161話 影の牢獄
「き、貴様……!? どうやってこの世界に……!?」
ダヴィドが驚愕する。
まあ無理もない。
自分しか入れないはずの世界へ、こうも簡単に侵入されたのだから。
何故私が影の世界に入ることが出来たのか、その理由は二日前に遡る。
その日の夜アーシャさんの家にいた私は、ふと気になったことがあり、当時まだ破壊されていなかった鑑定モノクルを装着し、鏡の前へ立っていた。
「よし、『鑑定』」
気になったこと。
それは鏡越しに自分を鑑定したらどうなるかだ。
単純に鏡が鑑定されるのか、それとも鏡写しで自分を鑑定できるのか、単なる興味本位の実験である。
しかしそれは、意外な結果を表した。
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『鑑定モノクル』
装着するとユニークスキル『鑑定』の魔法を使用できるようになる魔道具。
とても貴重で、そう簡単に手に入らない。
『鑑定』
生物や物体、そしてスキルの情報を得ることができる
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「あれ……?」
鏡でも自分でもなく、まさかの鑑定モノクルを鑑定してしまった。
使用するとき、目に意識を集中したからそのせいかもしれない。
その直後。
「う……」
急に頭痛が発生し、同時に何かの情報が頭に流れ込んでくる。
「これは……魔法の使い方?」
いつも魔法はイメージと感覚で使っているが、それでは構築できない複雑な魔法構築。
頭痛が治まった後、試しにその構築で魔法を使ってみる。
それで発動したのは……『鑑定』だった。
「え……まさか?」
モノクルを外し、その辺の置物に鑑定を使ってみる。
結果……成功した。
「モノクルなしで鑑定を使えた……。 まさか……?」
もしかして……私がユニークスキルを扱う条件って、そのスキルを扱える相手、もしくは魔道具を鑑定し、その仕組みを理解すること?
そう考えると辻褄は会う。
答え合わせができたのは今日、ダンジョンの広場でダヴィドと対峙した時だった。
その時、密かに鑑定を発動し、ダヴィドの情報を見たのだ。
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名前 ダヴィド
年齢 35歳
種族 人間
状態 正常
所持スキル
『影の境界』
薄い空間を隔てた影の世界に入ることができるユニークスキル。
影の世界にいる間は、表の世界と互いに干渉できなくなり、音や気配も遮断可能。
表の世界へ戻るには魔力で繋がっている必要があり、繋がりが切れると帰還不能になる
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(これがダヴィドのスキルの正体……? う……!?)
その時、再び頭に情報が流れ込み、私は『影の境界』を扱えるようになったのだ。
これが影の世界に入れた理由。
そして私がここへ入れた以上、もうダヴィドに逃げ場はない。
『魔力封印』
すかさず、仰向けに倒れたダヴィドに向け、魔法弾を放つ。
ヴェルミナさんから教わった、特殊な呪いの魔法だ。
弾は命中すると黒い糸となり、ダヴィドに絡みついていく。
「貴様……今何を……? う……ま、魔力が……」
「あなたに呪いをかけさせてもらったわ。魔力を封印する……ね」
「なん……だと……?」
フェイスマスク越しでもわかるほど、ダヴィドの顔が青ざめていく。
どうやら、自分の置かれた状況の深刻さを理解できたらしい。
「魔力の繋がりが切れると、あなたは表の世界に帰れないのよね。これでチェックメイトよ」
「ぐ……!? 『影の境界』! 俺を表の世界に戻せ! どうした!? 発動しろ!!」
ダヴィドが手を伸ばし、慌ててスキルを発動しようとする。
けれど、もう遅い。
「無駄よ。とっくに魔力の繋がりは切れてるわ」
「な、何故貴様にそれがわかる……!?」
「当たり前よ。私は魔力が”見える”んだから」
「魔力が見える……だと……!?」
今までアルテナとミラにしか教えなかった探知魔法の原理、ついでに鑑定で『影の境界』を扱えるようになった事実をダヴィドに伝える。
「ば、馬鹿な……。探知魔法だと……? 俺のスキルを真似ただと……? き、貴様は一体……?」
ダヴィドはまるで畏怖するように全身を震わせ、私を見る。
「そんな化け物を見るような目で見ないでほしいわね。ただ器用なだけよ。それに、あなたの敗因は別にあるわ」
「敗因……だと……?」
「ええ、それは……。私を暗殺しなかったことよ」
実際、初めてエミールの屋敷に行った時から、ダヴィドは知っていたはずだ。
自分を探知できる厄介な存在である私を。
だが、知る限りダヴィドは一度も私の暗殺を試みていない。
「それは……貴様を警戒していただけだ。万が一失敗し……、俺の存在を知られるわけにはいかないからな……」
「そう、残念だったわね。私なんて、ゴブリン以下の身体能力しかないのに」
「……は?」
ダヴィドが信じられないという目で私を見てくる。
「本当よ。私のスキルは器用になれる代わりに自力が上がらないっていう迷惑な仕様だから。もし寝込みでも襲われたら、探知できるだけの私は何もできず殺されていたでしょうね」
「……な!?」
ダヴィドの顔が再び驚愕に染まる。
けれど、事実だからしょうがない。
ダヴィドはやろうと思えばいくらでも私を暗殺できたのだ。
ダンジョンの広間でも、マルタではなく、私を狙っていたら殺せていただろう。
あの時が私を殺す、最後のチャンスだったのに。
「礼を言うわ、ダヴィド。あなたが慎重過ぎたおかげで、私は勝つことができたんだから」
「く……」
そう言うと、ダヴィドは全身から力を抜き、ゆっくりと顔を床に伏せる。
「……お前の言うとおりだ。正体がばれる事を恐れ……暗殺を躊躇った。その時点で俺は負けていたということか……。ふ……俺の完敗だ、とっとと捕縛しろ。」
どうやら諦めたらしい。
だが。
「何か勘違いしてるようね。私はあなたを捕縛する気なんてないわ」
「なんだと……? まさか……貴様……!?」
「たとえ捕縛しても、逃げられたら元も子もないわ。あなたを表の世界に戻す気はない。ここでお別れよ」
「な……!?」
そう言って私は、魔導銃を腰のホルスターに収め、ダヴィドに背を向ける。
「ま、まて……! 俺は『王族殺し』だ! そいつを捕まえたとなれば、お前は各国から賞賛され……」
「こっちから願い下げよ」
スキルを発動し、表の世界との繋がりをたどる。
「ふ、ふざけるな……! そうだ、俺には利用価値がある! お前の手足となって働いてやっても……」
「誰が雇うもんですか」
ゆっくりと、私の体が表の世界へと戻っていく。
「お前の望むものをやろう! 言ってみろ! 俺が必ず手に入れ……」
「私が欲しいのは、あなたがいない安心安全の世界よ。さようならダヴィド。誰もいない影の牢獄で、永遠に過ごすといいわ」
最後にそう言い放ち、私は影の世界から消える。
色鮮やかな元の世界に戻る。
そして振り返る。
そこにはもう、ダヴィドの姿はなかった。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
バトルが続きましたが、これにて終了です。
次回からかなり空気が軽くなります。




