13 エレン、告白される
店の隣にある以外と広い倉庫、中には所々焦げた跡などが残っており、この中で何があったんだろうと思わずにはいられない場所に私たちは来ていた。
「さて、用意するから少し待ってろ」
マテツさんは倉庫の奥にあった金属製の鎧を持って中央に立てかけた。
どうやらアレが的の様である。
「その武器を使ってあの鎧を撃ち抜いてみろ。それができたら認めてやる」
「クックック、我に不可能などない。1発でその鎧撃ち抜いてやろうじゃないの」
アルテナはカッコつけながら指を引っ掛け銃を回している。
器用なものである。
「やれるもんならやってみろ。俺たちは安全な場所に移動する。その後合図したら撃て」
アルテナの斜め後ろに私とマテツさんは移動する。
「あの、マテツさん? 一つ聞いていい?」
「何だ?」
「あの武器、銃だけど割と普及しているの?」
「銃だと? あれは圧縮した魔力を撃ち出す為に俺が考えたオリジナルの武器だが……既にあったのか、チクショウ……」
なるほど、つまりこの世界では別に銃があるわけではないようだ。
安心したが、マテツさんが誤解して少し落ち込んでしまった。
「あと扱い辛いって聞くけど、魔道具ってみんなそうなの?」
「そんな訳あるか。大抵の魔道具はどんな人間でも扱える代物だ。まあ種類によっても変わるがな」
「魔道具にも種類があるの?」
「大雑把に言やぁ魔石を使うかマナを使うかの違いだな。魔石を使うやつは鉱山、もしくは魔物から取れる魔石を燃料として取り付けんだ。これは魔石さえありゃ誰でも使える。街灯やら街の設備、家具に使われるのが大部分だな」
「マナを使う方は? というかマナって何なの?」
「マナは自然界に存在する魔力の元だな。そいつを吸収して魔力に変換する特殊な加工をした魔石、魔導コアっつうもんを組み込んで半永久的に使える魔道具だ。武器、防具なんかが代表例だな。だが高級な上に魔力のコントロールが求められる。足りなきゃ暴走してさっきみたいな結果になる。そしてあの武器はさらに扱いづらい、なんせ俺が作ったからな」
なるほど、マナを使うのは魔剣とかそう言う類の事らしい。
「でも何で難しい物ばかりを作っているの? 扱いが簡単な方がいいと思うけど?」
「そこらの軟弱もんでも扱える作り方じゃあ大した物にならねぇ、俺は性能重視で上級者向けの魔道具を作るのが好きなんだよ」
「それってただ使用者のことを考えてないだけじゃ?」
「うるせぇ、それよりそろそろ始めるぞ!」
やっぱり頑固職人の様だ。
そうしているうちにアルテナが指定された位置に立ち、銃を向ける。
「待ちくたびれたわ、さあいつでも準備OKよ」
「魔力を圧縮して撃つイメージで使うんだ! ……よし、撃て!!」
マテツさんの掛け声と同時に、アルテナは引き金を引く。
ドォォォォン!!
「ギャァァァ!!」
前方に小規模の爆発が起きたと思うと、アルテナが後ろに吹き飛んだ。
そのまま倉庫の外まで吹き飛び、さっきの男の二の舞となった。
「うん、まあ予想通りね。騒がしくてごめんなさい」
「いや、それはいいんだが……吹き飛んだ小娘は心配しなくていいのか?」
「大丈夫。ああ見えてすごい丈夫だから」
「ちょっとは心配しなさいよ!」
倉庫の外からアルテナが戻って来る。やっぱり丈夫だ。
「何なのよこれ! 中の魔力がごちゃごちゃしてて全然言うこと聞かないじゃない!」
「耐久性と威力に重点を置いてるからな。その分安定性が欠けてるんだ」
「こんなの欠陥品よ! 本当に魔道具職人なの!?」
「なんだと!? 俺は魔道具の理解が深まるスキル『魔具精通』だって持ってるんだ! ここらで俺ほど腕がいい職人はいねぇ!」
「だったらちゃんとしたもん作ってみなさいよ! この欠陥職人!」
「ふざけんな! 扱えねぇテメェが未熟なんだ!」
「何ですって!?」
「二人とも、ちょっと落ち着きなさい」
言い争いを始めた二人を見て、私は仲裁に入る。
「そもそもアルテナ、あなたが勝手に持ち出して勝手に自爆したんでしょう。マテツさんに文句言ってどうするのよ」
「何よ! 本当のことを言っただけでしょう!? ほら、エレンも使ってみなさいよ!」
そう言ってアルテナは私、に銃を手渡して来る。
意外に軽いと思っていると、銃から謎のエネルギーを感じるようになった。
「これが……魔力?」
私は魔法なんて使ったことがない。
だけどこの銃から感じられる事からこれが魔力なのだろうと私は思った。
アルテナが言った通り、ごちゃごちゃしているのが感じられ、それが頭の中にまで響いて来る。
「う……この……静まりなさい……!」
思わず私は銃に向かって命令する。
すると頭に響いていた不快な気分が急に消えていった。
「あれ……?」
再び私は銃を見る。
するとさっきまでごちゃごちゃしていた魔力は嘘のように安定していた。
「……」
私は無言で右手に持った銃を的に向ける。
「え!?」「おい!?」
その様子を見ていた二人は驚き後ずさる。
私は魔力を弾丸の形になるようイメージした。
すると中の魔力はその形へと姿を変える。
私はそのまま引き金を引いた。
バァン!
私が撃った弾丸は金属の鎧を貫通し、さらに倉庫の壁にめり込んでいた。
(撃てた……確証はなかったけど思ったとおりだわ)
実はアルテナが銃を持ち出した時から、自分なら扱えるかもと思っていた。
アステナがここを尋ねろと言った理由、扱いづらい武器、そして押し付けられた私のスキル器用貧乏・改の効果。
それらから私はこうなるかもと予感していたのだ。
(……連射も出来そうね)
バン!バン!バン!
もっと行けそうだと思った私は銃を3発連射する。
私は銃を扱った事がないにも関わらず、狙った場所を正確に撃ち抜いた。
これもスキルの効果かもしれない。
撃ち終わると私は、二人の方に振り向いた。
「撃てたわ、二人とも……」
「凄いじゃないのエレン!」
アルテナは興奮しながら私に駆け寄って来る。
「こんな欠陥品を扱えるなんてさすが我が従者ね!」
「欠陥品はやめなさい、マテツさんに失礼でしょう? ……マテツさん?」
「……」
マテツさんは無言で近づき私の手を取った。
「……なってくれ」
「え?」
「俺の助手になってくれ! オメェに惚れた!」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声が私から出る。
て言うか何だろう……生まれて初めて受けた告白がおっさん相手だなんて全然嬉しくない。
「俺が作った魔道具をいとも簡単に使いこなしたやつは初めてだ! オメェがいれば魔道具の調整も捗る!安定性を兼ね備えた物も作れるかもしんねぇ! オメェが欲しい!」
うん、分かってはいたけど、私と言うよりは使いこなす技術の方が欲しいと言っているようだ。
まあある意味安心したけれど。
「ちょっと待ちなさい! エレンは私の従者よ! 誰があんたに渡すもんですか!」
「オメェみてぇな口だけの小娘と一緒にいるよりはずっといいだろうが!」
「何ですって!? あんたみたいな欠陥職人に言われたくはないわ!」
「誰が欠陥職人だ! と言うかいい加減その呼び方止めやがれ!」
「とにかくエレンは渡さないわ! こいつは私と一緒に冒険する役目があるんだから!」
「そんなどうでもいい役目よりも、魔道具の発展に貢献する方がよっぽど大事だろう!」
……色々言いたいけど、まず私は誰かのものになった覚えはない。
ここは私のために争わないで、とか言うべきなのだろうか?
まるで恋愛もののヒロインのでもなった気分である。
その後、何とかマテツさんに諦めてもらった私たちは、約束通り“魔導銃”と名付けた武器を手に入れ帰路についた。




