17 魔力がないならマナを使えばいいじゃない
ゴブリンとの遭遇からしばらくして、私達は、森の中で見つけた川のほとりで休憩をとっていた。
森に入る時獲ったウサギを、アルテナの魔法で焼き、食べてみる。
「いやーまさに冒険者って感じの食事ね!」
「できれば調味料が欲しかったわね。まあ贅沢は言えないけど」
私は不満そうに言うが、実際は満足していた。
森という開放的な場所だからだろう。
何の味付けもしてないウサギが、とても美味しく感じた。
「そう言えばアルテナ? 森の異変だけど、やっぱゴブリンだと思う?」
「そうなんじゃないの? だってここのゴブリン明らかにおかしいじゃないの」
アルテナの言う通り、ここのゴブリンは素人目からしてもおかしかった。
最初の遭遇後も、何回かゴブリンと戦ったのだが、毎回罠が仕掛けてあり、更に仲間に知らせようと逃げるゴブリンが必ずいた。
おまけに進むにつれて、ゴブリンが剣などの武器や、鎧を装備する様になって来たのである。
「これってアレじゃない? ゴブリンソルジャーとか上位種ってやつよきっと」
「強いだけじゃなくて知恵もあるし……もしかして指揮をしているやつでもいるのかもしれないわね。だとすると……このまま進んで大丈夫かしら……」
今までは探知魔法で先手をとれたこともあり、苦戦はしなかった。
そもそも強くなって来ているとは言っても、アルテナの敵ではない。
それでも、私は不安が拭えなかった。
「もっと自衛の手段が必要ね……アルテナ、一つ試してみてもいい?」
「試すって何を?」
「ちょっと魔法を使ってみようと思って」
「いや、あんた昨日ちょっと使っただけで倒れた癖に何言ってるのよ」
「それなんだけど……私の魔力を消費した場合の話でしょう? だったらマナを使えばいいんじゃないかと思って」
「マナを?」
「そう、見てて」
私は昨日と同じく水球を作り出すイメージをする。
ただ、魔力を体内ではなくマナを集め発動するイメージにした。
すると、無事魔法が発動し、水球が作られた。
私の魔力は減っていない。
「上手くいったわね。どうアルテナ?」
アルテナは驚き戸惑っている。
「いや……そんなのありなわけ? 魔法って普通自分の魔力を使うもんでしょ?」
「誰がそんなこと決めたのよ? 魔道具だってマナを使うってマテツさん言ってたじゃない。同じよ、同じ」
「た、確かにそうね……あたし何で気付かなかったの……?」
まあアルテナにはそう言ったが、私自身魔導銃と探知魔法がなければ気付かなかったかもしれない。
思い込みというのは、時に恐ろしい物である。
「よし! あたしもやってみるわ! マナよ、我が呼びかけに応じ、その力を示せ!」
アルテナが私と同じ事をしようとしている。
私ももっと練習しないと。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
数分後、挑戦に失敗し、息絶え絶えになったアルテナがいた。
流石に初めては無理があった様だ。
まあ私が言っても説得力はないのだが。
「アルテナ、あなたは魔力高いんだから、わざわざマナを使う必要ないでしょ?」
「うるさいわね、挑戦してみたいじゃなうわぁ!?」
私の方を見たアルテナが、悲鳴を上げコケる。
人の顔を見て驚くなんて失礼な。
「何をしてるのよあなた?」
「こっちのセリフよ! あんた何やってんの!?」
「別に大したことはしてないわよ」
私はただ7、属性全部の魔法をお手玉風に回していただけである。
「やろうと思えばもっといけそうね」
「ちょっと待ちなさい! 炎と闇は使うんじゃないわよ! あたしの個性がなくなるじゃない!」」
「何を心配してるのあなた?」
この後、一通り練習を終えてから私達は先へと進んだ。
しばらくするとまたゴブリンを発見する。
数は10匹、しかも全員剣や弓、さらには杖を持った魔法を使いそうな奴までいる。
「アルテナ、さっき言った作戦通り行くわよ」
「ふ、任せなさい。さあ行くわよゴブリン共!」
私は茂みに隠れ、アルテナが突撃する。
素早くゴブリン達に接近したアルテナはデスサイズを横に一閃する。
『『ギィ!?』』
防御を無視するデスサイズの一撃で、咄嗟に武器で防ごうとしたゴブリン達は呆気なく両断される。
まずは二匹。
『『『ギィィィ!』』』
怒り狂ったゴブリン達がアルテナに襲いかかる。
私は右手で魔導銃を構えた。ただし狙いは襲いかかるゴブリンではない。
離れた所から攻撃しようとしている弓と魔法のゴブリンだ。
バンッ、バンッ
『『ギィ!?』』
遠距離のゴブリン二匹が銃弾に倒れる。
アルテナの方は心配要らない、すでにゴブリンの攻撃を上に飛んで避けていた。
そこからデスサイズを振り上げ、ゴブリン達に攻撃を仕掛ける。
「漆黒の闇よ、我が武器に宿りて敵を討て!『闇の斬撃!」
デスサイズを闇の魔力が覆い、さらに大きくなる。
そのまま襲ってきたゴブリン三匹を切り裂いた。
『『『ギャァァァ!?』』』
これで七匹、後は三匹だ。
残ったゴブリンは私に気付いた様で、二匹がこっちに、一匹がアルテナに向かう。
どうやら一匹を犠牲にし、二匹で私を仕留めようとしている様だ。
私はまずこちらに来た内、一匹に狙いを定め撃ち抜く。
『ギャァ!?』
一匹は仕留めた。けれどもう一匹がすぐ近くまで迫っている、銃は間に合わない。
私は空いた左手をゴブリンに向け、準備しておいた魔法を発動する。
『魔法の壁!』
ガキィン!
魔法で出来た光の盾が私の前に現れ、ゴブリンの剣を弾く。
これでいい。私が魔法でやりたかったのは、自分の身を守ることだ。
だからアルテナには好きに突撃させ、私はアルテナの邪魔にならないよう、遠くから支援すればいい。
身を守れる様になった今、それが一番有効な私たちの戦い方だった。
「勝負ついたわね」
『ギィ……』
武器を失ったゴブリンは怯えて震えている。アルテナの方もすでに片がついており、どうしようもない事を悟った様だ。
「悪いけど……容赦する気はないの」
バンッ
銃弾が怯えるゴブリンを撃ち抜く。
そこに、一部始終を見ていたアルテナが近づいてくる。
「エレン、あんた結構容赦ないわね」
「何を言ってるの? 全ては生き残って元の世界に帰るためよ。その為なら……」
私はアルテナに言い放った。
「手段は選んじゃいられないわ」




