14 エレン、魔法に挑戦する
異世界二日日目の夜、疲労(主に精神的)で疲れ果ててしまった私は宿屋のベッドに倒れ込んでいた。
アルテナは隣のベットで魔導銃を手に取り眺めている。
その目は怒りと残念さが入り混じっていた。
「ああもう! こんなカッコいいのにあたしに使えないなんて頭に来るわ! これがあんなオヤジの手で造られたってことにもイライラするけど!」
「酷い言われようねマテツさん。でもカッコいいという部分は私も同意するわ」
マテツさんが作った魔導銃は美しい銀色をしており、さらに細かい装飾までされていた。
形的にはオートマチックのハンドガンに見える。映画で見たにわか知識ではあるが。
「こんなカッコいいんだから魔導銃なんてダサい名前じゃなくてもっといいの考えましょうよ」
「例えばどんな?」
「そうね……シルバーライトニングとかどう?」
「悪くは無いけど長い。魔導銃でいいわ」
「えー?」
「銃はこの世界で普及してないって聞いたし、わざわざ変な名前つけなくてもいいじゃない。」
「変な名前って何よもう!」
アルテナが不貞腐れてしまう。
疲れた私はそのまま目を瞑ろうとしたが、ふと頭の中に疑問が浮かび上がる。
「そういえばアルテナ? 普通にその銃持ってるけど気分が悪くなったりはしないの?私は最初不快感が頭に響いてきたんだけれど」
「別に意識しなければ感じないわね。普通そんなもんよ」
「そうなの? あなたの普通は普通じゃない気がするけど」
「あんた、あたしを何だと思ってるわけ?」
言葉通りの意味だけど? と思いながら私はアルテナが持つ魔導銃を見る。
特に何もおかしなところはない。
今度は初めて撃った時のように魔力を意識してみる。
「え……?」
魔導銃の魔力が見えた。いや、アルテナの魔力も見える。
それどころか部屋中に蛍のような淡い光を放つ何かが見える。
恐らくこれも魔力……いや、マナなのだろう。そう感じられた。
「アルテナ、私目がおかしくなったみたい。魔力が見えるわ」
「魔力が見える? 感じるならともかく見えるってどういう事?」
「わからないけどはっきり見えるのよ……魔導銃の魔力やマナが……というかアルテナ」
「なに?」
「あなたの魔力凄いわね」
今の私には、アルテナがとてつもなく濃い光に包まれて見える。
人(神)の魔力を見るのは初めてだがそれでも異常だという事が分かった。
「クックック、まあ当然ね。まだ見せてないけど、広範囲の殲滅魔法だって私は扱えるんだから」
「それで何で魔導銃は扱えないの?」
「うるさいわね! これを扱えるあんたが異常なのよ!」
アルテナに異常扱いされた。
でもアステナが押し付けたスキルのせいだと思うと納得で言い返せない。
「ねぇアルテナ? 私にも魔法って使えるの?」
「魔法?」
魔法を感じる事もできるし見る事もできる。
魔道具も扱えた。
なら自分で使う事もできるのではと思い、私はアルテナに尋ねた。
「普通は魔法関連のスキルを持ってなきゃ出来ないはずだけど、あんたなら使えるかもしれないわね」
「なら使い方を教えてくれない?」
「だったら『教えて下さいアルテナ様』ってしっかりお願いして貰わないと」
「じゃあいいわ、自分でどうにかするから」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
最初から素直に教えてくれたらいいのに。
アルテナの話を聞くと魔法には火・水・風・土・雷・光・闇の7属性が存在して、本人が持つスキルによって使える属性が決まると言う。
逆に魔法関連のスキルがないと、自分で使うのは無理らしい。
発動には自身の魔力が必要で、イメージすれば発動できるとの事だ。
まとめるとこんなところだろう。
うん、テンプレの様な仕組みでわかりやすい。
「つまりアルテナは炎と闇属性の魔法をイメージすれば使えるのね」
「そうよ、こんな感じね」
アルテナは手のひらから、炎の玉を出して見せる。その顔はなぜか得意げだ。
「どう? 分かった?」
「ちょっと、建物の中で火はやめなさいよ」
「え? ああ、そうね」
注意されたアルテナは、すぐに火を消す。
全く、燃え移ったらどうする気なのか……。
「とにかくこんな感じよ。さあやってみなさい」
「ええ、こうかしら……」
私は体内の魔力を意識し魔法に挑戦する。
属性はよくわからないので、とりあえず水の玉をイメージした。
すると……。
「……出来た!」
手のひらから、水の玉が出現した。
形は綺麗に球体をしている。
「あんたやっぱすごいわね、まさか一回で出来るなんて」
「ええ、自分でも驚いたわ……うっ」
急な頭痛と吐き気が襲い、私はベッドに倒れた。
「え? ちょっとどうしたのよ?」
「わからないわ……急に体調が悪くなって……」
「……もしかしてあんた、今ので魔力を使い切ったんじゃないの?」
「え……?」
アルテナによれば、魔力を使い切ると、魔力欠乏症という状態になり、しばらくの間体調を崩すそうだ。
これもラノベでよくある設定ではあるけれど……。
「私の魔力……少なすぎない?」
「あんた、やっぱ貧弱ね」
「うるさい……あ、もうダメ……」
私はそのまま気を失った。
まさか魔法でも自力の無さが響くなんて……。
この時はそう思っていた。私があることに気づくまでは……。




