33 魔導銃の評価
ここはルベライトにいる魔道具職人マテツさんの倉庫。
そこでは少々頭の痛くなる事態が起きていた。
「畜生あいつら! こいつのカッコ良さが分からねぇとは!」
「そうよ! これのカッコ良さが分からないなんて信じられない!」
「二人とも、落ち着きなさいよ」
私は今、怒り心頭のアルテナとマテツさんをなだめている。
何故怒っているのか?
その原因は少し前に遡る。
……ある日の朝、家にマテツさんが訪ねてきた。
なんでも、魔導銃のメンテナンスをしたいとの事なので、私は快く銃を預けた。
「うーむ……コイツは……」
「何か悪い所でもあったの? マテツさん?」
「いや、逆だ。丁寧に使われていて調整の必要がねぇ。エレン、やはりオメェはスゲェやつだな。これで剣や斧を扱える筋肉さえついてれば、何がなんでも助手にしたかったんだが……」
「期待に添えられなくてごめんなさい」
最も、アルテナと冒険者活動をしなきゃ行けないので無理なのだが。
「ところでエレン、魔導銃は他の冒険者にはどう思われてるんだ?」
「他の冒険者に? なんでそんなこと聞くの?」
「いや……この武器は俺の創作武器だからよ、どうしても気になっちまうんだよ」
確かに、製作者が周りの評価を気にするのは当然だろう。
しかも、マテツさんの魔道具はこれまで誰にも使って貰った事がない。
ならば、余計に気になるのは当たり前だ。
「ごめんなさい、まだ他の冒険者に見せた事ないのよ」
因みに、冒険者としてすでに何件か依頼はこなしているのだが、他の冒険者の前で使うわけではないし、ゴブリンの時、魔法は多くの冒険者に見られたが、魔道銃に関しては見せていなかった。
「でも私も気になるわね。銃ってどう評価されるのかしら?」
銃がない異世界で、銃はどう評価されるのか?
そこは私も気になる事だった。
「ふ、銃の評価ですって? そんなの決まってるじゃないの」
突然会話に参加してなかったアルテナが入ってくる。
「撃った瞬間皆のハートも撃ち抜き、誰もが欲しいと思うに違いないわ! そしてこの世界は銃が主力となった時代が訪れるのよ! なんたってカッコいいんだから!」
「小娘、オメェもそう思うか! 俺もこの武器を作った時思ったんだ! なんてカッケェんだろうとな!」
珍しく意見が合ってる二人。
というか銃が普及されるのはやめて欲しい。
危険な異世界がさらに混沌と化してしまう。
「そうだわ! エレン、今から冒険者達に見せに行きましょうよ!」
「え? 別にそんな事しなくても……」
「俺からも頼む! ぜひ評価を知りてぇ!」
「……分かったわ。じゃあ冒険者ギルドに行きましょう」
アルテナはともかく、マテツさんは魔導銃をくれた恩人だ。
その人の頼みとあらば私は断れなかった。
その後、マテツさんは店に戻り、私とアルテナは、魔道銃のパフォーマンスをするため、冒険者ギルドにある訓練所へ向かった。
今までにない武器という事でかなりの冒険者が興味を持ち、私は木でできたカカシを的に銃を撃つ。
バンッ バンッ バンッ
三発の銃弾はカカシを簡単に貫き、首が吹き飛ばされる。
なかなかいいパフォーマンスになったと思ったが、何故か冒険者達は微妙な顔を浮かべている。
「おい、これだけかよ?」
「思ったより地味だな」
「魔法はもっと派手なものだよな」
「弓で十分なんじゃないの?」
なかなかの酷評だ。
もっと騒がれると思ったが。
その評価に、アルテナも呆然している。
そう思っていると、何故か冒険者の人達が私に集まってきた。
「エレンって言ったわね。あなた、あのマテツの魔道具を使いこなすなんてやるじゃない!」
「俺なんて一回使ったら酷い目にあったぜ!」
「流石ギルドの英雄なだけはあるな!」
「え……いや、それ程でも……」
魔導銃じゃなく私の評価が上がっていく。
いや、どうしてこうなった?
そして、皆から絶賛された後、ギャーギャー騒ぎ出そうとしていたアルテナを引っ張りながらギルドを後にし、マテツさんにこの結果を伝えた。
……そして、今の状況である。
二人をなだめるものの、なかなか落ち着いてくれない。
「見た目にばっか惑わされやがって! 確かに派手さはねぇだろうが威力と速度、この二つを兼ね備えた武器の何が行けねぇ!?」
「そもそも何で銃じゃなくてエレンの方が評価されるのよ!?」
「いや、エレンの嬢ちゃんが評価されるのは当たり前だろう。何せ俺の武器を初めて使いこなした人間だからな」
「欠陥親父、それ自分で言ってて虚しくない?」
「うるせぇ! 使いこなせねぇやつらが悪いんだ!」
いや、使いこなせない物ばかり作る方も十分悪いとは思う。
だが、頑固親父のマテツさんにそんな事言っても無駄だろう。
「エレン、実際使ってるあんたから何か意見は無いの?」
「私? そうね……」
私自身は魔導銃に満足している。
だが、それを言っても恐らくこの事態は解決しない。
冒険者達の評価を変える様な何かが必要だ。
「……マテツさん、魔導銃は魔力を撃つのよね?」
「何だいきなり? 確かにそうだが?」
「つまり魔法って事?」
「魔道具だからな、そんなの当たりめぇだ」
なるほど、そういう事なら何とかなるかもしれない。
「一つ試してみても良いかしら?」
「エレン、また何か思いついたのね? 今度は何する気?」
「まあ見てなさい。マテツさん、幾つか的を用意してくれる?」
「おお、少し待ってろ」
マテツさんが鎧を被せたカカシをいくつか持って来る。
さて、実験開始だ。
私は魔導銃を構え魔力を安定させる。
あとは撃つだけだが、ここでもう一工夫する。
簡単に言えば属性を付与するのだ。
私は弾丸を氷属性に変え、そして撃つ。
バンッ
弾丸はカカシに命中し、それと同時にカカシが鎧ごと凍り付いた。
実験成功だ。
「上手くいったわね。どう? 二人とも?」
「いや……ビックリしたぜ。まさか属性を付与するたぁ……」
「流石エレンね! どう、欠陥親父? これがあたしの従者の実力よ」
「オメェが誇る事じゃねぇだろう!」
「……もう一工夫出来そうね」
「「え?」」
私は再び魔導銃を構える。
先ほどと同じ氷属性付与に加え、弾丸が氷柱になる様イメージし撃つ。
ザクッ!!
弾丸が大きな氷柱へと姿を変え、鎧に深く突き刺さった。
弾丸に属性だけでなく、さらに魔法を組み込む実験も成功だ。
これなら戦略の幅が広がるに違いない。
この結果に製作者本人であるマテツさんも呆然としている。
「嘘だろ……魔力を安定させるだけでも大変だってぇのに……属性付与だけじゃなく魔法まで仕込むたぁ……エレン、ホントにオメェは何モンだ?」
「ただ器用なだけよ」
「それで納得するわけねぇだろ!?」
そう言われても、実際そうなのだからしょうがない。
「それよりもどう? 魔導銃にこういう使い方ができるなら、地味って評価は無くなると思うけど?」
私の言葉に、マテツさんとアルテナはハッとする。
「そうよ! これならあの冒険者達に一泡吹かせられるわ!」
「よっしゃ、今回は俺も行くぞ! 今すぐギルドへ直行だ!」
「え? いやまだ……」
「ほら行くわよエレン!」
「ちょっと!?」
アルテナが私の腕を掴み、強引に引っ張っていく。
まだ一番大事な問題が残ってるのだが……
……その後、再度ギルドの訓練所にてパフォーマンスを行った。
先程の地味と言う評価は改善されたものの……
「「「「「そもそも扱えねぇから」」」」」
「グウォ!?」
「げぇ!?」
冒険者の言葉に二人は崩れ落ちた。
うん、予想通りの結果である。
結局、今回の件で評価を得たのは、マテツさんの武器を扱える私だけであった。




