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34 女神アステナ、再びエレンを呼び出す

 (あれ? ここは……?)


 気がつくと私は既視感がある白い空間にいた。

 確か私はベットで就寝したはず。

 まあ何故ここにいるかは見当が付く。

 あの神が呼び出したのだろう。

 

「やっほー、エレンちゃん久しぶり♪」

「……はぁ」


 想像通り目の前に現れた。

 彼女の名はアステナ。

 アルテナの姉であり、本当の意味で世界を管理する上級女神である。

 以前私に『器用貧乏・改』というチートスキルを押し付け、その後音沙汰がなかったが何の用だろうか?


「神を見てため息つくなんて失礼しちゃうわねっ」

「それよりも何の用? 地球に帰してくれるなら大歓迎だけど?」

「それはダメよ。スキルを授けたんだから、しっかりアルテナちゃんと冒険してもらわないと♪」

「要らないから帰してって言ったら?」

「返却は受け付けません♪」

「……そう言うと思ったわ」


 本音を言うと、アルテナの様に殴ってやりたい。

 だが、格の違いというのだろうか? 

 アステナからは謎の威圧感を感じて、行動に移す事ができなかった。

……しかし、アステナに頼る以外本当に方法はないのだろうか?

 異世界の魔法、もしくはアイテムで地球に帰れたりは……。


「あ、エレンちゃん? 今別の方法で地球に帰ろうとか考えてるでしょう〜?」

「え?」


 どうやら心を読まれたらしい。

 私の動揺を見てアステナがニコッと笑う。 


「でも、それは無理よ〜。異世界を渡るには必ず儀式で天界に呼びかけて扉を開いてもらうしか無いの。でも、全部監視されてるから、違法に渡ったエレンちゃんがやったら即バレして消されちゃうわよ?」

「……勝手に心を読んだ上に、淡い希望を消さないでくれる?」


 はぁ……と深いため息をつく。

 結局アルテナの冒険に付き合うしか私には道がないらしい。


「まあ良いじゃない、エレンちゃんしっかりスキルを使いこなしこの世界に慣れてきてるみたいだし。私の導きが役に立ったみたいね♪」

「一つ聞いていい? あなたはどこまで分かっていたの?」


 マテツさんに会うよう言ったのはアステナだ。

 おかげで私は魔導銃を手に入れることができ、更に魔法を使うヒントが得られた。

 偶然とは思えない。


「そうね、実を言うとそこまで深く考えてた訳じゃないのよ? マテツって人、性格が邪魔してるだけで腕は本物だからね。いい魔道具に触れれば何かのきっかけになるんじゃないかと思ったんだけど……自分で魔法を使いこなせる事まで気付くとは思わなかったわ。私も驚いたのよ?」


 どうやらアステナの筋書き通りと言うわけではないらしい。

 それはそれで安心したが……いや、それよりも……。


「スキルを応用して魔法が使える事を知ってたなら、どうして教えてくれなかったの?」

「あら、自分で気付くってところが重要なのよ? だからこそエレンちゃんは『器用貧乏・改』について深く知ることができたんだから。今回の経験はこれからの冒険でも役に立つはずよ。」

「確かにそうだけど……そもそもなんでそのスキルを押し付けたの?」

「授けたって言って頂戴よもうっ。 理由としてはあなたのスキルが『器用貧乏』って事もあったけど、スキルで出来ることが決まっちゃうっていうこの世界の常識に囚われて欲しくなかったのよね。だから技術だけを上げるスキルを授けたの」

「まあ、それでもユニークスキルは使えないみたいだけどね」

「ふふ、それはどうかしらね〜?」

「え?」


 アステナが何か含みのある事を言う。

 もしかしてユニークスキルも使う方法がある? 

 でも聞いたところで教えてくれなさそうだ。

 自分の力で見つけ出せと言うことなのだろう。


「因みに、デメリットの自力が上がらないって所はどうにかならないの?」

「あ、それはダメよ? なんでも出来る様になっちゃったらアルテナちゃんの出番がなくなっちゃうじゃない。神の権限で絶対上がらない様にしたから。認めませーん♪」


 アステナが指でバツを作りながら言う。

 正直ウザい。


「チートスキルならデメリットは無くして欲しかったけど」

「エレンちゃん、日本ではチート=強いって印象が強いけど、本来は騙すって意味なのよ? 何でも出来る様に見せて実は出来ませーんっていうのはとっても合ってるでしょ?」

「その意味なら確かにそうだけど……」


 デメリットに関しては諦めるしかなさそうだ。戦いに関しては、これまで通りアルテナの支援メインで行くしかないだろう。

 そう思っていると、アステナの雰囲気が変わる。

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。今日はエレンちゃんに“お礼”と“お願い”があって呼んだの」

「お礼とお願い?」

「ええ、そうよ」


 そういうと、アステナが丁寧に頭を下げる。

 いきなりの事に私は少し驚いてしまう。


「え?」

「アルテナちゃんを支えてくれてありがとう。あの子変わり者でしょう? そのせいで一人でいることが多くてね。本当は寂しかったのよ。勝手にあなたを呼び出しちゃったのも、一人で行くのが心細かったからだと思うわ。本当は私がついて行ってあげられれば良かったんだけど、私には時間がないから……うっ」


 アステナが顔を手で押さえうずくまる。

 すると、血がポタポタと落ち始め、白い地面を真っ赤に染め始めた。


「アステナ!?」


 私はすぐアステナに駆け寄った。苦しいのか、体が震えている。

 時間がないって……まさか……。


「アステナ、しっかりして!?」

「心配かけてごめんなさい……大丈夫よ」

「無理しないで! どうすれば……」


 回復魔法を使う? 

 いや、そもそも神に効果があるかもわからない。


「本当に大丈夫よ……それよりも、アルテナちゃんをよろしくね……」

「今は妹より自分の心配を……!」

「特に……“お仕置き”をこれからも頼むわ……」

「そんな事はどうでも……え? お仕置き?」


 アステナが顔を上げる。

 よく見ると血は口ではなく“鼻”から出ていた。


「まさかアルテナちゃんに銃を乱射したり、生き埋めにしたりするとは思わなかったわ……。その光景を思い出すだけで鼻血が……ハァ、ハァ……」

「ひぃ!?」


 鼻から血を流し、息を荒げながらニヤけているアステナ。

 いや、怖い! 後ものすごく気持ち悪い!

 私はすぐさま彼女から遠ざかる。


「あんなご褒美シーンをくれるなんて……呼び出されたのがあなたで良かったわ。お陰で毎日お腹いっぱいよ……ハァ、ハァ……♪」

「え、ちょっと待って? さっきのは……ただ興奮してただけ?」

「ええ、だから大丈夫って言ったじゃない」

「……時間が無いって言ったのは……?」

「こう見えて私忙しいのよ? おかげでアルテナちゃんについてく時間が無いのよね。嫌になっちゃうわ」

「え……」

「というわけでこれからも期待してるから♪ あ、これがさっき言った”お願い“ね♪」

「待って、少し頭を整理させて」


 私は深呼吸をし、冷静に情報を整理する。

 つまり……


「……あなたはシスコンの変態女神って事?」

「違うわよ、シスコンの“上級”変態女神よ♪」


「どっちでもいいわ!!」


 ブチ切れた私は力一杯叫んだ。

 というかこの流れ、前にもやった気がする!


「じゃあ私の用は終わりだから♪ あ、庭にこれまでのお礼として、プレゼントを置いといたから好きに使って頂戴♪ じゃあまたね〜♪」

「ちょっと待ちなさ……!」


 急に目の前が暗くなり、気付くと私はベットの上で寝ていた。

 窓から朝日が射している。どうやら一晩経ったらしい。


「あの変態女神……! そういえば庭に何か置いたって言ってたけど……」


 私が家の庭に行くと、何やら色々なものが置かれていた。一つ一つそれらを確認していく。

 アルテナの写真集(隠し撮り)、アルテナの絵が貼られた抱き枕、「使用済み」と貼り紙がついてる衣服、「頭に被って使うのよ♪」と貼り紙がついてる下着類、その他色々。


「……全部燃やそう。そして忘れよう」


 ……十分後、私は庭で灰の山を掃除していた。

 そこにアルテナがやってくる。


「おはようエレン、庭で何やってんの?」

「あ、まだゴミが残っていたのね」

「いきなりゴミ呼ばわりってどういう事!?」


 あ、本物だった。


「ごめん間違えたわ。それよりもアルテナ、今日はギルドで何の依頼受ける? あなたの好きな依頼でいいわよ」

「え?」

「後、夕飯のリクエストとかある? 今夜はあなたの好きなもの作ってあげるから、何でも言って」

「ど、どうしたのよあんた? 頭でも打った?」


 私は戸惑っているアルテナの両肩を掴む。


「あなたも苦労してるのね……同情するわ……」

「え、何であたし同情されてるの? ていうかあんた目が潤んでるんだけど!?」

「いいから、今日だけは全てを忘れて楽しみましょう」

「どういう事ーー!?」


 訳がわからないというアルテナの叫びが街に響いたのだった。

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