22 合流、そして帰還
ゴブリンの掃討と女性達の救出を終えた私とアルテナは、洞窟の外へ出るべく歩いていた。
「……なんか嫌なんだけど」
「何が嫌なの?」
「あれに決まってるでしょう」
アルテナが後ろを見る。
私達の後ろは一列になり女性達を乗せる荷車と、 それを引っ張るアルテナゴーレムが数台ついて来ていた。
「良いじゃない、役に立ってるんだから」
「今度は馬とかにしなさいよ」
「気が向いたらね……アルテナ、止まって」
私は探知魔法で、出口の周りに何かがいる事に気付く。
私はすぐにゴーレム達を停止させた。
「何かいるわね。しかも十数人」
「もしかしてゴブリンの残党?」
「いえ、ゴブリンって感じじゃないわ。どっちかというと人ね。
「人? まさかあたし達の手柄を奪いに来たやつじゃないでしょうね?」
「何でそうなるのよ。まあ警戒するに越したことはないけど」
念の為武器を構えながら外へ向かうと、何やら騒いでいるような声が聞こえてくる。
「おい、大量のゴブリンの死体があるぞ!」
「ご、ゴブリンキングが真っ二つになってるぞ!? 一体何にやられたんだ!?」
「ギルドマスター! こ、ここにいたらオレ達もヤバいんじゃ!?」
「落ち着けお前達!」
「気を付けろ! 洞窟から何か出てくるぞ!」
どうやら洞窟前の惨状に驚いていたようだ。まあ百匹を超えるゴブリンと、ゴブリンキングの死体があるのだからそうもなるだろう。
私とアルテナは混乱している人たちの前に姿を現す。
「あなた達は? もしかして、私達と同じで調査に来た人?」
「ああ、俺は冒険者ギルドのマスターガルシアだ。ここへはゴブリンキングの討伐と攫われた者の救出へ来たんだが……お前たち、もしかしてライラが送り出した二人の少女か?」
「ええ、まあそうだけど」
「「「「「ウオォォォォォ!!」」」」」
「え? 一体何?」
急に歓声が響き渡る。
正直状況がよく分からない。
「良かった! 無事だったぞ!」
「これでギルドが潰れずに済むぜ!」
「これからも家族を食わせてやれるぞ!」
「俺も街を出なくて済むぜ!」
どういう事だろう? ゴブリンが倒されたのとは違う理由で喜んでいるようだ。
ギルドが潰れるって一体?
「あの、ガルシアさん? 一体どういう事ですか?」
「ああ、それなんだが……」
「ちょっと待ちなさいあんた達!」
急にアルテナが大声を上げ前に出る。
「よく聞きなさい! このゴブリン達を倒し女性達を救出したのはあたしとエレンよ!あんた達に手柄を横取りなんてさせるもんですか! もしそうなったらライラのやつに一泡吹かせられないし冒険者登録もできないじゃないの!」
うん、どうやらさっきの誤解が解けてないようだ。
「アルテナ、この人たちはそういうつもりで来てないと思うわよ」
「え?そうなの?」
「おい、本当にゴブリンを倒したのはお前達なのか?」
ガルシアさんが信じられないような目でこっちを見ている。
その気持ちは分からないでもない。
「まあ一応……あと攫われた人達はここにいるわ」
私は念の為洞窟内で止めておいたアルテナゴーレムを再び動かし、皆の前まで動かした。
ガルシアさん達は女性達とゴーレムを見てさらに驚いている。
ひとまず互いに情報確認する必要があると思い私とガルシアさんはこれまでの事を話し始めた。
……数分後
「なるほど、そんな騒ぎになってたのね」
「ああ、ギルド側の不手際だ。本当に申し訳なかった」
ライラが未登録である私とアルテナを南の森に送り出した件でギルドは危機に陥っていたようだ。
確かに警察に近い組織が一般人を悪人の巣に送り込んだら不味いだろう。
おまけにスキルを鑑定する方法があったなら尚更だ。
どうやら私は運に恵まれなかったようである。
「私とアルテナがゴブリンを倒したことは信じてくれるの?」
「ああ、状況からして信じざるを得ないだろう。それに……」
「はーはっはっはっは! あんた達その程度なわけ?」
「こ、攻撃が全然当たんねぇ……」
実はゴブリンを私達が倒した事を信じない冒険者を、アルテナが模擬戦で圧倒していた。
ただしアルテナは武器と魔法を使わず素手で戦うよう言ってある。
おかげで今回は頭に被害が出る事はなかった。
「おい、嬢ちゃんの強さは分かっただろう。女性達も早く街に連れ戻さなきゃならん。早く帰るぞ」
ガルシアさんが冒険者の人たちに号令をかける。
ちなみに倒したゴブリンは燃やして処分する事になった。
死体を残しておくと後々アンデット化したり、魔物を引き寄せる原因になるらしい。
私もラノベでそういう知識はあったがすっかり忘れていた。
洞窟のゴブリンも冒険者が数人残って処理してくれるそうだ。
「出来ればこいつだけは持って帰りたいんだがな」
ガルシアさんがゴブリンキングの死体を見て呟く。
「それは何故ですか?」
「倒したという証明は必要だろう。本来ならギルドにある高級なアイテム袋を持ってくるんだが……なにぶん急いでたもんで忘れちまった」
「アイテム袋ですか……」
異世界定番アイテムだ。名前はラノベによって違うが魔法の力で多くのものを入れられる便利な道具。
どうやらこの世界にもあるらしい。
「持って帰るだけなら何とかなります」
「なに?」
私は手をかざし魔法を使う。
ゴブリンキングの下から地面を隆起させ、荷車を作っていく。
最後にそれを引く複数のアルテナゴーレムを作り完成だ。
「どうですか?」
「いや、どうですかと言われてもな……。エレンと言ったな。お前何者だ?」
「そこは詮索しないで頂けると助かります」
「……ああ、分かった」
こうして私とアルテナは、ガルシアさん達と共に街への帰路についた。
街へ着く頃にはすっかり日が暮れてしまっていて、私は疲れてすぐ宿に帰り寝てしまった。
因みにアルテナは、しばらく上機嫌で冒険者達と一緒に騒いでいたらしい。
元気なものだ。




