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30 冒険者としての初依頼

 「さあ今日は冒険者としての初依頼よ! 目標確認! アルテナ、いっきまー……」

「こら、待ちなさい」


 現在、私とアルテナは魔物討伐のため東の平原に来ている。

 何気に冒険者登録をしてからの初依頼で、アルテナのテンションがかなり上がっていた。


「また無策で突貫しようとするんじゃないわよ。討伐目標の習性忘れたの?」

「あーそう言えばそうだったわね」


 今回討伐する魔物はアサルトボアという大きい猪の魔物。大量発生により、周囲に被害を及ぼし始めたのでギルドに依頼が来たのである。

 この魔物の厄介なところは、群れの一匹でも敵対するとすると全ての個体が向かってくるという点だった。


「まあ、逆に誘き寄せやすいって事なんだけどね。 アルテナ、行けそう?」


 私達は、遠くに見える数十匹の群れを引き寄せ、 アルテナの魔法で一掃する作戦を立てている。


「ふ、問題ないわ。あたしの魔法で全員蹴散らしてやるんだから!」


 アルテナが自信満々にそう言う。

 普段の姿からは考えられないが、アルテナの実力は本物。

 私はそれを支援し、実力を最大限に発揮できるようにする役目に徹する。


「アルテナ、準備はいいわね?」

「いつでもOKよ!」

「じゃあ、狩り開始ね」


 バァン!! バァン!! バァン!!


 私は発砲音を大きくし、アサルトボアを遠くから狙い撃った。

 

 『ブモォォ!?』


 撃たれたアサルトボアが悲鳴を上げ、群れがこちらを敵として認識する。


 『『『『『ブモォォォォォ!!』』』』』


 数十匹以上のアサルトボアが一斉にこちらへ向かってくる。

 それと同時に、アルテナが呪文を詠唱し始めた。


「紅蓮の炎よ、我が魔力を糧に激しく燃え盛れ」


 アルテナの上空に巨大な火の玉が作られる。

 

『『『『『ブモォォ!?』』』』』


 アサルトボアも野生の感が働いたのだろうか?アルテナの魔法から逃げる為、進行方向を変えようとする。しかし、その行動は想定済み。私は用意していた魔法を発動する。


土の壁(アースウォール)


 名前の通り土の壁をアサルトボアの前方に作り出す。とは言っても、普通に作ればあっけなく破壊されてしまうだろう。なので、私が作ったのは普通の壁じゃなかった。


『『『ブモォォォォォ!?』』』


 先頭のアサルトボア達が次々倒れて行く。そのせいで後ろにいたアサルトボアもつっかえてしまい、群れの動きが一瞬止まる。


「予定通り“転んで”くれたわね」


 私が作った壁は、僅か十センチという高さの小さい物だった。それに足を取られたアサルトボアは転んでしまったのである。

 

 そもそも私はマナを集める工程がある以上、大きな魔法はかなり時間がかかる為、実戦向きじゃない。だから小さい魔法を工夫するのが私のやり方だった。そして、動きが止まってしまったアサルトボアに、アルテナの魔法が襲いかかる。


「荒れ狂うその力、我が眼前の敵に降り注ぎ、全てを燃やし尽くせ『紅炎の雨(プロミネンス・レイ)!』」


 巨大な火の玉から放射線状に炎が続々と噴き出し、アサルトボア達に降り注ぐ。


 ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!


 魔法の着弾で次々爆発が巻き起こる。一塊になっていたおかげで、一匹も撃ち漏らす事なくアサルトボア達は魔法で吹き飛んだ。


「ふ、ボアが虫ケラの様だわ。」

「それ、悪役側のセリフじゃないの?」

「良いじゃないの、なんかカッコいいし」

「まあいいけど……ん?」


 私は横から何かが近づいてくるのに気付いた。

 よく見ると、誰かが別のアサルトボアに追われている。


「おーい! 助けてくれー!」


 追われている男が助けを求めてくる。

 正直なところ、余計な仕事を増やして欲しくないと思うけど、助けを求められたらしょうがない。


「頼む、ここは任せたぜ!」


 そう言いながら、男はすれ違う様に去って行く。一瞬何処かで聞いたような気がしたが、それより今はアサルトボアの迎撃に専念する。今度の数は5体、それ程多くはない。


『アースウォール』


 先程と同じように、まずアサルトボアを転ばせる。そしてその瞬間アルテナが攻撃を仕掛けた。


「紅き炎、我が刃に集いて全てを焼き切れ!『フレイム・スラッシュ!』」


 デスサイズに炎を纏わせ一閃。

 アサルトボア五匹はその一瞬で燃え盛り灰になる。

 いや、やり過ぎだから。


「はぁ……アルテナ、灰にしたらダメじゃないの。素材も売れないし、魔石を持ち帰らないと討伐報酬がもらえないわよ」


 つまりタダ働きになると言う事。

 アルテナの倒し方は、一番ダメなやり方だった。


「あ、すっかり忘れてたわ」

「全く……まあさっき倒した群れがいるからいいけどね」

「おい、なんて事をしてくれたんだ!」

「「え?」」


 先程アサルトボアに追いかけられていた男が、急に怒りながら戻ってくる。


「全部灰にしてくれやがって! 折角ここまで連れて来たってのに!」

「一体何を言ってるの? そう言えばあなたどこかで……」

「……あーー! あんた、あたし達にゴブリンをなすりつけた冒険者じゃない!」


 思い出した、南の森で最初に会った冒険者。

 最初にどこかで聞いた声だと思ったらそう言う事だったのか。


「今回もなすりつけってわけ?」

「人聞きの悪い事を言うな。俺が引き付けて強いやつが倒す。役割分担ってやつだ」

「それをなすりつけって言うのよ。知ってるの? 冒険者として最低の行為の一つよそれ」


 魔物を他人にぶつけたり、もしくは囮にする行為はギルドでも厳しく禁じられてる事だった。私はそれを説明するが、それでも男の態度は変わらない。


「おいおい、お前達強いんだからいいだろ? 弱いやつに少しサービスしてくれたって良いじゃねぇか。 それに俺がゴブリンとお前らのことを報告したおかげでギルドから助けが来たんだぜ。言わば俺は恩人だ。恩人にそんな態度とっていいのか?」

「はぁ……」


 確かにあの時は助かったが、それとこれとは話が別だ。

 一方的にこちらに迷惑をかける行動は看過出来ない。

 そして反省する気も全くないようだ。

 だったら容赦はしない。


「アルテナ、この迷惑な冒険者をギルドに突き出しましょう。捕まえて。」

「ふ、もちろん良いわよ、あたしも腹が立ってきたし!」


 私たちの会話を聞き冒険者が慌て始める。


「ま、待て! 恩人にそんな事をしていいと思っているのか!? 第一お前達ギルドの英雄だろ!? 弱いものいじめして良いと思っているのか!?」

「英雄だなんて私は思ってないわ。というか自分で自分を弱いとか言って恥ずかしくないわけ?それに、今回見逃したら味を占めてまたやりそうじゃないの。そんな危険なやつ放っておくわけにはいかないわね」

「ほら、観念しなさい!」

「うわーー!?」


 アルテナはロープを取り出し冒険者に襲いかかる。本当に弱かったようで、碌な抵抗もできずあっさり縛り上げられた。


「く、くそ……!」

「よし、アサルトボアと一緒にこいつも運んじゃいましょう。ゴーレムと荷車を作るからちょっと待ってて」


 アルテナに見張りを任せ、私はさっさとゴーレムを作り出して行く。


「お前ら! こんな事をしてタダで済むと思うなよ! 絶対復讐してやるからな!」

「……へぇ?」


 この期に及んでまだそんな事を言うのか。

 私はその言葉を聞いて、ギルドに突き出すだけではダメだと思った。

 こう言う輩にはもっときついお仕置きが必要だ。


『ブ、ブモォ……』


 さっきの魔法で、まだ辛うじて死んでないアサルトボアがいる。私はアルテナにそいつを持って来させると、別のロープで冒険者とアサルトボアを結んだ。


「お、おい……何をする気だ!?」

「こうするのよ、『ヒール』」


 私はアサルトボアに回復魔法をかける。

 怪我が治ったアサルトボアは、勢いよく走り出した。


『ブモォォォォ!!』

「う、うわー!? 助けてくれー!?」


 ロープで繋がれた冒険者は、アサルトボアに引っ張られ消えていった。


「これで流石に懲りるでしょう」

「エレン、あんた本当に容赦ないわね」

「復讐するなんて言ってきた相手を放っておくわけないでしょう? ほら、アサルトボアを運んでとっとと帰りましょう」


 私はゴーレムを使ってアサルトボアを荷車に積んでいく。


「でも満足したわ! まさにクズを返り討ちにする主人公って感じね!」

「……アルテナ? もしかして楽しんでた?」

「ええ、もの凄く楽しかったわ! あっはっはっはっは!」

「……へぇ?『氷の鎖(アイスバインド)』」


 頭に来た私は高笑いしているアルテナを氷の鎖で縛り上げる。


「え?」

「『創造(クリエイト)』アサルトボア」


 さらにアサルトボアの形を模したゴーレムを作り、ゴーレムの足とアルテナを繋ぐ。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! あんた、何する気!?」

「どうせだから悪人側の気分も味わって貰おうと思って」

「味わう必要ないから!? そんなの意味ないから!?」

「大丈夫よ、鎖は氷で作ったからそのうち溶けるわ」

「そこはどうでも……よくは無いけど別に良いから!」

「じゃあ、行ってらっしゃい」

「ギャァァァ!!」


 ゴーレムに引っ張られ、アルテナは消えていった。私はそれを見届けると、アサルトボアをギルドに運び、無事初依頼を達成した。

 

 ……因みにアルテナは、ボロボロになりながらも深夜に無事帰ってきた。相変わらず丈夫なものである。

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