃を構えるところだった。
「そうね……この前の剣よりも軽くて短いわね。おかげで振り易いわ。」
アルテナの言う通り、剣というよりも長い短剣というイメージが強い。
「小回りが効く様に作ったからな。大鎌と使い分けがしやすくていいだろう? 早速試し斬りするか?」
「ええ、お願い!」
マテツさんがまた鋼の鎧を来せたカカシを用意し、アルテナが双剣を構える。
「見てなさい! 『ダブルスラッシュ!』」
アルテナがカカシに斬撃を二回叩き込む。カカシは鎧ごと綺麗に切り裂かれ、三つに分かれた。
「良いじゃない、まるで手足の様に馴染むわ。どうエレン? 双剣を振るあたしの姿は?」
「そうね、強いて言うなら……技名があなたにしては普通だったわね」
「今考えたんだからしょうがないじゃない。ってそこじゃないでしょ!? 凄いとかカッコいいとかないわけ!?」
「見るの二回目だし、結果は分かってたから特に言うことはないわね」
「何よそれ!」
遠回しに褒めたつもりなのだが、アルテナには伝わらなかったらしい。しかしこんな立派な双剣を作るなんて、マテツさんの腕は凄い。流石魔道具職人……あれ?
「マテツさんって魔道具職人よね? 何でこんなに凄い武器も作れるの?」
「基本が出来てなきゃ良い魔道具が作れるわけねぇだろう? これくらい当たりめぇの事だ。ま、俺は武器専門だがな」
なるほど、マテツさんにとって武器作りは基本扱いの様だ。けれど、それでもまだ引っ掛かる。それを聞こうとする前に、アルテナが近づいて来て口を開く。
「欠陥親父、あんな使えない魔法の武器ばかり作ってないで普通の武器専門にしたらいいじゃないの」
使えないかはともかく、言おうとしたことを言われてしまった。それを聞いたマテツさんの顔が険しくなる。
「別に良いだろ、俺は魔道具を作る方が好きなんだよ。それに、『魔具精通』のスキルも授かっちまったしな。まあおかげで“スキルの持ち腐れ”と呼ばれる事は多いがな」
『魔具精通』……前にマテツさんが言っていた気がする。確か魔道具の知識と理解が深まるスキルだ。いや、それよりも変なワードが出て来た。
「マテツさん、スキルの持ち腐れって、宝の持ち腐れ的な意味合いで合ってる?」
「ああそうだな、スキルを使いこなせねぇ奴をそう呼ぶのさ。スキルは神が人に授けた宝の様なもんだからな。それを使いこなせねぇ奴は文字通りスキルの持ち腐れと言われ蔑まれるって訳だ」
なるほど、スキルが重要なこの世界ならではの言葉である。
「ちょっと、持ち腐れ親父とか語呂が悪いじゃない。あたしは欠陥親父の方がいいわ」
「どっちも御免だわアホが! それに俺はスキルをしっかり使いこなしてるぞ!」
うん、私もマテツさんはスキルを使いこなしてるとは思う。
……ただ扱えない物を作っているだけで……。
「後もしもの話なんだが……いや、何でもねぇ。」
何だろう? マテツさんが何かを言いかけたが止めてしまう。そんな事をされたら逆に気になる。
「マテツさん、何を言いかけたの?」
私の質問に、マテツさんは少し考えた後答える。
「もしオメェらがダンジョンを攻略したら……“ダンジョンコア”を売ってくれねぇか?」
「ダンジョンコア? それって……」
「あ、知ってるわあたし! ダンジョンの一番奥にあって、ダンジョンを形成してる球の事でしょう!」
アルテナが意気揚々と答える。恐らくこの世界の知識というよりもラノベで得た知識だろう。だがマテツさんの反応を見る限り、アルテナの解釈で当たっている様である。
「ダンジョンコアは貴重な魔道具の材料でな。滅多に手に入らねぇんだ。一部でいいから売ってくれたら助かるんだが」
なるほど、言いにくかった理由がわかった。ダンジョンを攻略するのは相当難しいはず。なのにダンジョンを攻略してコアを取ってこいなんてかなりの無茶振りだ。
こんな頼み引き受ける者はいないだろう。……一部のバカを除いてだが。
「ふ、その頼み冒険者アルテナと従者エレンが引き受けたわ! あたし達にかかればダンジョン攻略なんて余裕よ! 大船に乗った気持ちでドンと任せておきなさい!」
「いや、無理だと思ったら帰るからね」
「ふ、少しは期待して待ってるぜ。言っとくが無茶だけはするんじゃねぇぞ? 俺が作った武器と魔道具を持つ奴があっさりダンジョンで死んだなんてなったら悪評が立つからな」
恐らくマテツさんなりに心配してくれているのだろう。素直じゃない人だ。
「じゃあマテツさん、武器も手に入ったし私達はそろそろ行くわね。最後まで力になってくれてありがとう」
「じゃあね欠陥親父、帰ったらあたしの武勇伝聞かせてあげるわ」
「おう、行ってこい! と言いてぇところだがちょっと待て」
マテツさんは私達を呼び止めると一枚の紙を差し出してくる。
「何よ欠陥親父、この紙は?」
「請求書だ」
「え?」
「え? じゃねぇ。ミスリルの双剣の請求書だ」
「はぁぁぁぁ!?」
アルテナの大声が倉庫に響く。
請求書に書かれた値段は払えない額では無かったものの……。ゴブリンキング討伐で稼いだ金が丸々飛ぶほどの額だった。
「ちょっと待ちなさいよ! くれるんじゃないのこれ!?」
「誰がやるなんて言った!? ミスリルの武器はたけぇんだぞ! しっかり金を払え!」
「エレンにはくれたのに不公平じゃないの!」
「あれは勢いでくれてやると約束しちまったからだ!」
「ていうか作るって言い出したのはあんたでしょうが!」
「その時点で高額になるって事は分かっていただろう!」
「このケチ親父! 欠陥親父! ケチカン親父!」
「やめろっつってんだろ! というかもう訳がわからねぇじゃねぇか!」
二人の激しい言い争いが始まってしまった。冷静に考えればマテツさんの言う通り高額になるのは当たり前だ。私はマテツさんに甘えていたのかもしれない。いや、せめて作る前に金額は言って欲しかった。
ここで買わないという選択は……うん、無い。アルテナも気に入ってるし何よりダンジョンで必要な武器だ。背に腹は変えられない。
……その後、冒険者ギルドで金を下ろした私とアルテナは、無事双剣の料金を払ったのであった。
そしてその夜、荷造りが終わり、あとは出発だけになった家を私は見渡す。
住み始めてまだ一ヶ月だが、異世界で一番安心できるこの場所。
この場所に絶対帰ってくる。私はそう決意し、静かに部屋に戻って眠りについた。
いよいよ明日は出立の日である。




