21 エレン、回復魔法を使う
ゴブリンキングを倒した私とアルテナは、ゴブリンの巣を探索し始めた。
目的は二つ、ゴーレムによって気絶したゴブリンを片付ける事と、攫われた人たちの救出だ。
無抵抗な相手を私とアルテナは一匹一匹仕留めていく。
「いくら魔物とは言え、流石に気が引けるわね」
「え? あんたがそれを言う?」
「どういう意味よ?」
「いや別に」
巣の中を進んでいくと、攫われた女性達が見つかった。
ゴブリンにやられたのだろうか、服が引き裂かれ傷を負った者が多くいた。
あと全員恐怖を浮かべながら気絶していた。
「漫画やアニメでこういう描写は見たことあるけど、実際酷いわね……」
「これ、半分はあんたが原因だと思うけど」
「仕方ないでしょう? これしか思いつかなかったんだから」
うん、でも目を覚ましたら全力で謝ろう。
そうしよう。
「アルテナ? 一つ試してみてもいい?」
「今度は変なの出さないでしょうね……?」
さっきの興味津々な反応はどこへ行ったのか、完全に警戒されてしまった。
「大丈夫よ。ただ“回復魔法”に挑戦するだけだから」
「回復魔法ですって!?」
今度は目を輝かせ始める。
手のひら返しが早い。
「ちょっと辛い思いをさせちゃったから、せめて体の傷だけでもと思ってね」
「はぁ? ちょっと?」
「悪かったから、いい加減引き摺るのやめてくれない?」
「はいはい、それよりも早く見せなさいよ」
アルテナに急かされ、私は傷を負った女性の前に立つ。
私は傷が治るイメージで魔法を発動した。
「治って」
「いや、そこはヒールでしょ?」
「……わかったわ、『ヒール』」
私の手から白い光が現れる。
その光は女性を包むと体に負った傷が治っていき、遂に全快した。
「ふう、今回はちょっと緊張したわね」
「本当になんでもできんのねあんた」
「自分でも驚いてるわ、この調子で全員治しましょう。アルテナは羽織る者持ってきてくれない?」
「ええ、わかったわ」
アルテナはそこらから使えそうなものを探し始める。
私は次の女性に向かおうとするが、一人一人やってたら時間がかかると気付いた。
私は先程とは違う魔法を準備する。
今度は自分を中心に範囲内の全員を回復するイメージだ。
流石に必要な魔力が多いようで、マナを集めるのに時間がかかるが無事発動する。
『エリアヒール』
自分を中心に足元が光り輝く。
光が収まる頃には全員の回復が完了していた。
「よし、成功ね。それにしても……」
私のスキル『器用貧乏・改」は一体どこまで出来るのだろうか? あらゆる技術を極められると言っても、初めての魔法でここまで出来るのは正直異常だ。
だからこそデメリットがあるのかもしれないが……。
「ちょっと怖くなってきたわね。まあ今更かもしれないけど」
「エレン、今のって範囲回復!? 凄いじゃない! さすが私の従者!」
そう言ってアルテナが抱きついてくる。鬱陶しいからやめて欲しい。
というか……。
「アルテナ! 痛い痛い! 骨が折れるわ!」
「え〜、何よこれくらいで?やっぱ体は貧弱ねあんた」
「こればっかはどうにもならないのよ。とにかく作業を続けて」
「はいはい……ていうかこの人達どうやって連れ出すのよ?全員起きるまで待つわけ?」
「アルテナが背負っていけばいいと思うわ」
「無理に決まってるでしょう!」
「冗談よ、ちょっと待ってて」
私はまた魔法を使う。スキルについて疑問は残るがそれはもういい、使えるものは使ってやろう。
私は開き直ると、土で出来た荷車と、それを引く等身大アルテナゴーレムを作り出す。
「これに女性達を乗せましょう」
「それはいいんだけど……なんで私がモチーフなわけ?」
「……似合ってるから?」
「どういう意味よ!?」
「いいから女性達を運ぶわよ」
気を失った女性達を乗せた後、ゴブリンがもういないことを確認した私とアルテナは、洞窟の外へと歩き始めた。
因みに、女性達はショックで黒い悪魔のことは誰も覚えてなかったと後で判明した。
うん、よかった。




