19 黒い悪魔作戦
ルベライト南の森、ゴブリンを倒しながら進んでいたエレンとアルテナは、遂にゴブリンの巣と思われる洞窟を発見していた。
見張りが五匹ほどいるため、二人は茂みに隠れ話し合う。
「アルテナ、あの中に大量の反応があるわ。少なくとも百匹以上はいる。恐らくあそこが巣ね。」
「ふ、ようやくね。どうするの?」
「まずは見張りを迅速に倒しましょう。中のゴブリンに知られたら面倒だわ。」
私とアルテナは二手に分かれ、ゴブリン達を挟む様に位置どりをする。
その後アルテナがゴブリンに襲い掛かり、気を取られたゴブリンを背後から撃ち抜く。
数秒で戦いは終わった。
「さて、ここからが問題よね……どうやって中のゴブリンを倒そうかしら?」
「任せなさい、あたしに掛かればどれだけいようと関係ないわ。このまま突撃するのよ」
「いや、無策で突貫しようとするんじゃないわよ。数もだけど洞窟は奴らの縄張りよ? 何があるかもわからないのに行くのは無謀だわ」
「じゃあどうすんのよ?」
「何か作戦を考えましょう。一番良いのは中に入らずゴブリンを倒すか無力化する。もしくは、中のゴブリンを炙り出せれば良いのだけれど……」
自分ではそう言ったものの、そんな上手い方法があるのかよく分からない。
おまけにもう一つ問題があった。
「我ながら良い案を思いついたわ」
「期待はしないけど一応聞かせて」
「ふ、そう言っていられるのも今のうちよ。あたしの作戦はこう、洞窟の中に炎魔法を撃ちまくるのよ」
「却下」
「何でよ!? 洞窟みたいな閉じられた空間で火を使えば煙や酸欠で、全員一網打尽にできるじゃないの!?」
「良い作戦だと思うわよ私も。中にいるのがゴブリン“だけ”だったらね」
「あ……」
そう、ゴブリンは繁殖のため人間の女を攫う習性がある。
異世界ものでは定番中の定番。
その上明らかにゴブリンとは違う魔力が見えた為、おそらくこの世界でもそうなのだろう。
攫われた人に危害が及ぶ行動は取れなかった。
「じゃあどうするのよ? 思い切って叫んで呼んじゃう?」
「一気に百匹以上のゴブリンを相手にする気なの? それに攫われた人を人質にでも使われたらどうするのよ? 二人じゃどうにもならないわ」
「まさか一旦引き返すとか言うんじゃないでしょうね? 嫌よ! あのライラってやつに一泡吹かせないと気が済まないわ!」
「分かったわ、もう少し考えさせて」
このままだと百匹以上のゴブリンを相手にしなきゃならなくなる。
それはごめんなので、私は真剣に考えた。
攫われた人に危害を加えず、私とアルテナの存在を知られ無いように、ゴブリン達を倒すか外に出す方法……。
条件が厳しい。
(ゴブリン達が思わず出て来たくなるような方法でもあれば良いんだけれど……或いは出て来ざるを得ない状況にするとか……あ)
思いついた。多少攫われた人達にも害が及ぶかもしれないが、これしか無い。
「一つ思いついたわ。試してみても良い?」
「え、何? 今度は何をするつもりなの?」
アルテナが興味津々な顔でこちらを見ている。
何かまた新しいものを見られると思っているようだ。
まあ今回はその期待に応えてやろう。
「まずは練習ね、いくわよ」
私は魔法を発動する。
すると地面から土が盛り上がり、一つの形となって行く。
それは最終的に、アルテナと瓜二つの姿となった。
「これってもしかして……ゴーレム!?」
「ええ、そうよ。歩かせてみるわね」
私はアルテナゴーレムに動くよう命令する。
ゴーレムは手足のように操ることができ、正座させたり、バク転をさせたりなど、複雑な動きも再現できた。
「やっぱ凄いわねあんた。見た目もそっくりだし、もしかしてこれを巣に突撃させるの?」
「さっきも言ったけどこれは練習よ。次が本番だけど……ちょっと離れたほうがいいと思うわ」
「え?」
私はアルテナゴーレムを消し、次のゴーレムを作る。
形は小さく、色は黒。そして触角がついた物体が出来上がった。
「よし、上手くい……」
「ギャァァァ!?」
「何よアルテナ?」
「あ、あんたなんてもん作ってるのよ!?」
「何って……台所とかに出てくる黒い悪魔だけど?」
「そんなもん作んじゃ無いわよ! て言うか何のために作ったわけ!?」
「これをゴブリンの巣に突撃させようと思って」
「ゴブリンに効く訳ないでしょう!?」
「そうね、これじゃ無理ね。」
「分かったならさっさと消し……」
「数が足りないわ」
「へ?」
私はどんどん同じゴーレムを作っていき、百匹ほど作ったところで止めた。
「これぐらいあれば足りるかしら? どう思うアルテナ……アルテナ?」
いつの間にかアルテナは、茂みの方に隠れていた。
「ちょっと、何茂みの方に隠れてるのよアルテナ?」
「隠れるに決まってるでしょう!」
「情け無いわね、これは土よ? 衛生的に何の問題もないわ」
「そういう問題じゃないでしょう!? 気絶しなかっただけ褒めなさい!」
「とりあえず今からこれを巣に突撃させるから、出てきたやつを各個撃破頼むわよ」
「え?」
「流石にこの数だと細かい操作は難しいけど……反応がある場所に向かわせるだけなら何とかなるわ。行きなさい、ゴーレム(黒い悪魔)達」
ゴーレムの軍勢がゴブリンの巣に突撃して行く。
その少し後、中から声が聞こえた。
『『『『『ギャァァァ!?』』』』』
ゴブリンの悲鳴が聞こえた後、慌てた様子で出てくるゴブリン達が視界に入る。
私が作ったゴーレムに纏わりつかれ恐怖で走ってくる者、途中で気絶する者が見え、私はこの作戦が大成功したことを確認した。
その阿鼻叫喚の地獄絵図を見たアルテナの目には、同情が浮かんでいる。
「ねぇエレン……流石にこれは酷過ぎない?」
「何を言ってるの? 全ては生き残って元の世界に帰る為よ。手段は選んじゃいられないわ」
「この場面で言っても全然カッコよく無いんだけど!?」
「じゃあ私はゴーレムの操作と周囲の警戒で忙しいから、出てくるゴブリンをよろしくね」
「え……でもほら、黒いやつが纏わりついてるんだけど……」
「壊れたら追加分は作るから大丈夫よ、まさか……戦わないつもりじゃ無いでしょうね?」
「……こうなったらもうヤケよーー!!」
アルテナが全てを諦めてゴブリンを倒して行く。
この調子ならそう時間はかからず、全てのゴブリンを倒せそうだ。
「「「イヤァァーーー……」」」
ゴブリン以外の悲鳴が聞こえた気もするけれど……。
うん、助けるためだから我慢してもらおう。




