25 私は早く帰りたい!
冒険者登録から数日後、私は街の外れに存在するとある家の前にいた。
「まさか本当にもらえるなんてね……」
ここはギルドが管理していた元空き家である。
一階建てで四人は住める大きさを持ち、おまけに庭までついてる。
唯一の欠点は街外れなので交通の便が悪い事だが、それでも十分すぎる。
本当にもらって良いのかと思ったが、元々ギルドが管理に困っていたらしく、快く譲ってくれた。
因みにアルテナが欲しいと言っていたアイテム袋の方が高価だったらしい。
「家があるっていうのは本当安心できるわね」
私が家を欲しかった理由、それはこの世界で安住の地が欲しかったからである。
冒険者として、常に各地を放浪しながら過ごすというのは私にとって絶対避けたかった。
だが家があればアルテナもこの街を中心に活動しようとするだろう。
もちろん遠出することはあるだろうが、それでも帰れる場所があるというのは安心できる。
「さて、そろそろ出掛けなきゃね」
今日は冒険者ギルドに用がある。と言っても別に依頼を受けるわけではない。
そのためアルテナは留守番だ。本人もこの家を気に入ったらしく、今日はゆっくりするらしい。
普通に歩くとそこそこ時間がかかるため、私は魔法であるゴーレムを作り出す。
「よし、完成ね」
私が作った物、それは“自転車”である。
ペダルもついてるが、実際は魔法で動く電動自転車ならぬ魔動自転車だ。
私の場合、自分の魔力を使わないのでコスパ最強である。
異世界らしくない? そんなのは知らない、実用性重視。
そのまま私は自転車に乗り、冒険者ギルドへ向かった。
「こんにちは」
「あ、エレンさん。お待ちしておりました」
十数分後、冒険者ギルドについた私は受付嬢に声をかけた。
ここに来た理由、それはあるものを受け取りに来たのだ。
「ではこちら、南の森の調査による依頼料と、ゴブリンキング討伐の賞金となります」
そう、依頼料の受け取りだ。本来、冒険者ではなかったため貰えないはずだったが、ギルド側の不始末ということで、特別に貰えることになったのである。
ついでにゴブリンキングにもかなりの賞金がかかっていて、結果かなりの大金がもらえることになった。
「ありがとう。ギルド銀行に預けられる?」
「わかりました。ではギルドにてお預かりしますね」
私は大部分をそのままギルドに預けた。
ギルドで稼いだお金は、ギルド銀行というシステムで預けることができる。
ギルドカードを提示することで、各支部で好きに引き出せるそうだ。
便利なものである。
そのままギルドを出た私は、途中食料品の買い出しを行った後帰路に着く。
その途中、私は心境の変化が起きていることに気づく。
(どうしてかしら……あんなに早く帰りたいと思っていたのに……今はこの生活も良いって思えて来てる……)
この世界で生きる力を手に入れ、そして住む場所も手に入れた。お金にも困っていない。
そのおかげか心に余裕が出来ていた。
だからかもしれない、そう思うようになったのは。
(まぁ……どうせしばらく帰れないんだし……もっと気楽に、この世界を楽しむつもりで過ごすのも良いかもしれないわね……)
そう考えながら私は家に向かう、私をこの世界に連れて来た、むかつく相棒の元へ。
「アルテナ、戻った……わ……よ……」
私は一瞬頭が真っ白になった。
苦労の末手に入れた安住の地。そこが今瓦礫の山と化していた。
これは夢だろうか? 自問自答しながら私はその場に崩れ落ちた。
「ああ、もう! どうなってんのよこれ!?」
瓦礫の中から声が聞こえる。
その場所からアルテナが姿を現した。
「ねぇアルテナ……何があったのこれ?」
「ああエレン、おかえり。さっきうるさいハエがいたんだけど……鬱陶しいからデスサイズで斬ろうとしたらこうなっちゃったのよね」
「……」
「ていうか邪眼で動きを封じた方が良かったわね、あたしとした事がうっかりしちゃったわ」
「そう、言いたい事はそれで終わり?」
私は魔道銃をアルテナに突きつけた。
「ご、ごめん。謝るから、その銃下ろしなさいよ」
「それは無理ね」
「ほ、本当に悪かったから!? ていうかあんた、目がヤバいことになってるんだけど!?」
「とりあえず眉間に十発から始めましょうか」
「それもう死んでるから!? 最初からもう死んでるから!?」
「大丈夫よ、これくらいじゃあなたは死なないって信じてるから」
「信じる方向性がおかしいから!? ほら、あたしさっきのでちょっと怪我してるから、怪我人に暴力はいけないってあたしはおも……」
「『ヒール』」
「え?」
アルテナの負った傷が全て消える。
「これで何の問題もないわね」
「あ……あははは……ギャァァァ!!!」
アルテナの悲鳴が町外れに響き渡った。
前言撤回。
やっぱり私は早く帰りたい!!




