159話 勝利の果てに
「あなたの双剣をちょっと貸してくれない?」
昨日の夜エレンにそう言われ渡した結果、光属性を魔法付与された双剣。
死霊系の魔物への対策ってのはわかるけど、赤と黒の双剣に光属性付与ってもうちょっとイメージってもんを考えなさいよ。
まあ、今は許してあげるわ。
こうして切り札になってるわけだし。
「ふ、一気に決着つけさせてもらうわよ!」
翼を切り落としたことで墜落し、体勢を崩した今がチャンス。
光り輝く双剣を構え、ネクロザルムに向かって走り出す。
『グ……調子に乗るな……! 矮小な人間如きが……!』
ネクロザルムは倒れながらも顔を上げ、不死の炎を凝縮した、巨大な炎の球を吐く。
「その程度! 『聖なる十字架』!」
それを見たあたしは一気に炎の球へ向かって跳躍し、炎を十字に斬り裂く。
しかしその直後、ネクロザルムの前足による一撃が上から襲ってくる。
しまった。
炎の玉は視界を隠すための、ただの囮だ。
「やば……うぎゃぁ!?」
空中でよけることもできず、双剣を盾にするも、あたしは前足の一撃で床に亀裂が走るほど叩きつけられ、バウンドしながら後ろへ吹き飛ぶ。
「かはっ……やってくれるじゃない。結構効いたわよ……」
口から血を吐き出しながらも、双剣を杖代わりにし、何とか立ち上がる。
正直油断した。
気絶はしなかったけど、体中が痛いし額から血が絶え間なく流れてくる。
ブルーオーガの棍棒にやられた時よりもダメージがきつい。
『これで最後だ……。ここまで戦った貴様に敬意を表し、我が全力で……貴様を屠ってやろう……!』
ネクロザルムが纏う青白い不死の炎がすべて口内に集中していく。
言葉通り、全力のブレスであたしを消すつもりだ。
けれど。
「なに余裕ぶってんのよ……さっき斬った翼が再生してないわよ……!」
『……っ!?』
ネクロザルムが一瞬動揺する。
再生していないってことはさっきの斬撃が効いたってことだ。
やっぱり死霊系の魔物にとって、光属性の攻撃は弱点らしい。
「クックック、図星のようね。これで最後よ。ここまで戦ったあんたに敬意を表して、あたしの全力であんたを屠ってやるわ!」
さっきの言葉をそっくりそのまま返し、再びネクロザルムへ向かって走り出す。
『死ね……!』
そう言って、ネクロザルムは全力で不死のブレスを吐こうとする。
けれど、そうはさせない。
「邪眼! 『麻痺の邪眼』!」
『……っな!?』
もう一つの切り札、邪眼の力でネクロザルムの動きを止める。
おそらく止められるのは一瞬だけ。
でも、それで十分。
「言ったでしょう! 全力出すってね!」
双剣に魔力を込められるだけ込め、上空へと跳躍。
体を反りながら、思いっきり双剣を両手で振りかぶる。
『……こんなもので……!!』
邪眼の力を振り切り、上へ飛んだあたしに向け再びブレスを吐こうとする。
けれど、もう遅い。
「とどめよ! 『終焉の剣』!」
光り輝く聖剣と化した双剣をネクロザルムに向け投げつける。
流星の如く放たれた双剣は力強く燃え盛る不死の炎を貫き、ネクロザルムの喉を、首を、体をも貫通し、そして床に突き刺さる。
『……が……!?』
そして一瞬の沈黙の後、ネクロザルムの全身から眩い光があふれ出し、そして爆散した。
「ぐ……!?」
爆発の衝撃で吹き飛びながらも体勢を立て直し、床に着地する。
耳鳴りのような静寂が広がる。
爆発の粉塵が弱まり前を見ると、青白い不死の炎が部屋全体に霧散して、消えていく光景が広がっていた。
「やったの……?」
『まだ……終わっていない……』
上から声が聞こえて見上げると、ネクロザルムの頭部が宙に浮いていた。
まだやる気らしいけど、頭部が纏う不死の炎はすでに弱々しく、今にも消えそうだ。
「……その状態で何ができるっていうのよ」
『黙れ……! ぐぅ……』
ネクロザルムの頭部がゆっくりと地面に落ちていく。
どうやら宙に浮く力もなくなったらしい。
『……どうやら……ここまでか。……まあいい。守護者として全力で戦えたのだからな……。悔いはない』
「……ええ、あんたは強かったわ」
ネクロザルムに向けそう言って笑いかける。
エレンの光属性付与が無かったらあたしもやばかったかもしれない。
それだけ強い相手だった。
『ふ……。我の完敗だ。持って……いけ……』
その言葉を最後に、不死の炎が完全に消滅し、沈黙する。
入り口を塞いでいた炎も消え、玉座の上空で淡く輝いていたダンジョンコアが、静かに地上へ降りてきた。
「これで……終わったのね……ぐっ……!」
体中に痛みが走り、思わず膝をつく。
額から血がぽたぽたとたれ、目が霞んでいく。
さっきのダメージが予想以上にきつかったようだ。
けれど、ここで気絶するわけにはいかない。
「早く……ダンジョンコアを……」
まだ終わっていない。
コアを手に入れないと魔物の暴走を止めたことにはならない。
デスサイズを出現させ、杖代わりにして着実に前へ進む。
「もう……少し……クックック」
あたしを町の住人やマルタ、ミラが讃えたり、エレンがひれ伏す姿を想像しながら遂にダンジョンコアの目の前まで辿り着く。
「やったわよ……エレン、ミラ、マルタ……」
しっかりと意識を保ち、ダンジョンコアに手を伸ばす。
その時。
「ああ、お前はよくやった」
「え?」
突如自分の横から声が聞こえたかと思うと、胸に衝撃と鋭い痛みが走る。
「……は?」
自分の胸を見ると、そこには冷たく光るナイフが音もなく突き刺さっていた。
「なん……で……」
訳も分からないままあたしは後ろに倒れた。
「絶望の……始まりだ」
その姿を、ここにいるはずがないクソ暗殺者……ダヴィドが、まるで最初からいたかのように見下ろしていた。




