162話 二人で一緒に
「終わった……。ふう……」
静寂が包む中、ほっと胸をなでおろし、一息つく。
「さすがにきつかったわね……」
勝算があったとはいえ、精神的にかなり消耗させられた。
「負けたとしても、今回はアルテナの助けが期待できなかったし……アルテナ?」
辺りを見回し、仰向けに倒れているアルテナの姿を見つける。
しまった。
すっかり忘れてた。
急いでそばに駆け寄り、『ヒール』を重ねがけする。
「アルテナ、大丈夫?」
「……」
傷は完全に治した。
しかし、声をかけるも、返事がない。
「そんな……嘘でしょう……? 起きなさいアルテナ! せめて火葬か土葬、どっちがいいか教えなさい!」
「葬り方なんてどうでもいいわ!」
アルテナがツッコミを入れながら起き上がる。
「なんだ、元気じゃないの」
「ふん、これくらいで死ぬもんですか!」
「まあ、わかってはいたけどね」
相変わらずしぶとい奴だ。
「ところで、あんたがあのクソ暗殺者を吹っ飛ばした後何があったのよ? クソ暗殺者だけじゃなく、あんたまで消えたからびっくりしたわよ」
「ああ、それは……」
アルテナにユニークスキルを扱えるようになったこと、ダヴィドを影の世界に閉じ込めたことを伝える。
「あんた、えげつない倒し方するわね……。ってそれよりユニークスキルを扱えるってどういう事よ!? あたしを差し置いてそんな主人公みたいな能力を……!」
「私に言われても困るわ」
正直、私も『器用貧乏・改』にこんな力があるとは思わなかった。
いくら器用になれるからって、これじゃあまるでコピー能力だ。
「あ、もしかしてあんたがここまで来れたのって……?」
「ええ、『影の境界』を使ったのよ」
アルテナ達と別れたあと、私は『紅蓮の鉄槌』とダンジョンの出口付近まで行動。
作戦を伝えて先に脱出させた後、『影の境界』で魔物から姿を隠し、『火迅』の魔法で空を飛んで、古城の頂上近くの窓から中へ侵入したってわけだ。
「危険だけど、このスキルは便利ね。おかげで私一人でもここまでこれたわ」
「へぇ……。それであんた、あのクソ暗殺者を相手にしても余裕だったってわけね。納得だわ」
「何言ってるの? ダヴィドだって同じスキルを使えたのよ。余裕なんてあるわけないじゃない」
「え?」
アルテナが首を傾げる。
「でもあんた、クソ暗殺者に対して結構強気だったじゃない」
「虚勢を張っただけよ。ただでさえ弱い私が、暗殺者に対して強気になんてなれるわけないでしょう?」
できるなら、アルテナを見捨ててその場から逃げ出したかったくらいだ。
「でもあんた、クソ暗殺者を結構挑発してなかった?」
「だって……逃げられたら後々暗殺されて終わりじゃない」
何度も言うが、私に暗殺を止める手段なんてない。
もしあの場面でダヴィドに逃げられたりでもしたら、今度こそ寝込みを襲われて終わっていただろう。
だからあの場で戦って倒すしか、私に選択肢はなかったのだ。
一応、ダヴィドが接近してきたときに、私が『影の境界』を使って初見殺しする作戦を立てていたのだけれど……。
「……まさかあなたを人質にするとは思わなかったわね」
「ふ、そういえばあの時のあんた、めっちゃ動揺してたわね。クックック。そんなにあたしが心配……」
「ええ。あんな馬鹿な真似をするなんて……本気でびっくりしたわ」
「え? 馬鹿な真似?」
「だってあなたを人質にするくらいなら、路傍の石ころを人質にとったほうがまだマシじゃない。あの時は思わず素が出ちゃったわ。なんであんな狂った行動したのかしら?」
「そういう意味で動揺してたの!? ていうか路傍の石ころ以下はないでしょう!?」
「だって頑丈だし、ダヴィドと一緒に撃ち抜いても問題なかったでしょう?」
まあ本当に撃ったかどうかはともかくとして、魔導銃をわざと捨てて油断させるという作戦を思いついたから、実行しなかったけど。
「問題ありまくり……よ……」
急にアルテナがふらっと床に倒れる。
「ちょっと、大丈夫?」
「うう……目眩が……」
よく見ると顔色が悪い。
どうやら相当弱っていたようだ。
「……少し言い過ぎたわ。ほら、手を貸すわよ」
「あたしのことはいいわ……それよりも早く……ダンジョンコアを……」
そうだ、魔物の暴走を止めないと。
玉座のほうを振り向くと、大きな多面体クリスタルが淡く光っている。
「あれがダンジョンコアね。わかったわ。でも……」
倒れたアルテナを起き上がらせ、肩を貸す。
「なにしてんのよ……?」
「……おいしいところを私一人に持ってかれてもいいの? ほら、頑張りなさい。あなたが目指してた、ダンジョン制覇は目の前よ」
なんとかアルテナを支えながら二人でコアに向かって歩き出す。
「……ふん、余計なお世話よ」
「あ、そう」
「でも……ありがと」
「ん? なにか言った?」
「……なんでもないわ」
アルテナが顔を背ける。
若干顔が赤くなっている気がするが、気のせいだろうか?
まあそんなことより。
「ほら、着いたわよ」
私とアルテナはとうとう、ダンジョンコアの前に立つ。
「エレン、これどうすればいいの?」
「さあ……? そこまでは知らないわ。とりあえず触れてみる?」
「そうね」
アルテナがダンジョンコアに手を伸ばす。
「……何してんの? あんたも一緒にするのよ」
「え? 私も?」
「そりゃそうよ。あんたも一緒にここまで来たんだから」
「……はいはい。じゃあ二人で一緒にね」
私も手を伸ばし、二人で同時にコアへ触れる。
その瞬間、コアからまばゆい光があふれだし、部屋全体を包み込む。
そして、ピキッとコアにひびが入ったかと思うと、亀裂がコア全体に走り、パキィィン! と砕け散った。
「エレンどうなってんの!? コアが砕けたんだけど!?」
「いや……よく見てアルテナ!」
砕け散ったクリスタルの中から、こぶし大の金色に輝くオーブが現れる。
それは宙に浮いていて、とても神秘的に見えた。
「もしかして、クリスタルはただの外装で、これがコアの本体?」
ゆっくりと手を伸ばし、宙に浮いたオーブを手に取る。
「アルテナ……これとんでもない魔力が内包されているわ……。以前の巨大魔石と比べ物にならないくらい」
「あたしでもわかるわ……。これ、とんでもない代物ね」
慎重にアイテム袋の中にコアを入れる。
「これで、ダンジョン攻略成功?」
「ええ。外装のクリスタルが壊れたのはきっとそういう意味よ」
「……んーーーやったわー!!!」
アルテナが天高くこぶしを上げ喜ぶ。
「はいはい、おめでとう」
「あんたもちょっとは喜びなさいよ! ついにダンジョンを制覇したのよ!?」
「……そうね、でも感慨に耽ってる場合じゃないわ。本当に魔物の暴走が止まったのか、様子を見に町へ戻りましょう」
アルテナもかなり消耗しているし、早くダンジョンを脱出したほうがいいだろう。
その前に探知魔法でよく見ると、砕け散ったクリスタルの破片にも高純度の魔力が宿っていたので、アイテム袋にできるだけ回収しておく。
きっと高く売れるだろう。
「よし、戻りましょう」
「エレン、ちょっと待ちなさい。これ、忘れてるわよ」
「え? ってなにこれ?」
アルテナが指さしたのは、巨大な恐竜のような骨の頭部だった。
私よりもずっと大きく、灰色の光沢があるきれいな骨だ。
「コアを守っていたネクロザルムっていう不死のドラゴンの頭よ。こいつも持って帰るわよ」
「こんなのがコアを守ってたのね……」
頭部だけで私よりずっと大きい。
ていうか不死のドラゴンって……、どんな戦いを繰り広げていたのだろう?
うん、その場にいなくてよかった。
「いくら骨とはいえ、さすがにこのサイズは無理よ。諦めましょう」
さすがにこのサイズはアイテム袋に入らない。
ミラもいないし、持ち運ぶのは無理だ。
「なに言ってんのよ。あたしが不死のドラゴンを倒したっていう証よ。持ち帰らなきゃ気が済まないわ」
「そうはいっても……ん?」
骨の中から高純度の魔力を感じる。
中を覗くと、大きな黒い闇の魔石が存在した。
おそらく、ネクロザルムの魔石だろう。
「これだけならなんとかアイテム袋に入るわね」
「ダメよ、骨も持って帰るのよ!」
「だったらあなたが持ちなさいよ」
「いや……さすがに今のあたしじゃちょっと……」
「はぁ……仕方ないわね。『創造』」
久々に土魔法で荷車と、それを引く複数のアルテナゴーレムを制作する。
「ちょっと!? 何度も言うけどあたしのゴーレムを作るのはやめ……うわ!?」
ついでにアルテナを運ぶアルテナゴーレムも一匹つくり、肩に乗せ運ばせる。
「よし、まずはマルタとミラのところまで行きましょう」
「こらー!! 離しなさーい!!」
アルテナの叫びを無視し、玉座の間を後にするのだった。
ミラがいないのでアルテナゴーレム久々の出番




