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15 冒険者登録……出来なかった件

 翌朝、一晩かけて少ない魔力を回復した私は、アルテナと共に冒険者ギルドの前に立っていた。


「クックック、ようやくこの時が来たわね。ていうか何で登録に一日かかるわけ? 普通すぐ登録できるもんでしょう!?」

「厨二モードが最後まで維持できてないわよアルテナ。というか書類なんかの手続きがそんなすぐ終わるわけないでしょう? 漫画やアニメじゃあるまいし。」

「いや、ここ異世界なんだけど……」

「そんなことより私たち手ぶらだけど良いの? 結局昨日は何も準備出来なかったし……私も制服のままよ?」

「大丈夫よ、いきなり遠出する気は無いから」

「へぇ、あなたならいきなりドラゴン退治に行こうとか言い出しかねないと思ってたけど」

「いきなりそんなの受けるわけないでしょ。そういうのは後のお楽しみよ」

「その時が永遠に来ないことを祈るわ……」


 いくらアルテナが強くても私はただの女子高生だ。 

 正直ブレスか何かで死ぬ未来しか見えない。

 たとえ武器を持っていたとしても。


「……」


 自分の腰に目を向ける。

 今私はホルスターに収まった魔導銃を身につけている。

 ホルスターはマテツさんから貰った時一緒に渡された。

 剣の鞘をイメージして作っていたらしい。

 

 これで何処までやれるか……緊張から手汗が滲み出る。

 そして私たちは冒険者ギルドの扉を開いた。


「さあ行くわよエレン! これが冒険者としての第一歩よ!」


 ……そしてギルドの受付にて。


「は? 冒険者登録? 出来るわけないでしょうそんなの」

「はぁぁぁぁぁ!?」


 うん、第一歩を踏み出す前につまずいた。

 さっきの緊張が嘘のようになくなっていく。

 とは言え一体何故なのだろう?

 私はカウンターに座る茶髪の受付嬢、ライラさんに話を聞く。


「何故登録できないんですか?」

「そうよ! 納得のいく説明をしてもらうわよ!」

「はぁ、説明しなきゃわかんないっての? あなたたちの頭はお花畑みたいね」

「何ですって!?」

「あんな馬鹿げたスキル書いといてよくもまぁ言えたものね」

「へ? スキル?」


 アルテナの目がキョトンとする。

 するとライラさんは、昨日書いた書類を目の前に叩きつける。


「何? このスキル『死神』、『獄炎』、『邪眼』って? こんなの聞いた事もないし、そもそもスキル3つ持ちとかそんな貴重な人材が冒険者になんてなるわけがないじゃないの」

「えーー!?」

「はぁ……」


 そういえば、アルテナのスキルは天界のツテで手に入れた専用スキルだった。

 おまけに複数持ちはレアらしいし、ライラさんが信じないのも無理はない。


「アルテナ、これはあなたが悪いわ」

「ぐぬぬ……」


 アルテナが崩れ落ちる。

 だが自業自得だししょうがない。


「何自分は関係ないみたいな顔してるの? 黒髪のお嬢さん?」

「え?」

「あなたね、外れスキルなのは同情するけど、何よこの『器用貧乏・改』って? ちょっとでも見栄を張りたかったんだろうけど、名前ダサすぎ。逆に恥ずかしいわよこれ」

「うぐ!?」


 ライラさんの言葉が刺さり、私も崩れ落ちる。

 心なしか周りにいる冒険者の視線が痛い。


 (違う……これは不可抗力なの……! やめて……そんな目で見ないで……! 私をコイツと同類に見ないで……!!)


 互いに何も言い返せなくなってしまった私たち。

 だが流石と言うべきか、心身ともに丈夫なアルテナが素早く復活する。


 「いーや納得出来ないわ! スキルが本物だって証明できれば良いんでしょう!? 今から教会に来なさい! 視て貰えばすぐにハッキリするんだから!」

「そんな事するまでもないわ。大体そんな余裕は無いし、ギルド職員は忙しいの。あなた達後ろを見てみたら?」

「後ろに何が……げ!?」


 私達の後ろには、冒険者が依頼を受けるために並んでいた。

 そもそも今は朝だ、依頼を受けに行く者は多い。

 イライラした冒険者の、早くどけと言う感情がひしひしと伝わってくる。


「アルテナ、一旦出直しましょう。これ以上は不味いわ」

「嫌よ! ここで引き下がってたまるもんですか! エレンだって嘘つき呼ばわりで良いわけ!?」


 確かにその通りだ。

 このままでは、アルテナと同類の烙印を押されてしまう。

 私もそれは我慢ならなかった。

 

 「ふーん……そんなに冒険者登録したいなら、コレやってみる?」


 ライラさんは、怪しい笑みを浮かべながら一枚の紙を差し出して来る。

 それはギルドの依頼書だった。


「何よこれ? 南の森の調査?」

「そう、ここ最近ルベライトの南にある森付近で、魔物の被害が続出しているの。その原因を調査、及び解決してくれたら、あなた達の登録、考えてあげるわ」


 さて、どうするか……正直言って厄介ごとの匂いがプンプンする。

 おまけに、ライラさんは考えるとは言っているが、登録するとは一言も言っていない。

 そもそも報告しても信じてもらえない可能性がある。

 普通なら断る一択だろう。

 だがそれをアルテナが許すはずもなく……。


「その依頼引き受けたわ!」


 まあ、そう返事することは分かっていた。

 それを聞いたライラさんは、更に怪しい笑みを浮かべる。


「言っておくけど、あなた達はまだ冒険者じゃないわ。この依頼で何があってもギルド側は関与しないし、報酬もない。それでも受けるって言うの?」

「アルテナ、言っても聞かないかもだけど、この依頼かなり怪しいわよ? それでもやるの?」

「クックック、我はアルテナ、いずれ冒険者の頂点になる者。この程度踏み台にもなりはしないわ! 後で吠え面かかせてあげるから覚悟する事ね、おばさん」

「へぇ、口だけは達者ね。期待しないで待ってるわ。」

「よし、行くわよエレン!」

「はぁ……分かったわ」

 

 私達はそのままギルドを後にする。

 その姿を見ていた者達は、笑いを浮かべる者もいたが、同時に同情する者もいた。


 「おい、お前らちょっと待て」


 私たちがギルドを出ると後ろから声をかけられる。

 その人物は昨日アルテナに頭を刈られてスキンヘッドになった冒険者だった。


「あなたは昨日の……」

「悪いことは言わねぇ、その依頼を受けるのは止めろ」

「は? どう言う事よ?」

「いいか、よく聞け。南の森だが、最近そこに行った冒険者パーティが、何組も行方不明になってんだ。おまけに調査目的で行ったやつも、同じ被害に遭っている」

「そんな話、ライラさんはしていなかったけれど……」

「いつもの事だ、気にいらねぇ冒険者に厄介な仕事を押し付け、懇意にしてる冒険者には美味い仕事を紹介する。不満を覚える奴も少なくねぇが、職員としては優秀でな、誰も文句が言えねぇんだ」

「つまり今回の件も……」

「ああそうだ、お前らに情報を隠し、依頼を受けさせたのも、厄介なクレーマーを手早く処理して有能さを見せつける目的だろう」

「誰がクレーマーよ!?」

「いや、はたから見たら完全にクレーマーだったわよ」

「分かっただろう? 冒険者になりたきゃ他の街でやり直せ。まだ間に合う」


 ライラさん、いやライラは思っていたよりヤバい人だったようだ。

 アルテナのイラつく煽りに全く動じなかったのは、私達が生きて帰ってこれない、もしくは逃げ出すと確信していたからだろう。

 それにしてもやっぱりこの人は優しい。

 わざわざ後を追いかけて、止めに来てくれるとは。


「本当にありがとう。でもごめんなさい、多分逆効果だと思うわ……」

「え?」

「クックック、我の華々しい冒険者デビューとして相応しい依頼ね。安心しなさい、我にかかればこの程度児戯に等しいわ」

「こうなるから」

「ああ……」


 どうやらこの人も、アルテナの面倒くささを理解したようだ。


「そういうわけだから私達は行くわ。心配してくれてありがとう」

「……わかった、そこまで言うならもう止めはしねぇ。だが一つだけ言わせてくれ」

「なに?」

「今日聞いたんだがお前、俺の頭について誤解しているようだな。いいか、俺の頭は刈られたんじゃなくて元々……」

「いつまでも話してないでさっさと行くわよ!」


 どうやらしびれを切らしたらしく、アルテナが私の手を掴み引っ張って行く。


「ちょっと! ああもう……ごめんなさい、話はまた今度聞きますので失礼します!」

「お、おい!」


 こうして私達は、冒険者(未登録)としての初依頼に向かった。

 確実に危険が待ち受けている南の森へと……。

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