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29 マテツ、再びの登場

 いつもの朝、私とアルテナが朝食を摂っている最中に誰かが尋ねてくる。


 ドンドンドン!


「え?」「何!?」


 ドアをノック……いや、乱暴に叩く音が響き渡る。まるで借金取りでも来たかのようだ。


「一体誰? こんな朝から……」

「ふ、あたしの優雅な朝食を邪魔するとは良い度胸じゃない! ちょっと痛い目見せてくるわ」


 アルテナが玄関に向かう。普通なら止める所だが、相手が何者かわからない。私は万が一の為、魔導銃を手に取り警戒した。


「ふ、こんな朝っぱらから喧嘩を売ってくるなんて、一体どこのだ……」


 ドォン!!


「ギャァァ!?」


 アルテナがドアと一緒に吹き飛んでくる。

 私はすぐに魔道銃を玄関に向かって構えた。


「しまった、つい力入れすぎちまった」

「この声は……?」


 聞き覚えのある声が耳に入る。

 その直後、その人物が姿を現した。


「あなたは……マテツさん?」

「よう、エレン。久しぶりだな」


 彼はドワーフの魔道具職人マテツ。

 私に魔導銃を譲ってくれた恩人だった。


「久しぶりです。どうしてここが?」

「なぁに、ここ最近オメェらの噂をよく聞くからな。すぐに場所はわかったぜ」

「噂ってなんですか?」

「そりゃあゴブリンキングをたった二人で倒して街を、そしてギルドを救ったってぇ噂だ」

「やっぱりそれですか……」


 話が大きくなっている気がしたが、やったことは事実なので特に何も言えない。


「ところで魔導銃は役に立ったか?」

「はい、とても役に立ちました」

「そうかそうか! ガッハッハッハ!」


 マテツさんが嬉しさのあまり高笑いする。

 自分の作った武器が役に立ってとても嬉しいのだろう。

 まあそれはさておき……。


「ところでマテツさん、なんで玄関を吹き飛ばしたのですか?」

「ああ悪りぃな。早くお前さんに会いたくて気が急いちまってな、つい力入れちまった」

「だからと言って、知り合いの家を壊さないで下さい」

「す、すまん……」


 マテツさんが項垂れる。

 まあ反省しているようだし、これくらいでいいだろう。


「それで、今日は何の用事で来たんですか?」

「ああ、是非とも頼みたいことがあってな、それは……」

「ってあんたらぁ! 私の存在忘れてるでしょ!?」


 どうやらアルテナが復活したようだ。完全に忘れていた。


「なんだ、オメェもいたのか」

「いるに決まってるでしょう!? 頭まで変になったの!? この欠陥親父!」

「誰が欠陥親父だ! ていうかもう職人ですら無くなってるじゃねぇか!」

「あんたなんてそれで十分よ!」

「なんだと!? この口だけのじゃじゃ馬娘が!」

「何ですって!?」

「何だと!?」


 朝からうるさい喧嘩が始まった。

 町外れだったから良かったものの、街中だったら絶対苦情が来てただろう。

とりあえず壊れた玄関を魔法で直す。

今度はもっと頑丈なイメージで作っておこう。


……少し後、叫んで疲れた二人に紅茶を出して落ち着いてもらう。


「うめぇ! オレはあまり紅茶を飲まねぇが、それでも一級品だってわかるぜ!」

「そうでしょう? エレンの淹れる紅茶は最高なんだから」

「いや、オメェが威張ることじゃねぇだろう」

「それよりも……今日は何の用事で来たのマテツさん?」

「おおそうだった! エレン、オメェに頼みてぇ事があるんだちょいと外に来てくれ」


 マテツさんと一緒に外に出ると、大きな荷車が目に入る。

 載せているものは一つ一つが丁寧に袋詰めされてて、何かはわからない。


「これは何ですか、マテツさん?」

「俺が過去に作った魔道具だ。今日はオメェにこれらを扱えるか試して欲しいんだ。庭に持っていくが問題ねぇな?」


「え、ええ……」


 家の入り口に置かれたままでも困るので、つい許可を出してしまった。

 マテツさんは意気揚々と荷車を庭に持って行く。


「はぁ……」


 正直嫌な予感がするものの、私達三人は庭に集まった。


「まずはコイツだな」


 マテツさんは袋の紐を解き、一つ目の魔道具を見せる。

 紫色で竜が彫られた美しい剣。

 こういうものが好きなアルテナは、早速目を輝かせていた。

 

「何このカッコいい剣!?」

「へ、そうだろう、コイツは魔剣カラドボルグ! 雷を纏い敵を討つ自慢の逸品だ!」


 ネーミングセンスは悪くない。

 見た目も完璧だ。

 ただ問題はここからなのだが……。


「アルテナ、使えるか試してみたら?」

「ええ、早速!」


 私に勧められたアルテナは意気揚々と魔剣を手に取る。


「あ、おい! そいつは扱えねぇと雷が逆流……」


 ビリビリビリ!!


「あばばばばばばばば!?」


 全身に雷が走ったアルテナは黒焦げになって倒れた。


「やっぱこうなるわよね」

「おい……コイツ大丈夫なのか?」

「丈夫だから大丈夫よ」

「大丈夫じゃないわよ!」


 アルテナが普通に起き上がる。

 うん、何も問題はない。


「マテツさん、次は?」

「あ、ああ。次はコイツだ」


 マテツさんは二つ目の魔道具を取り出す。

 身の丈はある巨大な斧。血のように赤く勇猛な虎が彫られている。


「コイツは炎斧えんぶクリムゾン! コイツの炎と破壊力に耐えられるやつはいねぇ!」

「アルテナ、炎なら扱えるんじゃない?」

「確かに! 今度こそ扱ってみせるわ!」

「おい、そいつは扱えねぇと全身が燃え……」


 ボオォォォォォ!!


「ギャァァァ!?」


 アルテナが再び黒焦げになる。


「マテツさん、次」

「あ、ああ……コイツは氷槍フェンリル!」

「はい、アルテナ」


 コチン


 アルテナは氷漬けになった。


「マテツさん、次」

「コイツは土槌どついミョルニル!」

「ギャァァァ!?」


「次」

「風弓シルフィード!」

「ギャァァァ!?」


……その後


「結局どれも無理だったわね」

「あ、ああ……おい、生きてるか?」


 マテツさんがただの屍状態になったアルテナを心配する。


「ほら、『ヒール』」


 しょうがないのでアルテナに回復魔法をかける。するとアルテナが動き出した。


「立てる、アルテナ?」

「え、ええ……大丈……ていうかなんで全部あたしで試すわけ!? 本来あんたが試す方だったでしょ!?」

「アルテナにも扱えるものがあったかもしれないじゃない。……別に怖かったわけじゃないわ」

「絶対それでしょ!?」

「でも一つわかった事があるわよ。重いから私に扱えないって事が」

「試さなくてもわかったじゃないのそれ!」

「そういうわけだからマテツさん、残念だけど私じゃ無理だわ」

「おい待て! 重いってぇだけなら何とかなるぞ」

「ごめんなさい、そもそも私近接武器は扱えないの。弓だって力が必要だから無理よ」


 重さがどうにかなれば扱えるかもしれない。だが、自力が上がらないという縛りがある以上、実戦で使えるとは思えなかった。


「そ、そうか……ならしょうがねぇな……。“身体能力”を上げる魔道具もあったんだが……」

「それについて詳しく!!!!」


 マテツさんが聞き捨てならない事を言った。

 身体能力が上がる?

 私に絶対必要なアイテムだ。


「あ、ああわかった。ほれ、コイツだな。」


 マテツさんは四つの腕輪を袋から取り出した。


「それぞれ筋力、体力、防御力、瞬発力を上げる腕輪だな」

「ちょっと欠陥親父、何でこれ最初に出さなかったのよ?」

「その呼び方止めやがれ! 俺としては武器の方を試して欲しくてな、コイツはついでだったんだよ」

「マテツさん、因みにこれは扱えないとどうなるんですか?」

「体がぶっ壊れてしばらく寝たきり生活だな」

「「……」」


 思わず後ずさってしまう私とアルテナ。

 というか危険なものを作りすぎである。


「マテツさん、今更だけど魔道具の効果はどうやって試してるんですか?」

「自分で試したに決まってるだろう」

「そうですか……」


 ある意味尊敬に値するレベルだ。

 同時にとても心配になったが。


「エレン、これは行けそうか?」

「……」


 私は筋力が上がる腕輪を手に取ってみる。

 暴れる魔力が感じられるが、魔導銃で既に慣れている。

 私は魔力を安定させると、腕輪を身につけた。


「ど、どうだ……?」

「……大丈夫みたい」

「おお!!」


 マテツさんが両手をあげて喜ぶ。

 よっぽど嬉しかったらしい。

 私は適当な物で試す事にした。


「アルテナ、ちょっと持ち上げてみても良い?」

「え、良いけど……何かする気じゃないでしょうね?」

「安心しなさい、ちょっと持ち上げるだけだから」


 これがギャグ漫画だったら完全なフリだが、私は真剣だ。

 アルテナの脇を掴み、少しずつ力を入れて持ち上げる。


「ふんっ……! んんんん!!」


 いつの間にか私は全力を出していた。

 そして持ち上げられているアルテナは……。


「……ねぇ、エレン? 今力入れてる?」

「……え?」


 結果で言うと、アルテナは少ししか持ち上がっていなかった。

 おかしい、腕輪はしっかり身につけている。


「これはどういう事?」

「欠陥親父、これ本当に欠陥品じゃないの?」

「おかしいな、そんなこたぁねぇはずなんだが……」


 その後、他の腕輪も試したみたものの、どれも結果は同じだった。


「どういう事だ? 何も変わらねぇなんてありえねぇぞ?」

「魔力は確かに宿っているのに……」


 意味がわからない結果に困惑する私とマテツさん。


「……ねぇエレン、もしかしてあんたのスキルのせいなんじゃない?」

「何言ってるの、アルテナ? 私のスキルと何の関係が……あ」


 私のスキル効果は技術を極められる事。

 デメリットは自力が上がらない。

 そのデメリットが魔道具を無効化しているとしたら……。


「……」


 私は無言で崩れ落ちた。


 その後、マテツさんは芳しくない結果に少し落ち込みながら帰った。

 そして私は……。


「はぁ……」

「エレン、そんな落ち込まなくても良いじゃない」

「ほっといて……」


 淡い希望を打ち砕かれ、しばらくベットから起き上がれなかった。

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