24 今度こそ冒険者登録
スキル鑑定により私とアルテナの潔白は証明された。
一方、ライラはガルシアさんが呼んだ人たちに拘置所に連れて行かれる事になった。
後日ギルドの本部に連れて行かれ、そこで裁きを受けるらしい。
その時の彼女は、この世の終わりみたいな顔をしていた。
「ライラはこれからどうなるんですか?」
「ギルド本部の判断次第だが……最悪死刑だろうな」
「そこまでの罪なんですか?」
「当たり前だ、一般人を死地に追いやったんだぞ。ギルド内でも色々悪どい事をやってたしな。お前達が無事じゃなかったら俺だってヤバかった。まあ監督不行届で今後、何かしら責任は取らなきゃならないがな」
確かに、地球でも普通に重罪だろう。
そういう事をされた実感が湧かないのは、自分が無事だったからかもしれない。
「ところでアルテナ、あなたはこれで満足?」
「満足というか……あいつが悔しがる姿を見たかったのにもっとヤバいことになっちゃったから……なんか複雑な気分ね」
「そうね、私もよ」
「まあそれはさておきだ、冒険者登録について話をしよう。」
「冒険者登録!!」
待ってましたと言わんばかりにアルテナが食いつく。
湿っぽい空気を感じてガルシアさんが明るい話題を振ってくれたみたいだ。
「実はすでに登録の用意はしてある。だがその前に二つほど確認させて欲しい」
「確認ですか?」
「ああ、一つ目はコレについてだ、お前達を探し出さなきゃならなかった理由の一つでもあるんだが……」
ガルシアさんが一枚の紙を私たちの前に出す。
そこには私たちの似顔絵が書かれていた。
「何よこれ? まさか手配書!?」
「アルテナ? 今度は何をやらかしたの?」
「何もやってないわよ!」
「いや、そういうものじゃ無い。これはこの街の領主クリス家からの依頼書でな、娘の恩人を探してくれとの事だ。これはお前達で間違いないか?」
間違いなくマリンの事だろう。そういえば領主の娘だった。
「ああ、あの時のハゲおじょ……モガモガ!?」
アルテナが言ってはいけない事を言おうとしたので、素早く私は口を押さえた。
「何だ?ハゲ……?」
「気にしないで下さい。確かにそれは私達です」
私はマリンと会った時のことを説明する。
「なるほど……恐らく馬車を襲ったゴブリンも群れの一部だったんだろう。つくづくお前達には世話になりっぱなしだな」
「探していると聞きましたが、何か用があるんですか?」
「いや、単純にマリン様が会いたがっているらしい。それで所在を知りたかったそうだ」
「そういう事ですか」
近いうちに会いに行こうと思った。
……正直頭が元に戻っているかも気になる。
「二つ目は……お前達、ギルドを訴えるつもりはないのか?」
「「訴える?」」
予想外の質問に、思わずハモってしまう私とアルテナ。
でも冷静に考えたら、私たちにはその権利がある。
「訴えればかなりの慰謝料を請求できるだろうな。それこそ危険な冒険者業なんてしなくていいほどだ」
「ふざけんじゃ無いわよ! ここまで来てまだ登録出来ないとか言うんじゃ無いでしょうね!?」
「アルテナ、落ち着きなさい。そういう意味じゃ無いから」
「すまん、俺の言い方が悪かった。とにかく何か詫びをさせてくれ。そうしないとギルドの面子が立たん」
「それはお金じゃなくてもいいんですか?」
「ああ、なんでもとは行かんが大抵のものなら用意しよう」
「……」
実を言うと、私にはどうしても欲しいものがあった。
この街に……いや、この世界に来てから欲しいと思っていたものが。
「エレン、あたしこのギルドにあるっていうアイテム袋が欲しいわ!」
「確かにあれば役に立つけど……もっと必要な物があるわよアルテナ」
「必要な物?」
「ええ、それは……」
コン、コン、コン、
私の言葉を遮るようにドアがノックされる。
ドアが開くと、ギルドの職員がトレーを手に入ってくる。
「失礼します。ギルドマスター、頼まれていた物が出来ました。」
「そうか、話の途中だがすまん。お前達のギルドカードが完成した」
「ギルドカードですって!?」
ギルド職員が私たちの前にカードを置き、退出する。
見た限り何も書かれてはいない。
「このカードにはお前達の情報と活動の記録が記載されている。所有者の魔力に反応して文字が浮かび上がる仕組みだ。後はカードに魔力を流してくれ、それで登録が完了する」
私とアルテナは置かれたカードを手に取る。
「クックック、遂にこの時が来たわ! あたし達の冒険者生活の幕開けが!」
「もう私は十分冒険したと思うけど?」
「何言ってるのよ! これからよこれから! あたしの従者としてしっかりついて来なさいよ!」
「はいはい、じゃあさっさと登録しちゃいましょう」
私とアルテナはカードに魔力を流す。
だがその時、私にある疑問が浮かぶ。
(何か忘れている気が……)
パリィン!!
「「「え?」」」
突如アルテナのギルドカードがバラバラに砕け散る。
その割れ方はまるで中から割られたかのようだった。
「え!?何で!?」
「いや、わからん!? カードが砕け散るなんて俺も見た事がないぞ!?」
「アルテナ、もしかして魔力を流しすぎたんじゃないの?」
「げ!?」
そう言えばアルテナの魔力は異常な程高かったんだった。
つまり、アルテナの魔力に耐えきれずカードは砕け散ったらしい。
「はぁ、全く締まらない……わ……ね……」
バタッ
「「え!?」」
私は急に頭痛と吐き気がしたと思ったら、そのまま倒れた。
この症状は……間違いない……。
「エレン、もしかしてあんた……」
「ごめん……魔力が……切れた……わ……」
しまった……今まで魔法を使っていたから忘れていたいたが……
私自身の魔力は非常に貧弱だった。
「おい、カードに流す魔力だけで枯渇するなんてあり得ないぞ!? というかお前たち一体何なんだ!?」
あまりの状況にガルシアさんも混乱してしまったらしい。
私は気絶する前に最後の力を振り絞って口を開く。
「ガルシアさん……さっきの……慰謝料……の事……だけど……」
「おい、しっかりしろ!?」
「私は……“家”が……欲しい……わ……」
その言葉を最後に私は気を失った。
その後、結局登録は次の日までかかった。




